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コラム:スピード違反の円安、2つの期待先行に危うさ=上野泰也氏

[東京 10日] - ドル円相場が上昇余地を断続的に模索している。米連邦公開市場委員会(FOMC)が10月下旬に量的緩和縮小、いわゆるテーパリングのプロセス完了を決めるよりもかなり前という予想以上に早いタイミングだ。

 9月10日、みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、足元の円安はGPIF改革と日米金利差拡大への期待先行によるものであり、いったん円高方向に揺り戻す能性が高いと指摘。提供写真(2014年 ロイター)

先週後半以降のドル円の動きをざっと振り返れば、5日の日本時間早朝、仕掛け的なドル買いから一時105.71円まで上昇。1月2日に記録した年初来の円安値105.45円を突破した。8月の米雇用統計発表後に一時104円台後半まで売り戻されたが、市場のドル買い意欲は根強く、8日のニューヨーク市場で106円台に乗せ、10日の東京市場では午後2時現在106円台半ばで推移している。

今回の円安ドル高局面の根底には2つの「期待先行」があると、筆者は整理している。

まず、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用改革が円売り需要に結びつくという思惑が広がった。具体的には、運用改革積極派として知られる塩崎恭久氏が3日の内閣改造でGPIFを所管する厚生労働相に起用されたことにより、国内株式や外国株式・外国債券の比率を引き上げる方向のGPIF基本ポートフォリオ見直しの「早期実施」期待が強まった。

次いで、日米金利差の拡大を通じて円安が進むとの期待感が急速に広がった。着実な景気回復を背景に米国の利上げが市場のこれまでの想定よりも早く開始されて米長期金利が大幅上昇する一方、日銀の追加緩和観測が再び強まっている日本では長期金利の低位安定状態がこのまま続くとの予想からだ。

むろん、現在の世界経済を見渡した場合、米国経済(および米ドル)の相対的な優位は明らかである。ユーロ圏の景気はウクライナ情勢の影響もあって回復が止まり、日本の4―6月期は大幅なマイナス成長で景気下振れリスクが顕在化し、英国ではスコットランド独立住民投票の行方が不透明さを増している。

消去法で「ドルは買い」となるのは自然の流れであり、これが全般的なドル高局面に結びついている。そうした中であえて対円でドルを買い進む理由は、上記の2点というわけだ。

したがって、今回の円安ドル高局面に持続性が伴うのか、平たく言うと、このまま大きな調整を経ることなく108―110円を目指す「円安の波」が形成されていくのかどうかが、当面の焦点になる。先行した期待に現実の動きがキャッチアップしてくる場合には、このまま円安が進むことになるだろう。一方、期待に現実がキャッチアップしてこない場合には、ドル円はいったん円高方向に揺り戻すことになる。

<GPIF改革めぐる円安期待は行き過ぎ>

まず、2つの「期待先行」のうち、公的年金運用改革について述べると、それが株価上昇や円安につながるとの市場の期待感は、明らかに過大である。

公的年金の運用は国民の大事な財産を預かって行われているわけであり、市場で「高値つかみ」をするようなことがないよう慎重にマネージされるはずだ。委託を受けた運用会社のポートフォリオマネージャーが「上昇相場を作る」ような買い方をして、これに売り向かった海外の短期筋などが結果的に甘い汁を吸うようなことが大規模に起きるのは、当然回避されるだろう。

さらに、GPIFの基本ポートフォリオ見直し問題では、運用資産区分ごとの比率(パーセンテージ)もさることながら、その比率への「移行期間」と「許容かい離幅」が、きわめて重要なポイントになる。要するに、新しい基本ポートフォリオへの移行期間を十分に長くしておき、許容かい離幅も大きな数字にしておけば、日本株や外国資産を短期間で無理に買い増す必要性が薄れるため、その分「高値つかみ」を余儀なくされる可能性も小さくなる。

関係者のコメントを見ていると、話はそうした方向に進みつつあるとの推測は十分可能である。期待先行で日本株買いや円売りが進められた部分は、遅かれ早かれ剥落するだろう。

<年末に向けた日米金利差急拡大は期待薄>

では、米長期金利の上昇を主因とする日米金利差の拡大についてはどうか。こちらについては現時点で明確な結論を出しにくいものの、少なくとも金利差が年末にかけて急拡大するとは考えにくい情勢である。

今月9日、米2年債利回りは早期利上げを警戒して0.56%に上昇し、米10年債利回りは独10年債利回りが1.00%まで上昇するのと連動する形で2.50%まで上昇した。欧州中央銀行(ECB)による量的緩和への過剰な期待から独10年債が水準感を半ば喪失して0.9%割れまで買い進められ、米10年債が2.30%まで急低下した局面が終わったことを、はっきりと印象付ける動きである。

米国と日本の2年債の利回り格差は、9日に0.49%まで拡大した。同日の10年債の利回り格差は1.97%で、節目とみられる2%超えまで、あと一息である。

念のために説明しておくと、2年債利回りはその国の当面の金融政策(政策金利)の方向感を示す代表的な指標の1つとして重要である。また、米国の10年債や30年債の利回り水準や日本との利回り格差は、国内大手生保などが運用先を国内債から米国債にシフトするかどうかを探る上で重要な手がかりになる。

利回り格差が拡大して投資妙味が大きくなれば、日本からの投資マネー流出が増えて、円安が進みやすくなる。米2年債利回りがこのまま強含みで推移し、米10年債利回りが米国のファンダメンタルズに沿った水準とみられる3%以上へと順調に切り上がるならば、ドル円は現在の動きの延長線上で108―110円台を目指すトレンドを形成するだろう。

だが、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長のハト派寄り姿勢、すなわち、利上げを慌てて開始し、それを積み重ねて失敗するよりも、利上げのタイミングやペースが遅すぎて失敗することのほうが、米国経済にとってコストは小さいという基本的な考え方は、今後も変わりがないだろう。イエレン議長がタカ派になびくのではないかというような市場の思惑は、強く否定される可能性が高い。これは米長期金利の一段の上昇を抑制する要因である。

また、米10年債についてはこれまでの相場動向から考えて、2.65%前後で邦銀勢を含む買い需要が厚そうである。この水準を抜けた場合でも、2.75―2.80%を抜けるためには、それなりに大きな材料が必要になる。

さらに言えば、「逆金融相場」入りを警戒して米国株がまとまった幅で調整するシナリオが、年末にかけて意識される。そうなった場合、米国債の利回りは当然上がりにくくなる。決算をにらんだヘッジファンドのポジション手仕舞いの動きも警戒されるところである。

以上のように整理して考えると、先行して広がった期待に対する現実のキャッチアップ度合いが不十分なものにとどまる中で、遅かれ早かれ、ドル円はいったん円高ドル安方向に揺り戻す可能性が高い。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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