[東京 6日 ロイター] - 欧州連合(EU)が求める緊縮策の是非を問うギリシャ国民投票が5日行われ、予想以上の差で受け入れ拒否が優勢となっている。
市場関係者の見方は以下の通り。
<みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔氏>
為替相場は、いったん急変動した後は比較的落ち着いた状態となっている。欧州中央銀行(ECB)は緊急流動性支援(ELA)枠を据え置く方針だと伝わっている。ELAは、交渉継続が前提ということなので、ひとまず政治動向を見極めたいということだろう。
目先の焦点は7日の首脳会議となる。会議を招集する以上、まだ何らかの芽があるということだろう。ただ、いずれにしても残る時間は7月20日のECB保有の国債償還までの2週間しかない。これが支払いできない場合、ELAは打ち止めとなり、ギリシャのユーロ圏離脱がいよいよ現実味を増す。
アジア時間から株価が下落すれば、ドル/円にとって逆風になる。一方、ユーロは難しい。ショートポジションが積み上がっているなかで、政治サイドが打開策を探ろうとしており、ここからさらには売りにくい。
<JPモルガン・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト 重見 吉徳氏>
予想外の緊縮策反対となった。マーケットはいったん円高・株安のリスクオフに動きそうだ。銀行預金のヘアカットとなれば、ギリシャ経済は大きく悪化するとみられる。EU側がどのように今後交渉していくかも読めず、不透明感の強まりを投資家は嫌うだろう。
ただ、OMT(国債購入プログラム)などECB(欧州中央銀行)の安全網が敷かれており、スペインやポルトガルなど周辺国の金利は急上昇しないのではないか。リスクオフの動きになったとしても、大きな金融危機が起きるとは現時点ではみていない。
<岡三証券 日本株式戦略グループ長 石黒英之氏>
予想外の結果ではあったが、ユーロ/ドルEUR=が前週月曜日の安値を割り込んでいないところをみると、織り込み済みの面もあったのではないか。欧州サイドとギリシャサイドとがあらためて交渉の場につき、事態が進展するとの期待感も出ている。ただ、不透明感は依然としてくすぶり、東京市場で完全に織り込むことは難しいだろう。今晩予定されている独仏首脳会談で、ある程度方向性がみえてくるか注目している。
きょうの日本株は売り先行で始まりそうだが、下値は限られる。CME(シカゴの24時間金融先物取引システム)の日経平均先物は2万0100円台で下げ渋っており、6月29日の安値2万0093円が下値めどとして意識される。
<SMBC日興証券 金融財政アナリスト 末澤豪謙氏>
ギリシャの国民投票では、緊縮策受け入れ反対が多数となり、市場予想の逆の結果になったかもしれない。ギリシャ国民の緊縮疲れが相当根深いものがあったということだろう。
トロイカが提示している緊縮策をギリシャがそのまま受け入れる可能性は低くなった。金融支援の打ち切りが想定できる。そうなると資本規制が長期化するだろうが、政府紙幣などを導入して経済を回していくしかない。ギリシャは緩やかなユーロ離脱への道をたどることになるのではないか。
ギリシャの公的債務は欧州連合(EU)・国際通貨基金(IMF)・欧州中央銀行(ECB)が支援している比率が高いため、ギリシャの債務問題が一気に海外市場に波及していくことはないと思われる。ただ、ギリシャを特別扱いすると、スペインなど周辺国でも反緊縮の勢いが増すことが考えられる。ギリシャには秩序だったユーロからの離脱を促す形になるだろう。
円債市場では、株安が一時的に金利低下につながるだろう。ただ、影響が長期化することはないと考える。
<JPモルガン・チェース銀行 チーフFX/EMストラテジスト 棚瀬順哉氏>
けさのユーロ相場は、1週間前と同様に、ギャップ・ダウンして始まったが、下げ幅は1週間前より小幅なものに留まっている。
ユーロ相場については、短期と中長期に分けて考える必要があるだろう。
短期的には、ギリシャ問題が起きると、ユーロはいったん売られるが、その後まもなく買い戻される傾向にある。これは欧州中央銀行(ECB)の量的緩和に伴う投機筋のQEトレード(ユーロ売り、欧州株買い)の巻き戻しが誘発されるためだ。
中長期的には、国民投票の「NO」を受けて、ギリシャのユーロ離脱の可能性が高まったと言わざるを得ない。
