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コラム:遠のく日銀追加緩和、クロス円は円高加速か=村田雅志氏

[東京 13日] - 為替市場ではドル高基調が続いている。2月の米雇用統計は、悪天候もあって景気減速感が強まったにもかかわらず、市場予想を上回る好結果。18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利の先行きを示すフォワードガイダンスの「忍耐強くいられる(patient)」との文言が声明から削除され、利上げ開始の準備を進めるとの思惑が強まり、ドル買いの動きを後押しした。

 3月13日、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト、村田雅志氏は、金融政策の違いから、円はドルに対して下落しても、他通貨に対してはさらに上昇する可能性があると分析。提供写真(2015年 ロイター)

3月12日までのドルの年初来上昇率は、対ユーロで12.1%と大きく上昇。新興国通貨では、対ブラジル・レアルで16.1%、トルコ・リラで9.7%、インドネシア・ルピアで6.0%と、ファンダメンタルが脆弱とされる通貨を中心にドルの上昇が目立っている。

こうしたなか、底堅い動きを示しているのが円である。ドルの対円での年初来上昇率は1.2%にとどまる。年初に145円ちょうど近辺にあったユーロ円は、3月10日に130円を割り込み、原稿執筆時点では128円台まで下落。レアル円は年初の45円から38円台まで下落している。

つまり、円は今年に入り、ドルに対して下落している(円安となっている)が、ユーロや新興国通貨の多くに対しては上昇している(円高となっている)。

<背景に金融政策のダイバージェンス>

円がドルを除く通貨に対し上昇している、すなわちクロス円で円高が進んでいる背景には、金融政策の違い(ダイバージェンス)がある。日銀は昨年10月末に予想外の追加緩和を実施したが、その後は金融政策の中心であるマネタリーベースの拡大ペースを年80兆円で維持したままだ。

一方、欧州中央銀行(ECB)は1月22日に資産買い入れ策を決定し、3月9日には予定通り実施。オーストラリアも市場関係者の大方の予想に反し、25ベーシスポイント(bp)の利下げを実施し、政策金利を2.25%と過去最低に引き下げた。新興国ではインドとトルコが2回の利下げを実施したほか、ポーランドも政策金利を過去最低水準に利下げ。シンガポール、インドネシア、中国、タイ、韓国などアジア各国も利下げに動いた。

日銀にとって皮肉なことだが、日本の景気は原油安を起因とした物価の鈍化を受け回復基調が強まっている。2月の景気ウォッチャー調査では、現状判断が50.1と7カ月ぶりに景気判断の分岐点とされる50を超えた。具体的な回答のなかには、ガソリン価格の低下で消費者が少しお金に余裕が出てきた、という指摘もあり、原油安がマインド回復につながったと考えられる。

家計所得も増加基調が強まってきた。1月の現金給与総額は前年比1.3%増と2カ月連続の1%超え。今年の春闘では中心となる電機、自動車でベースアップ(ベア)実施が確実な情勢だ。地方企業や中小企業では賃上げの動きが鈍くなる可能性があるものの、消費税率の影響が剥落する4月以降、実質賃金は前年比でプラスに転じるとみていいだろう。

国内景気の回復基調が強まり、物価動向に大きな影響を与えるとされる家計所得が増加する見込みとなれば、原油安で物価が鈍化を続けたとしても、日銀が追加緩和に動くことは合理性を欠く。4月に統一地方選挙を控える政権・与党としても、日銀にとって都合の悪い物価下落が理由であっても、今の景気回復基調が続くことは望ましく、少なくとも選挙が終わるまで日銀には大人しくしてもらいたいのが本音だろう。

また、選挙が終わった後でも、景気が底堅く推移するのであれば、日銀には2%物価目標に固執することなく、様子見姿勢の継続を望むのも自然である。

こうした状況を察知してか、最近では日銀が年内の追加緩和を見送るとの見方が市場関係者の間で増えている。仮にこうした見方通りとなれば、円はドルに対して下落しても、他通貨に対しては上昇する図式が続くだろう。

ただ、財務省が公表する貿易取引通貨別比率で示されているように、日本の貿易では、輸出の過半、輸入の7割以上がドル建て取引のため、ドル以外の通貨に対して円高が続いても、すぐに日本経済に大きな影響が及ぶとは考えにくい。つまり、今のドル高相場が今後も続くのであれば、たとえ日銀の追加緩和がなくても、国内景気は底堅く推移すると予想される。

こうなると、ドル高相場の前提となっている米FOMCによる利上げ開始観測が、日本の景気の先行きにとって重要となる。今後、米景気の変調などを通じて米利上げ開始期待が後退し、ドル高基調が反転すれば、円の一段高が進み、国内景気の先行き懸念も強まることになる。3月18日の米FOMCは、日本経済の先行きを考える上でも注目される。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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