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コラム:「1ドル90円」を阻む反動の正体=亀岡裕次氏

この3ヵ月余りの間に対ドルで10円以上の円安が進行した。この大部分は、政府・日銀が連携したデフレ・円高対策への期待によるものと言えるだろう。

1月16日、大和証券・チーフ為替ストラテジストの亀岡裕次氏は、「日本の政策期待拡大の反動」と「ミニ財政の崖による米景気鈍化」により、円安進行は短期的には一服する可能性があると指摘。提供写真(2013年 ロイター)

2%のインフレ率や3%の名目成長率を目指し、政府が公共投資などで需要を喚起しつつ、日銀が量的金融緩和を強化するとの見通しが、円供給拡大期待やリスク選好効果による円安を招いた。最近10年間の平均で消費者物価指数(CPI)の前年比がわずかながらマイナスの日本が、2%のインフレ率を達成するのは容易ではない。だからこそ、日銀はこれまで以上に大規模な量的緩和が必要になり、それによって円安が引き起こされるとの期待を連想させたのだろう。

また、この数ヵ月間、世界的にリスク選好に傾いたことも円安を促進した。低金利通貨である円は、もともとリスク選好下で最も売られやすい通貨だが、政策効果による円安進行への期待が増したために、なおさらリスク選好下で売られやすくなった。ドルは円以外の通貨に対しては総じて下落しており、決して「ドル高」ではない。リスク選好下での「円安」と言う方がふさわしい。つまり、円は金融緩和強化への期待とリスク選好の複合効果によって下落したのである。

<政策期待はピークアウトか>

しかし、円安進行は短期的には一服する可能性がある。第一には、日銀の金融緩和への期待がさらに膨らむとは考えにくいからだ。

資産買い入れ基金を増額しても、日銀が民間金融機関から資産を買い入れるペースには限界がある。たとえインフレ目標の達成や雇用拡大が見込まれるまで「無制限に資金供給する」として資産買い入れを拡大していくとしても、期限を設けずに買い入れ期間を延ばす方式となるだろうし、買い入れペースを無尽蔵に拡大できるわけではない。また、「貸出増加を支援するための資金供給」は、あくまでもそれを希望する金融機関に対するものであるから、やはり資金供給増には限界がある。

1月21―22日の日銀金融政策決定会合で「2%のインフレ目標」が導入される可能性は高いが、現実的に考えると、「今後2年以内」などの具体的な目標達成期間を設けて、それが達成できない場合に日銀が責任を負うようにする可能性は低い。米連邦準備理事会(FRB)の「インフレ率の長期的なゴール」のように「中長期的なインフレ目標」とし、責任はあくまでも説明責任にとどめるのではないか。

中長期的にはインフレ期待がある程度高まることで通貨安要因となる可能性はあるものの、短期的に円供給が急増してインフレや通貨安を招くとの期待はピークアウトし、金融緩和強化期待による円安が一服すると考えられる。

<一時的にリスク選好の後退も>

円安一服につながる第二の理由は、リスク選好が一時的に抑えられる可能性があることだ。

米「財政の崖」は大部分が回避されたが、すべてが回避されたわけではない。給与税減税打ち切り(税率2%上昇)、富裕層増税(年収40万ドル超の個人または45万ドル超の世帯の所得税率、キャピタルゲイン・配当税率、遺産・贈与税率の引き上げ)などにより、米国経済に1000億ドル超のマイナス効果が生じるとみられる。

一方、大きな崖が回避されたことで、抑制されていた投資や雇用が顕在化するプラス効果もあろうが、効果が拡大するのは、2カ月延期された歳出強制削減や債務上限引き上げの問題が解消されてからだろう。13年当初はマイナス効果がプラス効果を上回り、米経済はやや減速する可能性がある。

世界的に12年10―12月期は経済指標の実績が予想を上回る傾向となり、ポジティブ・サプライズがリスク選好に作用したが、13年1―3月期は米経済指標の改善傾向が弱まることとなり、ネガティブ・サプライズがリスク回避に作用する可能性もある。日本のように公共事業への財政支出拡大が景気回復に働く国もあるだろうし、すべての国で経済指標が鈍化するわけではないにしても、米国などのリスク回避の動きが低金利通貨の円を買う(円高)要因になるだろう。

つまり、急速に進行した円安は、「日本の政策期待拡大の反動」と「ミニ財政の崖による米景気鈍化」により、一時的に調整されることになるのではないか。

ドル円との相関が高いドル1年OIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ:一定期間の翌日物加重平均金利<複利>と固定金利を交換する金利スワップ取引)金利の現水準からみると、ドルは76―84円にあるケースが多いが、実際には89円台まで上昇した。米金利の変動が小さいなかで、政策期待などによって円安が進み、5円以上の円安プレミアムが生じた。

ドル円の200日移動平均値から標準偏差の2倍分だけプラスに乖離した水準は88円台半ばであり、それを大きく超える確率は低いと考えられる。今後、デフレ・円高政策への期待が消えてしまうことはないにしても、期待による円安が後退する可能性とリスク回避で円高が進む可能性を考慮すべきだろう。

<中長期では1ドル=100円台も>

特に1―3月期の米景気減速を織り込む2月、3月頃には、円安が進みにくいだろう。当面のドル円は、85―90円程度のレンジで推移するのではないか。しかし、その後は米景気回復とともに再び円安基調が明確になると考えられる。米財政の不透明感解消のプラス効果が増税のマイナス効果を上回るようになる可能性が高いことに加え、資産効果(住宅価格や株価の上昇)による個人消費の拡大も期待できるからだ。リスク選好(資産効果)と景気回復が相乗作用を及ぼしながら強まっていき、円安が進むだろう。

雇用改善が進むにつれて、失業率が14年末までに6.5%を下回るとの観測が高まり、13年後半にはFRBが資産買い入れを緩和あるいは停止し、14年末までに利上げが行われるとの期待が生まれる可能性が高い。1年後の利上げが予想されるとともに、ドル1年OIS金利が0.3%(円1年OISとの差が0.25%)に上昇し、ドルは95円程度に達することになろう。

日米購買力平価からみれば、中長期的には1ドル=100円に達する可能性も十分にある。米国において、エネルギーコストの低下による成長率の高まり(物価上昇の抑制)や、エネルギー輸入減少による貿易収支の改善があれば、なおさらドル高・円安が進みやすいだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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