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コラム:2013年の「最強通貨」はユーロか=佐々木融氏

[東京 10日 ロイター] 来るべき2013年の為替相場動向を予想する上では、世界経済がどのような状況になるかを考える必要がある。JPモルガンは、来年の世界経済成長率は今年と同水準の2.4%になると予想している。これは、リーマンショックで大きく落ち込んだ08年と09年を除いた過去10年間の成長率平均(3.1%)と比べても低い。

12月10日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏は、来年は投資家のリスクテイク嗜好が強まる中、ユーロ/円が115円程度まで上昇する可能性も十分にあると指摘。提供写真(2012年 ロイター)

12年に予想以上に鈍化した中国、ブラジル、インドの成長率は13年には騰勢を取り戻す見通しだが、財政引き締めの影響を受ける米国の成長率鈍化(12年は前年比2.2%、13年は同1.7%)が世界経済の足を引っ張りそうだ。もっとも、米国が財政の崖、債務上限問題を無難に切り抜けられれば、世界の金融資本市場は全体的にリスクオン(投資家が積極的にリスクをとりに行く状態)になるのではないかと予想している。その重要な根拠は、全体的なボラティリティの低下傾向にある。

10年から12年までの3年間は、欧州周辺国の債務危機に振り回され続けた。今年もギリシャやスペインの問題などで市場がリスク回避的になってもおかしくない状況が続いたが、投資家の不安心理を示すシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ・インデックス(VIX指数)は10年と11年のピークである46―48に対して、今年は28程度までしか上昇しなかった。

また、通貨のボラティリティの低下も顕著で、JPモルガンが先進国通貨の3か月物インプライド・ボラティリティを加重平均して算出した指数は、円キャリー・トレードが盛んに行われていた07年以来の水準まで低下している。ちなみに、主要エマージング通貨の3か月物インプライド・ボラティリティを加重平均して算出した指数は、先進国通貨のボラティリティを下回っている。05―07年当時とは異なり、他国の金利が非常に低水準となっているため、円キャリー・トレードが盛んになる状況にはないが、ボラティリティが低い環境では、投資家がリスクテイクを行いやすくなるため、株、エネルギー、コモディティなどに資金が向かい、そうしたリスク性資産の価格が上昇する可能性は高い。

こうした環境下では、資本調達通貨である米ドルと円が弱くなる一方、資本が向かう先となるオーストラリア(豪)ドルやニュージーランド・ドル、カナダ・ドルなどのコモディティ通貨やエマージング通貨などが強くなる傾向がある。つまり、米ドル/円以外のクロス円では円安になりやすいということだ。

ただし、日銀にプレッシャーをかける自民党の安倍晋三総裁発言と追加金融緩和期待で、円ショート・ポジションが非常に大きく積み上がっている足許の状況から鑑みると、年末から年初に向けていったんは円が全般的に買い戻されることが予想される。クロス円でも円高となるだろう。つまり、年末から年初にかけて円高が進んだタイミングで、米ドル以外の通貨に対して円を売る戦略は有効だと考えられる。

米ドルは主要通貨の中で最も弱い通貨となることが予想されるため、弱い円に対しても弱含み気味に推移するだろう。世界最大の経常赤字国・対外純債務国である米国がゼロ金利政策と量的緩和を継続する状況下で、投資家のリスクテイク嗜好が強まると、米ドルは円以上に資本調達通貨として最適となる。

先週発表された11月の非農業部門雇用者数の増加幅は14.6万人とコンセンサス(8.5万人)を大きく上回ったが、これは主に「ハリケーン・サンディ」の影響が予想外に小さかったためであり、米国の雇用市場の回復が引き続き緩やかであること以上の変化を示したわけではない。米非農業部門雇用者数はリーマンショック後の08―09年の2年間に866万人も減少したが、その後現在までの3年間で453万人しか増加していない。今後も米連邦準備理事会(FRB)による積極的な金融緩和は続き、米ドルの上値を抑えるだろう。

<115円前後へのユーロ高も十分あり得る>

このように世界の金融資本市場がリスクオンの状態になる時、主要通貨では豪ドルが最も強くなる傾向があるが、13年は豪ドルではなくユーロが最も強くなる可能性があると見ている(つまり、豪ドル/円でも円安が進むが、ユーロ/円での円安の方が動きは大きくなる)。

ユーロは10―11年と2年連続で主要通貨の中で最弱通貨となった後、12年は今のところ円の次に弱い通貨となっている。ここ数年、欧州周辺国の財政問題の高まりを背景に、世界の投資家はユーロやユーロ圏の債券をかなりアンダーウエイトにしていると考えられる。欧州中央銀行(ECB)が新たな国債購入プログラム(OMT)を発表して以降、ここ3年弱のトレンドは大きく転換している。欧州周辺国の長期債利回りの対独スプレッドはピーク時の約半分程度まで縮小している。いったんユーロの買戻しが始まると、流れが加速する可能性がある。

特に過去3年間、投資家のリスク回避志向が強まると、通常最も弱くなるはずの豪ドルが比較的強い通貨となり、ユーロが最も弱くなるという現象が頻繁に起きた。背景には、世界の投資家がユーロ売り・豪ドル買いを行ったことがある。ユーロ/豪ドル相場は現在でも1999年のユーロ導入時以来最低水準に近いレベルにあり、08年のピークからは40%も低い。今後はユーロの買戻しが進む中で、豪ドルが売られやすくなると考えられる(とはいっても、米ドルや円よりは強くなると予想される)

基礎的な経済統計に目を向けても、ユーロ圏のベーシックバランス(経常収支、直接投資、株式投資などのフローを勘案したバランス)は日米英ユーロのG4の中で最も良くなっている。日本や米国のバランスが悪化したという相対的な理由もあるが、ユーロ圏のバランスが最も良くなったのは過去10年間で初めてである。独DAX株価指数が先週、終値ベースで約5年ぶりの高値を更新したことも、ユーロ圏のベーシックバランスの好転を示唆しているかもしれない。

また、前述の通り、米ドルが弱くなると予想されることもユーロを押し上げる要因となる。ここ数年、ユーロ/米ドル相場はユーロの要因で動くことが多かったが、本来ユーロ/米ドル相場は総じて米ドル主導で動いてきた。ユーロ圏の情勢が落ち着く中で、米ドル安の動きが強まると、ユーロ/米ドル相場が予想以上に押し上げられる可能性がある。この時、ユーロ/円相場も同様に大きく上昇すると予想される。

むろん、欧州周辺国の問題は解決したと言うには程遠く、来年第1四半期に予想されるイタリアの総選挙やギリシャに対する支援問題をきっかけに、投資家のリスク回避志向が再び高まる可能性は否めない。ただ、全体的なボラティリティの低下傾向などに鑑みるに、来年のユーロ圏情勢が安定的に推移するという前提で言えば、ユーロ/円相場は115円程度まで上昇する可能性も十分にあると考えられる。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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