ただ、ギリシャ国内では銀行システムが停止し、国民の不満が一段と高まる可能性がある。そうなれば、政権が不安定化し、チプラス首相が辞任に追い込まれる可能性も高まり、全てが振り出しに戻ることも考えられる。
また、ギリシャがユーロ離脱に追い込まれたとしても、ユーロは変動相場制のもとで、あらゆる可能性を反映させながら、柔軟に動いている。アルゼンチン・ペソのような極端な水準変動を想定する必要はないだろう。
さらに今回のギリシャ国民投票の結果を受けて、ドイツ国債が買われ周辺国の債券が売られると予想される。
ドイツ10年国債利回りが0.60―0.65%まで低下した場合、この金利水準と整合的なユーロ/ドル相場は1.09ドルの後半で、同水準は早朝の段階で既に達成されている。短期的なユーロ下落余地は限定的だろう。
<第一生命経済研究所 主席エコノミスト 田中理氏>
もしギリシャがユーロ離脱となったとしても、各国の財政における負担は2─3%にとどまり、壊滅的な打撃とはならないだろう。現在は、財政危機を食い止める数々の備えがある。以前のポルトガル、スペイン、イタリアなどの財政危機の時のような欧州景気全体への不安にもつながりにくい。ギリシャのユーロ圏における経済ウエートは1%台に過ぎない。
ただし、ユーロ圏から離脱する国が出るのは初めてなので、一体積み木の一つがなくなった場合に、どういう影響が出るかは誰もわからない。ユーロ全体が崩れるのかどうか、不安がどの程度広がるのか、見極めるには時間がかかるだろう。
また、他の財政不安のあるユーロ加盟国に与える影響にしても、ギリシャの状況次第では他山の石として気を引き締めることになるか、あるいはユーロを離脱してもやっていけると受け止めるのかという前例にもなる。ユーロという制度自体の信用に影響するだろう。
<みずほ証券・チーフマーケットエコノミスト 上野泰也氏>
5日のギリシャ国民投票で、緊縮策受け入れ反対票が多数を占めることが確実となった。いったんリスクオフの方向に動くだろうが、7日のユーロ圏首脳会議待ちを控えて様子見ムードが広がるだろう。早朝の為替市場でもユーロが下落した後に戻るなど、そういった動きになっている。
そもそも国民投票は同床異夢。ギリシャ政府側・与党はユーロ圏残留を問うものではないという位置づけで、投票結果を受けてEUなどの債権団にギリシャの交渉力強化されたと説明している。一方、ユーロ圏側は、ユーロ圏残留の可否を決める位置付けをし、ギリシャにプレッシャーをかけてきた経緯がある。
しかし、国民投票結果では予想以上に大差がついたことで、ユーロ圏側の立場が苦しくなった。仮に、ユーロ圏側がギリシャの命綱を切ると、ユーロ圏の政治的な求心力低下は避けられない。ユーロ圏からの事実上の離脱という選択肢があることが明確になると、通貨統合への参加は不可逆的なものではないという見方が広がり、南欧諸国の反EU政党を勢い付かせることになる。金融支援の条件として、財政緊縮も緩む可能性もある。落とし所が見えない状況だ。欧州人の歴史と経験に裏付けられた打開に向けた知恵が問われている。
<クレディ・スイス証券 チーフエコノミスト 白川浩道氏>
ギリシャ問題は結局「茶番」で終わるだろう。もともと離脱の制度が存在せず、学者らが制度を作るべきと主張しているにもかかわらず、この段階になっても議論さえされていないことが問題だ。さらに、欧州連合(EU)がギリシャを突き放せばEU自体への打撃も大きく、支援は続けざるを得ない。
ユーロという制度に、早期警戒システムやサーベイランスといったシステムがないことは制度的欠陥だ。ギリシャのような国がいくつも出てくれば、中長期的にユーロ自体の準備通貨としての信用が低下し、対ドルでのパリティである1.0ユーロを維持できなくなり、ユーロ安が進行していくことになるだろう。
欧州内部では、再び景気が二極化し、財政健全国であるドイツ、オランダの景気が良くなり、財政支援への要請も強まるだろう。これがまた感情的な対立もつながりかねない。さらに、英国のEU離脱のリスクも抱え、欧州は不安定な状況になる可能性もある。
マーケットでは短期的なリスクよりも中長期的なこうしたユーロ信認リスクに注意が必要だ。したがって、中央銀行などの対応も今朝はマーケットに不安を与えないように出しているが、短期資金供給といったような対応が必要な状況ではない。
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