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COLUMN-〔インサイト〕ドルは80円と110円のどちらに向かうのか=Mスタンレー フェルドマン氏

 1月下旬以降、ドル/円JPY=相場が88円から100円に戻った。大半の投資家は、円安傾向が戻ったと思っているようだが、筆者はまだ円高派だ。予測をする前に、まず「どのように為替レートが決定されるか」に関して頭を整理する必要がある。

 「マネーサプライだ」「貿易収支だ」「資本投資だ」「購買力平価だ」──など、色々な考え方が混ざっているが、筆者は簡単に「需給だ」と思っている。「需」は資本収支から生まれる「純ドル需要」、「給」は経常収支から生まれる「純ドル供給」である。

 そこで、奇妙な現象が最近起きている。

 <貿易黒字の急激な減少>

 日本の貿易黒字は急激に減少した。世界的な需要の減退とそれに伴う輸出の減少は、日本の貿易収支悪化の重要な原因であると広く受け止められている。これはもちろん理解できるが、全体のストーリーはより複雑で、円相場に対して著しく異なるインプリケーションを持つ。

 1990年代半ば以降、日本の輸出と輸入の間には強い相関関係がある。日本の非石油貿易黒字は多年にわたり高水準で安定していた。この相関が完全に崩れたのはここ数カ月間のことである。それはいったい、何故だろうか。

 <貿易収支に関する3つの考察>

 可能な答えはいくつかある。第1に、為替相場そのものである。だが、為替相場の大幅な円高は過去に起きたが、非石油貿易収支の黒字は続いた。現在起きている変化が非石油貿易黒字を消滅させるほど急激だと主張することは難しい。

 2番目の可能な答えは、貿易の構造的な変化である。確かに日中貿易の拡大に伴って、輸出と非石油輸入の相関は高まったといえる。しかし、そのような相関は目新しくない。貿易構造の変化が2008年4月から突如として貿易収支の悪化を引き起こした、との主張は説得力に欠けている。

 第3の可能な答えは、リーズ・アンド・ラグズである。輸出と輸入の相関の本質は、産業内部の貿易である。例えば高品質の部品は日本で作られ、組み立てを行うために海外へ運ばれ、最終的な販売のために日本へ戻される。

 当然ながら、日本からの輸出は日本への再輸入に先行する。08年上期および年央以降の輸出が、契約済みの完成品という形で08年央以降も日本に流入し続けた結果、輸入が比較的高い水準を維持したということはあり得る。仮にこの説明が真実であるとすれば、日本の輸入は08年下期以降の輸出減少に対応して09年央に大きく減少するはずである。この説明には説得力があるが、測定する必要がある。

 <過剰輸入を測定する>

 過剰輸入を測定するためには、単純な輸入モデルが必要である。名目非石油輸入を名目輸出(産業内部の貿易効果と経済活動水準を反映させるため)と実質実効為替レート(12カ月のラグを伴う)の関数としてモデル化した。回帰分析期間は01年1月から08年4月までとした。回帰母数と08年5月から09年2月までの実際の輸出および為替相場の数値を用いて、後者の期間における輸入の予測値を計算した。輸入の予測値は実際の数値を大きく下回っている、という結果である。累積「超過輸入」は09年2月までに6兆8000億円に達した。

 <過剰輸入は解消するか>

 次は最も難しい問題である。過剰輸入が解消すれば(即ち、輸入が大きく底割れすれば)、貿易収支は標準的な水準に戻り、円安論も消滅するであろう。過剰輸入が持続した場合、日本の貿易黒字は恒久的に減少したということになり、投資家の円相場予想もそれに対応して調整されるであろう。

 私の見解では、輸出と輸入の伝統的な相関関係は復活する可能性が高いと考えられる。この主張は貿易パターンのリーズ・アンド・ラグズに大きく左右される。この主張が正しくないとすれば、輸入は比較的高水準にとどまり、日本の貿易黒字復活は輸出の回復だけが頼りとなるであろう。

 <80円への道と110円への道の分岐点はどこか>

 この議論を需給のフレームワークに入れておこう。貿易収支が回復すれば、ドルの供給曲線が外側へシフトする。問題は資本収支である。世界が回復に向け、日本から大量の資金が流出しづらい世界となるだろう。

 その1つの理由として、輸出業者が最悪な状態を脱出し、その株価が上がり、日本投資が入るからである。加えて海外の金利があまり上がらない。すると、資本が海外へ大きく流出する理由はない。即ち、ドル供給が増え、ドル需要が増えない。ドル安、円高になる。これが1ドル=80円論である。

 では、110円論はどうか。今の分析フレームワークで言えば、次の議論ができる。世界貿易構造変化が日本の純輸出の減少を促し、ひいてはドル供給曲線をさらに内側に移動させる。

 反面、日本経済と政策への不安は資本逃避を引き起こし、ドルの需要曲線は外側に移動する。これら2つの変化は最終的に大幅な円安をもたらし、1ドル=110円に到達する。これが110円論である。

 経常収支、資本収支から目が離せない。

 ロバート フェルドマン モルガンスタンレー証券 経済調査部長

 (10日 東京)

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