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ECB、ユーロ防衛に信認賭ける禁じ手の国債買い入れ

 [フランクフルト 11日 ロイター] 欧州中央銀行(ECB)の国債買い入れ決定は、危機にさらされているユーロを防衛するため、ECBが原理原則や信認を賭ける用意があることを示している。

 5月11日、ECBの国債買い入れ決定は、ユーロ防衛にECBが原理原則や信認を賭ける用意があることを示している。写真はユーロの為替レートを表示する看板。3月にブカレストで撮影(2010年 ロイター/Bogdan Cristel)

 ECBの決定は、ユーロ圏が債券市場の問題一掃のために打ち出した緊急対策の柱の1つだ。ギリシャに端を発した債務問題は先週後半に重大な局面を迎え、ユーロに脅威を与えると同時に世界の金融システムが再び危機に陥るリスクが強まっていた。

 ただ、買い入れ計画の詳細は引き続き不透明で、規模についてのヒントはなく、目標とする償還期限や利回りに具体的目標を設定しているか、どの程度の期間を想定しているかも分からない。

 ECBにとって、長らく続けてきた国債買い入れへの抵抗を放棄し、無節操な政府の歳出を賄うという究極のタブーに危険なほど近づくことは、突然の方針転換と言える。

 フランクフルト大学通貨・金融安定性研究所のステファン・ゲルラック氏は「ECBは壁際に立たされ、銃口を頭に突き付けられていた」と指摘した上で、「ECBは正しい行動をとった。状況を考えれば最善だった」と評価した。

 一方ドイツの保守系日刊紙ウェルトは11日、ECBの独立性の死を悼む死亡記事を掲載し、見出しの下に「ECBは原則を埋葬した」と記した墓碑を載せた。

 ECBにはさらなる問題が待ち構えている可能性がある。

 トリシェ総裁の最有力後継候補であるウェーバー・ドイツ連銀総裁は10日、中銀総裁としては珍しく、ECBの国債買い入れ決定を公然と批判した。

 過去3年にわたる世界金融危機からの回復を経て、ECBがようやく通常の金融政策に復帰するとの期待は、買い入れ決定で霧散した。

 アナリストは、トリシェ総裁が理事会で買い入れに関する協議は行わなかったと明言したほんの数日後に買い入れが決定されたことで、ECBの信認に対する疑念が浮上することも懸念している。

 INGバンクの上級エコノミスト、カーステン・ブルゼスキ氏は「評判に傷がつくだろう。協議しなかったと述べた3日後に実行するとは」と首を振る。

 <細やかな対応>

 とはいえ、アナリストの多くは今回の方針変更を前向きのステップととらえている。ダンスケ銀行のフランク・オランド・ハンセン氏は「ECBが頑迷ではないことの表れ」と評価。ソシエテ・ジェネラルのジェームズ・ニクソン氏も同意し、「いろいろな意味でECBは非常に慎重に行動している。買い入れを不胎化すると表明したことで、(物価安定という)原則を順守しているとも言えるのではないか」と指摘した。同氏の言う不胎化は、国債買い入れに向けた実質的な紙幣増刷のインフレへの影響を中立化する措置を指している。

 ECB理事会メンバーのノボトニー・オーストリア中央銀行総裁は11日、今回の決断についてロイターとのインタビューで、ECBが厳しい決断を下せることを示していると強調した。

 ギャンブルは報われるかもしれない。ただ、10日のユーロ、株価、債券市場の大幅上昇は11日には失速した。

 ノボトニー総裁やエコノミストらは、当初の満足感が薄れたときに厳しい試験が待ち受けているとみている。総裁は巨額の債務を抱えたユーロ諸国が行わねばならない痛みを伴う措置に言及し、「ユーロ支援策は最初の一歩にすぎない。これからつらい道のりが始まる」と述べた。

 <規模は?>

 市場の最も大きな疑問はECBが準備している買い入れ額と実施期間だ。確たる情報がほとんどないため、ECBが現在実施しているカバードボンド買い入れプログラムに多くのアナリストが手掛かりを求めている。

 カバードボンドの担保となる住宅ローン債権などは発行した銀行のバランスシート上に残るため、よりリスクが低いとみられている。コメルツ銀行のマイケル・シューベルト氏は「固まった数字が出るとは考えにくい。ECBは必要と感じたことを実行するだろう」としながらも、「ユーロ圏のカバードボンドの5%程度を買い入れている。同じ比率をギリシャやアイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアの政府債に当てはめれば、およそ1100億ユーロになる」と述べた。

 同氏はまた、ECBが長期のプロセスを覚悟しなければならない可能性があると話す。「ECBはカバードボンドを極めて長期にわたって買い入れている。今回の買い入れも長期にわたる可能性がある」という。

 新規発行額から推定するのも一案だ。トムソン・ロイターのデータによると、600億ユーロのカバードボンド買い入れ計画は新規発行額の約60%に相当する。国債で同じ計算をすれば、約5500億ユーロとなる。シューベルト氏の推定額の1100億ユーロを今年のユーロ圏国債の新規発行見込み額である9150億ユーロに当てはめると12%になる。

 ドイツ連銀のウェーバー総裁は10日、買い入れが極めて限定的に実施されるとの考えを示し、債券市場と金融政策の波及メカニズムの回復を具体的目標に挙げた。

 <痛みを作り出す>

 欧州の法律はECBが各国政府から債券を直接購入することを禁じているため、ECBは流通市場で金融機関や他の投資家から債券を買い取らなければならない。

 トリシェ総裁はまた、インフレ圧力の増大を抑えるため、ECBが資金を再び吸い上げる戦術を使用する可能性も示唆した。総裁は10日、「1つの可能性は定期性の預金だ。運用が単純かつすぐに利用可能性であり、効果的だ」と述べた。ノボトニー・オーストリア中銀総裁はロイターに、ECBは新しいツールを構築することもできると語った。

 エコノミストは、為替介入のように、国債買い入れが市場の投機筋に及ぼす心理的インパクトが要だと話す。ドイツ銀行のギレス・ムーク氏は「中央銀行の介入の手引書は、ある程度の痛みを生じさせなければならないと説いている。負け組が出てくる必要がある。ECBはショートの投機筋に対し、この道が一方通行ではないことを見せつけようとしている」と述べた。

 同氏は為替での戦いに比べて、ECBが勝つチャンスははるかに大きいと指摘する。「為替市場は巨大で、市場の力は計り知れない。勝利するチャンスはかなり小さい。債券市場は別物だ。向き合っている相手についてはかなり良く分かっている」という。

 (Marc Jones記者;翻訳 関佐喜子 ;編集 山川薫)

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