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コラム:円高を誘発するドイツとEUの信用格差=熊野英生氏

[東京 3日 ロイター] 欧州中央銀行(ECB)理事会は2日、政策金利を0.75%で据え置いた。一方、ドラギ総裁は「数週間以内に非伝統的な追加緩和の枠組みを用意する」と南欧国債の購入に踏み切る方針を示唆している。

8月3日、第一生命経済研究所の熊野英生氏は、ECBが南欧国債を大量に購入するようになった場合、ユーロ安が進行し、円高によって日本経済はダメージを受けると指摘する。提供写真(2012年 ロイター)。

利下げに限界が見えたので、次なるECBの緩和は国債購入に踏み切るというのは、ごく一般的な読み筋である。では、ECBが南欧国債を大量に購入するようになった場合、日本経済にはプラスなのか、あるいはマイナスなのだろうか。

<マイナス金利でもドイツ国債に逃避する投資家>

まずは、今起こっている金融の異常事態に触れておきたい。ドイツの債券利回りは、3年以下の年限でマイナス金利になっている。これは、資金を預けた方が利息を支払うという倒錯した世界である。ドイツ政府にしてみれば、利息を受け取りながら資金を借りられるというのだから異常である。

では、なぜマイナス金利でもドイツ国債に投資をしたいという投資家がいるのか。理由は、金融機関の極端な安全志向による。

7月のECB理事会では、政策金利を1.00%から0.75%へ利下げするとともに、預金ファシリティーの適用金利を0.25%から0%に引き下げた。ECBが民間金融機関から受け入れる預金金利を0%にしたことは、民間金融機関からすれば、ECBに0%で貸し付けておくことが望ましいかどうかの踏み絵になったかたちだ。

欧州の民間金融機関は、ECBに0%で預けるよりも、ドイツ政府という「貸し金庫」に資金を入れておく方が、手数料を支払ってでも合理的選択だと考えた訳である。つまり、ドイツのマイナス金利の幅は、ECBのリスクプレミアムが意図せざるかたちで表面化したことになる。

もしも、ECBが南欧国債を大量に買うようになれば、ECBの信用は低下して、ドイツとの信用格差はますます広がることになる。ドイツのマイナス金利は、スペインなど南欧諸国の財政状況に反応して、さらに広がる可能性がある。

<際限なきユーロ安への道>

ドイツの債券利回りが低下することは、ユーロ安要因である。マイナス金利になっているドイツの2年物金利と、米2年物金利の間の金利差は、ユーロ安・ドル高の動きと連動性が高い。ドイツの2年物金利がマイナス幅を拡大させるほど、ユーロが減価するという反応だ。ECBの南欧国債の購入が進めば、ユーロ安が進行することが予想される。

このユーロ安の動きは、円高にも通じる。ドイツ国債への質への逃避は、ユーロ売りの反映であり、その時にはドル買い・円買いの流れが生じている。過去のパターンから言えば、安全志向でドルが買われる時には、同時に円も買われて、相対的に円買い圧力の方が大きくなるために、ドル円レートを円高に向かわせることが多い。

冒頭に記した、ECBが南欧国債を大量に購入した場合に、日本経済にはプラスかマイナスかという問いの答えは、「円高によって日本経済はダメージを受ける」というのが筆者の見解である。

<ユーロ共同債構想はプラスかマイナスか>

次に、ECBの南欧国債購入の先に、欧州連合(EU)がユーロ共同債を発行するようになった場合の日本経済への影響を考えてみたい。

ユーロ共同債の発行は、スペインやイタリアがEU全体で資金調達するようになれば、長期金利上昇に悩まされなくて済むという発想に基づいて期待されている。この政策対応は、イタリアとスペインにとっては都合が良いかもしれないが、ドイツ政府にとっては迷惑な話に思える。

ユーロ共同債の発行は、欧州域内の財政統合へとつながる話であり、ドイツ国民の税金と信用力を他国救済へと流用するものである。ドイツ政府にすれば、税金と信用力を流用されることは、相対的に金利上昇を促すものである。仮に、ドイツ政府が、EU全体の信用リスクを背負い込むと、現在のドイツのマイナス金利すら解消される可能性がある。これは、欧州域内で南欧諸国からドイツに還流していたマネーが、欧州域外に流出するという意味を持ち、ユーロ安要因になる。

そうすると、質への逃避の流れは、ドル買い・円買いへと向い、さらなる円高を誘発することになるだろう。ここにきて国際通貨基金(IMF)は、日本の為替介入に寛容な見方を示すようになっている。介入観測はすでに欧州発の円高圧力に拮抗する力として作用しているが、日本政府も1ドル=77円台へと急伸する円高に対しては口先介入で牽制する姿勢をとらざるを得ないのではないだろうか。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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