[ロンドン 17日 ロイター] 16日の衆院選で日銀の大胆な金融緩和や公共投資拡大などを掲げた安倍晋三総裁率いる自民党が大勝したが、海外エコノミストは、自民党の政策方針では、ここ10年弱で世界経済の主役から端役に後退した日本経済を浮揚させることはできないとみている。
安倍総裁が約束した日銀の無制限の金融緩和については、「すでに主要国中央銀行の流動性供給でカネ余りの状態だが、日銀がさらなる緩和に踏み切ればリスク資産にとってプラス」というHSBCグローバル・アセット・マネジメント(ロンドン)の投資戦略グローバルヘッドのフィリップ・プール氏のような見方もあるが、財政出動や金融緩和ですべて解決すれば、そもそも日本が不況にならなかったはずだ。
キャピタル・エコノミクス(ロンドン)のチーフインターナショナルエコノミスト、ジュリアン・ジェソップ氏は、投資家は期待し過ぎかもしれないと指摘。1%というインフレ目標さえ達成できていない状況で、安倍総裁の2%目標など意味がない、という意見だ。
加えて、自民党政権時代の日本は不動産・株バブルの崩壊に見舞われ、長期のデフレに陥った。「完全には可能性を否定しないが、政策の大転換が起こることにやや懐疑的だ」とジェソップ氏はみる。
<高齢化の足かせ>
日本の労働年齢人口は、バブル崩壊直前の1980年代終わりにピークを打ち、2000年代になって減少傾向をたどっている。
消費が低迷し、企業が設備投資に消極的になった。現在最大0.5%とみられている日本のトレンド成長率はマイナスになる可能性も指摘される。
高齢化問題を抱えるドイツのメルケル首相は17日付の英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙に掲載されたインタビューで、「欧州は現在、世界人口の7%強を占め、世界の総生産の約25%を生産、世界の社会保障費の50%を拠出しているとすると、それを今後維持するのは相当大変だ」と語った。
メルケル首相は再三ユーロ圏に財政緊縮と大胆な改革を訴えている。それが求められているのは日本だという声も聞かれる。
シティグループ(ニューヨーク)のネイサン・シーツ氏によると、日本の総労働時間は20年間で15%も減少した。米欧は増えているにもかかわらずだ。
日本の女性の労働参加率は米欧のレベルまで上がったが、労働年齢人口は政府の予測でこの10年に9.4%減少した。労働人口の減少を補うべき外国人の就労は厳しく規制されている。
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(ロンドン)のジム・オニール会長は「労働力を増やしたいかどうか。この質問に日本はこれまでのところノーと答えている。それが成長の決定因子だ」と指摘。
オニール氏は、日本が債券市場からプレッシャーを受けていないことから、安倍総裁はアイルランドやポルトガル、スペインが進めているような生産性向上や成長促進のための厳しい構造改革を断行する気はないとみている。
しかし、オニール氏は日本の状況を見ていると、素朴な疑問を持つという。それは「すでに富裕な社会が、新たに台頭したライバルに対する優位を維持するため、わざわざ苦痛を伴う改革を断行して名高い社会的調和を乱す必要があるのか」という問題だ。
日本は過去20年、米国やユーロ圏ほどでないにしても1人あたりGDPを増やし続けてきた。失業率は格段に低い水準を維持している。
オニール氏は、市場が容認する限り、日本が「ハッピーな不況」を堅持するのは理にかなっているのかもしれない、という結論に至ったとしている。
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