[ロンドン 17日 ロイター] ユーロ圏財務相会合がまとめたキプロス金融支援策に、銀行預金への課徴金という異例の措置が盛り込まれたことについて、市場関係者の間では「危険な前例」になりかねないとの懸念が浮上している。
ユーロ圏財務相会合は15日夕方からの徹夜の協議の末、100億ユーロ(130億ドル)のキプロス支援策を決定。預金者から最大約10%の課徴金を徴収する。
欧州中央銀行(ECB)は、必要な場合無制限の国債買い入れを実施する意向を示しているが、市場では、将来別の加盟国の支援が必要になった場合、再び預金者が負担を強いられるのではないかとの懸念が浮上。
キプロスは金融支援がなければ、デフォルトするとみられ、ユーロ圏に対する投資家の信認が再び揺らぎかねない事態となっている。
ニューエッジ・ストラテジーのアンナリーザ・ピアッツァ氏は「前例のない極端な措置だ。ユーロ圏周辺国が多少パニックに陥るだろう。資本流出の可能性も否定できない」と指摘。
「目先、周辺国の(国債利回り)スプレッドに一定の影響が出る。ユーロ安進行の可能性も否定できない」と述べた。
<議会審議の行方は不透明>
金融支援策の発表を受け、キプロスでは現金自動預払機(ATM)から預金を引き出す動きが広がり、ATMの資金は多くのケースで数時間で枯渇した。
大半の預金者は16日午前以降、預金を引き出せない状態で、今後混乱が広がる可能性もある。
ユーロ圏当局は、キプロスからの資金流出の兆候がないか監視する意向を示しているが、資金流出があった場合の具体的な対応策は示していない。
ECBのアスムセン専務理事は16日、「我々にとってキプロスはシステム上重要だ。経済規模は小さいが、混乱が生じれば、昨年大きく進んだユーロ圏の安定が脅かされる恐れがある」と述べた。
キプロスでは18日が銀行休業日となり、即座の反応は限られる見通し。議会が金融支援策を承認すれば、19日に課徴金が適用される。
ただ、議会が支援策を承認するかは不透明。承認できない場合は、デフォルトへの懸念が強まるとみられる。
議会では17日に支援策をめぐる審議が予定されていたが、事前の調整が必要として、18日に延期された。
アナスタシアディス大統領は議会に支援策承認を求めているが、絶対多数を握る政党はなく、すでに3党が支援策を支持しない意向を示している。
JPモルガンのアナリスト、アレックス・ホワイト氏は「与党が自信を持って期待できる賛成票は(56議席中)26─28票程度だろう。野党は26票前後の反対票を確保できるとみているのではないか」とし「非常に僅差で、現段階では予想がつかない」と述べた。
<スペインが試金石に>
これまでのところ、キプロス以外の欧州諸国では目立った混乱はみられない。
バンク・オブ・キプロスBOC.CYは、英国のウェブサイトで、キプロスの銀行の海外支店には課徴金は適用されないと説明。スペイン中銀も、スペインからの資本流出の兆しはないとしている。
バークレイズは「過去の支援プログラムで、今回と同じ措置がとられていれば、預金流出や国債下落が他の周辺国に波及していたかもしれないが、それに比べれば、影響はかなり限られるだろう」と指摘。「ギリシャを含め、周辺国の預金流出の可能性は低いとみている」と述べた。
ただ、市場には不安が広がっている。
チェコの元経済相で、現在はゴールドマン・サックスの国際アドバイザーを務めるウラジミール・ドロウヒー氏はロイターに「ドイツなど欧州北部の有権者が一定の負担を求めるのは理解できる。ただ、事実上預金の1割を没収するというのは、危険な前例だ」と指摘。「混乱が深まれば、5割没収といった話にもなりかねない」と述べた。
キプロスの混乱が他国に波及するかは、スペインが試金石になるだろう。
欧州中央銀行(ECB)の最新統計によると、1月のスペインの預金残高は横ばいで安定。スペインは昨年、国内銀行向けに400億ユーロの金融支援を受けており、銀行の資金は潤沢だ。
スペイン政府も市場から問題なく資金を調達できており、支援申請が必要な状況ではない。
ただ、一般の預金者の間に不安が広がる可能性は否定できない。
ザンクトガレン大学(スイス)のシモン・エベネット教授は「キプロスの救済条件を特殊な例とみることはできない。ユーロ圏の重債務国や海外預金者に送られたメッセージは明白だ。リーマンのケースとは違うが、システミックリスクへの懸念が無視されているのは明らかだ」と述べた。
欧州議会のシャロン・ボウルズ経済・金融問題委員長も「預金保証制度が台無しになる」と批判した。
キプロスの銀行預金の多くは、ロシア人や英国人の預金。これまでのところ英国、ロシア政府から抗議の声は出ていない。
ただ、デンマークのサクソバンクのラルス・セイア・クリステンセン最高経営責任者(CEO)は自身のブログで「金融支援発表の会見では、1回限りの措置と説明していたが、別の国で同様の措置を導入する可能性は否定しなかった。1回やれば、またやる可能性がある」との見方を示した。
(Mike Peacock 記者;翻訳 深滝壱哉 編集 佐々木美和)
*執筆者などの情報を追加して再送します。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」