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コラム:「円安」が長続きしない理由=佐々木融氏

[東京 25日 ロイター] 今週、ドル/円は7月6日以来、約3ヶ月半ぶりの80円台を回復した。上昇トレンドを始めた10月11日以降2%程度上げているが、実効レートで見れば、ドルは横這いである一方、円は2%超下落している。今回のドル/円上昇は、「ドル高」ではなく「円安」であることが分かる。

10月25日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・債券為替調査部長は、ドル/円の上昇は短期的なものに終わり、来週の日銀政策決定会合前後には反落に転じる可能性が高いと指摘。提供写真(2012年 ロイター)

この「円安」主導の動きの背景には、日本の貿易収支の悪化懸念、対外直接投資に伴う円売り期待、そして来週火曜日の日銀金融政策決定会合における追加緩和期待などがあると考えられる。

しかし、筆者は、今回のドル/円の上昇は今年2月から3月半ばほど大きなものとはならず、比較的短期間で反落するのではないかと見ている。以下、その理由を順を追って説明したい。

<追加緩和は織り込み済み>

まず、今年2月から3月半ばの相場をおさらいしておく。

ドル/円は同期間中に84円台まで約10%急上昇したが、この時も実はほぼ同じ理由で円安主導の動きとなった。2月8日に2011年の日本の貿易収支(国際収支ベース)が48年ぶりの赤字となったことが改めて確認され、翌週2月14日には日銀が資産買入等基金を55兆円から65兆円に拡大すると予想外の発表をした。

こうした要因を背景に、ドル/円は2月1日の76.03円(年初来最安値)から3月15日の84.18円(年初来最高値)まで10%程度上昇した。この1カ月半の動きも「円の独歩安」となっており、円はこの期間中2番目に弱かったニュージーランド・ドルに対してさえ8%も下落している。

もっとも、ドル/円は3月半ばに84円まで上昇した後、6月初めまでの2ヶ月半で77円台に反落した。この時の動きも完全に円主導となっており、実効レートで見ると円は2月から3月半ばまでの下落をほとんど帳消しにするほど回復した。日本の貿易収支は3月、4月、5月と赤字が拡大を続け、さらに日銀は4月27日にも資産買入等基金の5兆円拡大を発表したが、それでも円の反発は続いたのである。日銀の緩和期待と貿易収支の悪化懸念は、2月から3月半ばの円安の背景として説明できるが、3月半ばから5月末にかけての円高の要因にはならない。

次に、米国に目を向けると、この時期の円の上下動を両方とも説明できそうな要因がある。それは米長期金利の動向だ。

2月から5月までのドル/円の上下動は、日米の2年国債利回り差の動きに概ね沿ったものとなっている。この間の金利の動きを見てみると、2月の日銀による追加緩和発表を受けて日本国債利回りは3ベーシスポイント(bp)ほど低下したが、2月から3月半ばにかけての日米金利差拡大は主に米国債利回りの上昇に拠るところが大きい。

米2年国債利回りがこの時期に大きく上昇したのは、2月3日と3月9日に発表された米雇用統計が予想を上回ったことが大きく影響しており、この間に米2年国債利回りは18bpも上昇した。その後4月6日に発表された米雇用統計が予想を大きく下回ると、金利は大きく反落し、日米金利差は急速に縮小し、ドル/円も反落したのである。

長期的に見ると、円は米長期金利と緩やかな逆相関関係がある(こうした相関はオプション市場における取引が影響していると考えられている)。実際、円は2月から3月半ばにかけては米長期金利上昇に沿って下落し、3月半ばから5月末にかけては米長期金利低下に沿って上昇している。

では、こうした過去の流れを念頭に置いた上で、今後のドル/円の行方を占ってみよう。

まず重要なことは、来週の日銀の追加緩和はすでに相当程度織り込まれているということである。2月の緩和はサプライズだったが、来週の追加緩和はすでに期待が十分高まり、それを見越した円売りも相当程度出ていると考えられる。名目金利がゼロの状況下で、日銀がいくらバランスシートを拡大しても、それが期待インフレ率の上昇に繋がらなければ、為替相場に対する実質的な影響はほとんどない。

たとえば、2010年10月以降の2年間の動きを見ると、日銀の総資産額の対GDP比は25.3%から32.1%へと6.8%ポイント拡大したが、同期間の米連邦準備理事会(FRB)の総資産額の対GDP比は15.9%から18.6%へと2.7%ポイントしか拡大していない。

量的緩和や中央銀行のバランスシート規模が、名目金利ゼロの状態でも為替相場に影響を与えるのであれば、過去2年間のドル/円相場は円安方向に振れていなければならないことになるが、実際にはむしろ若干円高となっている。つまり、日銀による国債購入は為替相場に実質的な影響を与えていないと考えられる。したがって、思惑によって売られ下落した円は、利益確定のために買い戻され上昇することになるのだ。

また、今回は2月から3月とは異なり、米2年国債利回りがこれ以上大きく上昇するとは予想し難い。当時とは違い、最近の米雇用統計は概ね予想通りの結果となっている。市場関係者の大半も、FRBが声明で述べているように、例外的に低い政策金利が2015年半ばまで続くと予想している。よって、米2年国債利回りの一段の上昇による円安も期待できない。

<ドル/円は年末までに再び77円台も>

貿易赤字基調だけに着目して円安が進むと読み解くことにも疑問を持っている。貿易収支の赤字化は確かに円にとってネガティブだが、この負の部分は所得収支の黒字、海外投資家による本邦債券の購入に伴う円買いによって相殺されてしまっていると考えられる。国際収支ベースで見ると、今年1月から8月までの貿易赤字は3.4兆円であるが、所得収支の黒字は10.1兆円、海外投資家による日本の債券投資は6.1兆円に上っている。

また、対外直接投資に絡むフローについても、以前ほど円売りのフローを伴わなくなっていると考えている。現在は、円だけではなく、ドルやユーロ、ポンドの金利もかなり低くなっている。わざわざ為替リスクをとって投資をするより、外貨を借り入れて投資を行う方が合理的である。

こうした諸要因を勘案すると、結局、ドル/円の上昇は短期的なものに終わり、来週の日銀政策決定会合前後には反落に転じる可能性が高い。

筆者は、FRBが量的緩和を実施している間はいわゆる「リスクオン」の環境が続き、円とドルの双方が弱くなることからクロス円は円安方向に上昇すると予想している。ユーロ/円のターゲットは引続き105円である。もっとも、ドルは円よりも弱くなるため、ドル/円はドル安・円高方向に下落すると見ている。ドル/円は年末までに再び77円台に戻ると予想している。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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