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コラム:アベノミクス成功を織り込む「ドル円」の上値余地=高島修氏

[東京 28日] - 海外投資家の間では、安倍首相が決めた消費増税先送り解散について、2005年の小泉首相(当時)による郵政解散のような熱狂を期待する向きもある。だが、各種世論調査を見る限り、日本国民は総じて増税延期には賛意を示しつつも、今回の解散・総選挙に大義はないと考えているようで、9年前のような熱気は感じられない。

 11月28日、シティグループ証券・チーフFXストラテジストの高島修氏は、年内に消費者物価ベースの購買力平価水準である125円前後までドル高円安が進んでもおかしくない状況だと分析。提供写真(2014年 ロイター)

一方、経済面では実質国内総生産(GDP)が2四半期連続でマイナス成長となり、形式的にはリセッションに陥ったことから、アベノミクスへの懐疑論が国内外で台頭している。だが、そうした中でドル円相場は120円に迫るドル高円安となっている。

強まるアベノミクスへの懐疑論に対して、このドル高円安はむしろ為替市場がアベノミクスの成功を織り込む動きを見せていることを暗示している。なお、アベノミクスの成功の定義にはいろいろあろうが、ここではひとまずデフレ克服と定義したい。

<レーガノミクスとの類似性>

約1年前にもこの場で議論したが、まず指摘したいのが、アベノミクスとレーガノミクスとの類似性(と相違点)である。安倍首相が最終的に目指しているものは、政策ビジョンを示した著書「新しい国へ」でも明記されている通り、経済の回復ではなく、強い安全保障の確立である。経済回復、デフレ克服はアベノミクスの中間目標に過ぎない。

この点は1980年代の米国におけるレーガノミクスとの重要な共通点である。当時、米国はソ連との東西冷戦、軍拡競争に勝利するという安全保障上の課題を持っていたが、それを達成するには経済が弱く、特にインフレの克服が喫緊の課題となっていた。そこで、レーガン大統領(当時)は自ら強い米国、強いドルの復活を掲げる傍ら、金融政策に関しては、ボルカー議長(当時)率いる米連邦準備理事会(FRB)の超金融引き締め策を黙認した。

ボルカー氏は1971年のニクソンショック(金ドル交換停止)を指揮するなど、米通貨政策のトップを務めた経歴を持つ人物である。このボルカー議長の下での超金融引締め策は事実上のドル高政策であり、ドル円相場は当時250円前後に位置していた消費者物価ベースの購買力平価(73年基準)を超えてドル高円安が進んだ。その結果、米国はインフレという慢性疾患を克服し、経済構造改革も達成。東西冷戦にも打ち勝つことができた。

ドル円はその後、米国の経済政策の焦点がインフレ克服から経常赤字縮小に移り、1985年にプラザ合意がなされたこともあって、95年まで急激なドル安円高を経験することになる。80年代後半以降は、当時200円前後に位置していた生産者物価ベースの購買力平価が今日まで上限(レジスタンス)となり、約30年間にわたって、ドル高円安の行く手を阻んできた。

<購買力平価で見たアベノミクスの評価>

現在、生産者物価の購買力平価は100円に位置している。日米政策金利差がゼロ%の金利環境下で、過去30年にわたって上限となってきた、この購買力平価を超えてドル高円安が進むのは、極めて異例の事態である。

こうした異常事態の発生は、恐らく1970年代から続いた長期ドル安円高トレンドが、2011年から12年にドル円が75円台へ下落したところで、長期ドル高円安トレンドに転換したことを暗示している(11年は東日本大震災、12年は団塊の世代の公的年金受給が始まった、日本にとって非常に重要な年である)。

一方、消費者物価で見た購買力平価は現在125円前後に位置する計算になる。10月末の黒田日銀の追加緩和を受けて120円台に迫るドル高円安は、レーガノミクスの時以来、約30年ぶりにこの消費者物価ベースの購買力平価に達そうとする動きとなっている。

あたかも当時、レーガノミクスが消費者物価ベースの購買力に達するほどのドル高によってインフレを克服したのと同じように、今日のアベノミクスがその購買力平価に達する円安によってデフレという「慢性疾患」(11月5日黒田総裁講演で使われた単語)を克服しようとしているように見える。

奇しくも、アベノミクスのキーマンである日銀の黒田総裁は、財務省で事実上の日本の通貨政策のトップである財務官を経験しており、レーガノミクスのキーマンであったボルカー氏と非常によく似た経歴の持ち主である。

<アベノミクス「第2の矢」は当然の成り行き>

一方、足元では、前述した通り、11月17日に発表されたGDP統計が予想外に2期連続のマイナス成長(テクニカル・リセッション)となったことで、国内外にアベノミクスに批判的・懐疑的な声が強まっている。特に「第3の矢」である成長戦略について中身がないとの批判は根強い。

ただし、1980年代の米国が60年代以降に肥大化した財政赤字という、言わば「政府の失敗」の副産物を克服する必要があったのに対して、アベノミクスが克服を目指しているデフレは、これまで政府の失敗があったことも事実だが、その根本的な原因は80年代後半のバブル形成と崩壊、つまり「市場の失敗」がその底流にある。

レーガノミクスが規制緩和や減税で小さな政府を目指したのに対して、アベノミクスが「第2の矢」で財政刺激策(今回の消費増税先送りを含む)も用いて、拡張色の強い政策を行っているのは、当然の成り行きのようにも思える。レーガノミクスが当時、米国の労働組合を骨抜きにしたのに対して、アベノミクスが政労使会議などで、労働組合を取り込みながら、政府の実体経済への関与を深めようとしているのも興味深い対比である。

<ドル円の下値は最大で110円程度か>

正直なところ、筆者は消費者物価ベースの購買力平価に達するようなドル高円安は2017年までは起こらないのではないかと考えていた。戦勝国である米国が経済政策面でも自由度が大きいのに対して、安全保障面を含めて米国への依存度の高い日本が、円安ドル高を伴うデフレ克服策を遂行するには、そうした政策に対する米国の支持、少なくとも黙認を得ることが必要になるが、対中政策が定まらないオバマ政権の下では明確な対日政策も見えてこないと思っていたからである。

米国が明示的にドル高円安を容認するようになるのは、2017年に誕生するポスト・オバマ政権の誕生を待たねばならないというのが筆者の見解だった。

だが、実際にはドル円はすでに120円に迫るドル高円安となっており、しかも、海外投機筋を含めて市場はまだ相当な円売り余地を残している公算が高い。年内に120円台乗せはおろか、消費者物価ベースの購買力平価水準(125円前後)までドル高円安が進んでもおかしくない状況だ。少なくとも現在100円前後に位置する生産者物価ベースの購買力平価が従来のレジスタンスから長期的なサポートに転換することが期待できる状況になってきている。

今回の消費増税の2017年への先送りで、黒田日銀の金融緩和が早期に打ち切られるリスクは後退し、恐らく18年頃まで継続、場合によっては再度強化される可能性さえ浮上した。FRBの利上げと相まって、これは17年、18年頃まで長期的なドル高円安が進行するとの筆者の相場観を補強するものだ。今回の消費増税先送り、過去数カ月の原油安、追加緩和後の円安はいずれも来年以降の日本の景気下支え要因となる。来年1月の中間評価の際、日銀は従来の経済・インフレ見通しを上方修正することだろう。

今回のドル高円安の流れは、一応はそこまでではないかと思うが、極端なリスク回避相場が発生するような事態が起きなければ、ドル円の下げは最大でも110円程度にとどまることになるだろう。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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