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コラム:投機筋の買い戻しに耐えた「円安」シナリオ=唐鎌大輔氏

[東京 19日] - 先月28日時点のIMM通貨先物取引状況によれば、円のショートポジションは金額(筆者試算)にして5.73億ドルと2012年10月16日以来の低水準を記録した。直近データである今月12日時点では24.6億ドルとやや膨らんだが、アベノミクス直後のピーク(170億ドル超)と比べれば投機的な円売りはだいぶ後退した印象を受ける。

 5月19日、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は、投機的な円売りが大きく後退したのに、さほど円高になっていないことは、需給面で円売り優勢が続いている証左だと分析。提供写真(2015年 ロイター)

アベノミクスの起点を野田佳彦首相(当時)が安倍晋三首相(現在)に解散を持ちかけた2012年11月14日とした場合、投機筋の円ショートポジションは初めて振り出しに戻ったと考えることもできる。背景にある要因を特定するのは難しいが、あえて指摘するとすれば、まずドル高シナリオへの自信後退、2番目に日銀追加緩和への自信後退などが考えられる。

<ドルロング解消の正体>

年初来から足元にかけて軟調な米経済指標が散見される中で、ドル高シナリオへの自信後退は一理ある。IMM通貨先物取引のポジション動向を見ると、そもそも投機筋におけるドルロングポジション全体が年初をピークとして目減りしつつある。こうした状況下、円ショートの減少は、米連邦準備理事会(FRB)による早期利上げ観測の後退を映じたものという可能性はある(要するに、ドル売りの一環として円買い戻しという解釈)。

だが、今年に入ってからのユーロ、円、ポンドの主要3通貨のポジション動向を見る限り、ドルのロングポジション縮小は基本的に円のショートポジション縮小と裏表だったという印象が強く、ユーロやポンドのショートポジションが拡大傾向にあることでドルのロングポジションが相応に維持されてきたのが実態と見受けられる。要するに、ドル高シナリオへの自信後退というほど、多通貨対比でドルロングの解消が進んできたわけではないのだ。

この点を数字とともに確かめてみたい。IMM通貨先物取引のデータを金額換算にして見ると、対主要8通貨(円、ユーロ、英ポンド、豪ドル、NZドル、加ドル、スイスフラン、メキシコペソ)でのドルロングポジションが直近ピークをつけたのは昨年12月初旬(同月2日時点)で490億ドル程度だった。これが2015年5月12日時点では300億ドル程度と、5カ月余りで約190億ドルのドルロング解消が行われたイメージになる。

この間、上述の主要3通貨に関するポジション動向を見ると、対円では約90億ドルのドルロング解消となる一方で、対ユーロでは約4.3億ドルのドルロング構築、対英ポンドでは概ね横ばい(正確には0.2億ドル程度のドルロング構築)だ。要するに、少なくともIMM通貨先物取引において視認される限りは、昨年12月以降のドルロング解消の正体は、ほぼ円ショートの解消と表裏一体であった疑いが強い(このほか、対スイスフランで約44億ドル、対豪ドルで約38億ドルのドルロング解消が起きている)。

とすれば、年初来顕著に見られてきたドルロング・円ショートポジションの解消は、円(つまり日本)固有の要因が意識された結果である可能性が高い。この際、2番目にあげた要因、つまり日銀追加緩和への自信後退が投機筋の円売り意欲を削いだという論点はやはり無視できないだろう。

昨年来、政府高官によって連呼されてきた円安けん制発言を受けて政府の通貨(円安)政策が変節したのではないかとの憶測は(事実はどうあれ)強まっており、日銀の金融政策運営も影響を受けるという見方は厳然としてある。ドルロング・円ショートポジション解消の背景はドル要因も無関係とは言えないが、円要因がやはり相応に大きいように思われる。

<迫力を欠く円買い理由>

今後の相場を考える上では、2通りの見方がある。1つはドルロング・円ショートポジション解消の流れが続き、早晩ネットで円ロング・ドルショートに転じるという見方、もう1つは軽くなったポジションを前提に再びドルロング・円ショートが再構築されてくるという見方である。

率直に言って、円ロングがネットで増えてくる理由を探すのは簡単ではない。少なくとも日銀追加緩和への自信後退は円ショート縮小の理由にはなっても、円ロングを積み増しする理由としては迫力不足だろう。今後、日本の貿易収支の黒字が常態化したり、あるいは米金融政策の正常化路線が完全に頓挫し、そればかりか「量的緩和第4弾(QE4)」などというワードが浮上してくるようなことがあれば、円がネットでロングに転じる可能性も確かにあろうが、あくまでリスクシナリオの範疇である。

輸入急減による貿易収支改善の動きは今年1―3月期がピークであったように思われるし、この期に及んでFRBが1度も利上げをせずに撤退するという可能性は低い。国内投資家による対外的なリスクテイクも今年度内は強そうである。もちろん、FRBの1回目の利上げが終われば「いつやるか」から「何回できるか」に論点が移るため、その時には先行き不安から円安・ドル高シナリオも曲がり角を迎える恐れがある。

だが、裏を返せば、1回目の利上げが行われるまでは、日米金融政策格差はドル円相場をけん引する材料足り得るだろう。

<ユーロ反騰は続くか>

重要なことは、従前の大きなドルロング・円ショートのポジションが概ね中立まで調整されたのに、この過程でさほど円高進行が見られなかったことだ。これは投機筋における円の先安観が後退する一方で、「安いドル」を欲する主体は依然多く、需給面では円売り優勢の状況が続いていることの証左ではないか。

端的に言えば、2011年以降続く貿易赤字や、足元で意欲的な動きが観測される日本から海外への対外証券投資などが、円のショートポジション巻き戻し(円買い戻し)をオフセットしているということである。一連の調整を経て投機筋の円売り余力が確保されたと考えるならば、やはり現時点でのドル円相場のリスクは上方向をにらんでおいた方が良い。

ちなみに、IMM通貨先物取引に絡んでは円のほかにユーロの動向も注目だ。ユーロのショートポジションは年初来で順当に積み上がってきたが、結局多くの市場参加者が警戒していたパリティ(1ユーロ=1ドル)を攻め切ることはできなかった。円がショートポジションの解消にもかかわらず大して上昇しなかったことと同様、この論点も興味深い。

本コラムでかねてより述べている通り、ユーロは本来、経常黒字と(上がらない物価の結果としての)高い実質金利を背景として上昇する筋合いのある通貨だ。ショートポジションの積み上がりにもかかわらず、下値を攻めあぐねている背景としては、やはりユーロ圏が誇る世界最大の経常黒字などがカウンターとして作用していると考えるべきであり、目先はショートカバー(売り方の買い戻し)に伴う反騰に備えるべきである(実際、最近ではそのような動きが目立ち始めた)。

IMM通貨先物取引の動向を見る限り、足元で多少解消が進んだとはいえ、ドルロング・ユーロショートの規模は依然としてかなり大きい。仮に、米金融政策の正常化路線が本格的に頓挫するようなことになった場合、円相場よりもユーロ相場の上昇の方が、ファンダメンタルズの裏付けが強い分、大きなアップサイドをとる好機があると筆者は考えている。

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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