世界が注視した18―19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)。今回は声明文に大きな変更は加えられず、バーナンキ連邦準備理事会(FRB)議長の記者会見に重要な項目はむしろ集中的に盛り込まれていた。
記者会見の様子を映像で見ていて、議長が冒頭説明後に「これでどうだ」といった表情をしたのが印象に残った。というのは、5月22日に行われた議長の議会証言での「今後数回の会合で量的金融緩和(QE)縮小開始もあり得る」という一言が、その後1カ月にわたる大きな相場調整の引き金を引いてしまったからだ。
議長は19日には、FRBの経済見通しどおりに進めば、今年後半にQEの縮小を始め、来年半ばまでに終了すると説明した。FOMC前は景気認識もQEの継続・縮小に対するスタンスも不明瞭だった。マーケットはハト、タカ入り混じった勝手な憶測で右往左往し、ボラティリティの高まりによって、株式相場やエマージング債相場、そして為替相場が調整の度合いを深めていった。
今回の説明で、QE縮小に対するFRBのスタンスとスケジュール感が明らかになり、そこにマーケットの憶測が入る余地はなくなった。バーナンキ議長はこの点で今回はビシッと決めたと言ってよいだろう。
しかし、憶測の余地がなくなり、それまで右往左往した分、相場が5月22日以前の姿へ戻ろうとしているかと言えば、否である。議長は、1)QEを縮小してもFRBのバランスシートの規模は依然として大きく、長期金利を低水準に抑制する効果は続く、2)QE縮小が利上げに直結するわけではない、の2点にも言及したが、FOMC後、債券相場は下落して金利は上昇、株式相場は一段と下落している。むしろ、QE縮小の方向が明らかになり、改めて「QE縮小相場第2弾」が始まった、という感じである。
米債券市場が近い将来、落ち着きを取り戻す可能性はある。だが、QE縮小開始が近づくと、利上げ開始をも先取りしながら長期金利が上昇することは避けられないだろう。また、FOMC前から始まった一部エマージング諸国の債券・株・為替相場の調整はオーバーシュート気味に継続する可能性が高い。
<新興国の混乱が波及すればQE逆戻りも>
このようなQE縮小相場第2弾は何をもたらすだろうか。米国経済に対しては長期金利の上昇および株式相場の下落が景気回復の勢いを削ぐリスクがあり、一部エマージング諸国には急速な資本流出が為替レートの急降下をもたらし、国内にインフレと景気減速、金融市場の不安定化をもたらすリスクがある。そして、エマージング市場の混乱がグローバルに波及していくというのが最悪シナリオだ。
米国の景気は回復基調にあるとはいえ、低金利を主因とする住宅市場の改善と資産価格の上昇を背景とする堅調な個人消費がけん引役だ。製造業には弱さがあり、また歳出一律削減の影響もあり政府支出はマイナスである。ここで長期金利が上昇すると、米国景気は回復の力を失う。外需はすでに弱いが、エマージング諸国の景気が減速すれば、一段とマイナスの力が加わることになる。まして、エマージング諸国の一角に金融危機が発生すれば、米国も再びQEに逆戻りといったことにすらなりかねない。
5月以降のグローバルな相場の調整は非常に大きく、流動性相場が何らかのバブルを醸成していた可能性を示唆している。バーナンキ議長は記者会見で、QE縮小の影響に留意はするが、それらの市場にはもともと過剰な資本流入があったり、過剰な成長期待があったと考えられる、との見解を示した。そして米国経済が強まれば、グローバル経済にもプラスであるはずだ、と言い切っている。バブル崩壊のコストが米国経済へ大きく向かうことがなければ大丈夫だ、ということなのだろう。
今回のFOMC後、米国の債券相場の下落とエマージング諸国通貨の下落でドルが上昇し、ドル円もそれまでの下落から上昇へ向かっている。QE縮小相場第2弾でのドル円の行方は、米国の債券相場の下落一巡によるドル上昇圧力の剥落、エマージング諸国の通貨下落とドル買いのセットによるドル上昇圧力、およびリスクオン・オフ相場の中での円の上下、といった力関係で作られるだろう。
QE縮小開始まで早くても恐らくまだ数カ月ある。現時点ではFOMCの結果を受けて、米国の債券相場も下落しているが、このまま相場の調整が持続すると、リスクオフの様相が強くなり、米国の債券相場の下落は早晩止まる可能性が高い。ドル円がドル上昇に引っ張られて100円を回復する可能性は十分あるが、その後は方向感を欠く展開になると予想する。
*山下えつ子氏は、三井住友銀行のチーフ・エコノミスト。東京大学経済学部卒。1990―2000年ロンドン駐在エコノミスト、2003年より現職。現在は米ニューヨーク駐在。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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