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アングル:金正男氏殺害、容疑者の謎に包まれたマレーシア生活
2017年2月23日 / 04:31 / 9ヶ月後

アングル:金正男氏殺害、容疑者の謎に包まれたマレーシア生活

[クアラルンプール 22日 ロイター] - 北朝鮮の国家指導者である金正恩氏の異母兄、金正男氏が殺害された事件で逮捕された北朝鮮国籍のリ・ジョンチョル容疑者はマレーシアで3年以上暮らしていたが、就労ビザに登録された企業での勤務実態はなく、給与も受け取っていなかった。

 2月22日、北朝鮮の国家指導者である金正恩氏の異母兄、金正男氏が殺害された事件で逮捕された北朝鮮国籍のリ・ジョンチョル容疑者(写真右)はマレーシアで3年以上暮らしていたが、就労ビザに登録された企業での勤務実態はなく、給与も受け取っていなかった。写真は18日、警察に連行される同容疑者。マレーシアのセパンで撮影。News1提供(2017年 ロイター)

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47歳のリ容疑者が所有していたマレーシア発行の就労ビザによれば、トンボ・エンタープライズの従業員とされている。だが、漢方薬を扱うこの小さな会社のオーナーは、リ容疑者が同社で働いたことは1日もなく、給与も受けていなかったと語った。

チョン・アーコウ氏によれば、リ容疑者が同社のIT部門に勤務する製品開発担当マネジャーであり、月5500リンギット(約14万円)の給与を得ていると書類上で申告することにより、容疑者の就労ビザ取得を助けたという。同氏によれば、就労ビザは2016年6月に1回更新されている。

「単に形式だけだ。書類だけで、彼に給料を払ったことはない」とマレーシア国籍を持つチョン氏はインタビューで語った。「彼がこの国でどうやって生計を立てていたのかは知らない。どうやって稼いでいたのかも分からない」

北朝鮮を頻繁に訪れているチョン氏は、単にリ容疑者を「助けようと」しただけだと言う。彼は警察の尋問を受けたが、政府に虚偽の情報を提出したことにより、どんな結果が生じようと受け入れるつもりだ、とロイターに語った。

リ容疑者と交友を続けていたチョン氏によれば、同容疑者は妻と2人の子どもと一緒にクアラルンプールで暮らしていたという。

リ容疑者が他にどこかで雇用されていたのか、収入源があったのかをロイターは確認できなかった。また同容疑者がマレーシアでどうやって家族を養っていたのか、警察に問い合わせたがコメントは得られなかった。

<ヘルプ大学>

リ容疑者は、金正恩労働党委員長の異母兄である金正男氏を殺害した重要な容疑者として逮捕されている。警察は、先週クアラルンプール国際空港で起きた大胆な犯行において、リ容疑者がどのような役割を果たしていたのかを特定していない。

ロイターは、リ容疑者に弁護士がついているか、また妻や娘と連絡を取っているかどうかについて確認できなかった。また駐クアラルンプール北朝鮮大使館への取材を試みたが、これも成功しなかった。

チョン氏によれば、リ容疑者は中流階級が多く住むクアラルンプール郊外のクチャイラマ地区にアパートを借りていたという。不動産サイトによれば、この地区における3寝室付きのアパートの家賃は、月1500─2000リンギットが相場となっている。

リ容疑者の娘はヘルプ大学で学んでいる。そこはクアラルンプール西方の郊外にある有償の私立大学であり、2013年には金正恩氏に対し、「国内の教育と人々の幸福のためのたゆまぬ努力」を理由に、経済学名誉博士号を授与している。

大学側も、リ容疑者の娘が在籍中であることを認めた。

チョン氏によれば、彼がリ容疑者と会ったのは2013年で、リ容疑者がクアラルンプールでチョン氏のもとを訪れたという。リ容疑者はこのとき、抗がん効果のあるマッシュルーム抽出物の発明に関わっていると称していた。チョン氏は10回ほど北朝鮮を訪れており、同国の文化に敬意を払っていると語った。

「北朝鮮のショーは素晴らしい」とチョン氏は言う。「(リ容疑者は)穏やかな口調で礼儀正しく、控えめな人物だった。他の北朝鮮人と同じように」

<入国は容易>

 2月22日、北朝鮮の国家指導者である金正恩氏の異母兄、金正男氏が殺害された事件で逮捕された北朝鮮国籍のリ・ジョンチョル容疑者(写真)はマレーシアで3年以上暮らしていたが、就労ビザに登録された企業での勤務実態はなく、給与も受け取っていなかった。写真はマレーシア警察が19日提供。撮影日は不明(2017年 ロイター)

リ容疑者は、頻繁にではないものの、娘を車に乗せてクアラルンプールのチョン氏のオフィスを訪れた。男性2人はパームオイルの輸入などのビジネス機会について協議し、リ容疑者の娘は朝鮮語と英語の会話を通訳していたという。だが、そうした会話から何かが生まれたわけではないとチョン氏は言う。

2人が最後に会ったのは1月だった。

マレーシアは、北朝鮮国民が容易に入国できるほぼ唯一の国である。これはビザ免除政策のおかげであり、北朝鮮政府側もほぼ同じ互恵的な政策で応じている。一部のアナリストによれば、北朝鮮は1980年代以来、合法であるか否かを問わず、戦略上・ビジネス上の利益を図るためマレーシアを拠点として利用しているという。

だが、金正男氏の殺害を受けて、両国の関係は緊張状態にある。

金正男氏は先週、空港で襲撃されて殺害された。警察は即効性の毒物が使われたと考えている。正男氏を襲撃したとして逮捕された2人の実行犯女性のうち、1人はインドネシア国籍、もう1人はベトナムのパスポートを所持していた。両名とも現在拘留中である。

警察は、正男氏が殺害された当日にマレーシアを出国した4人の北朝鮮人の行方を追っていると発表。22日には、北朝鮮大使館の2等書記官と高麗航空の関係者を容疑者として特定したことを明らかにした。

カリド・アブバカル長官は22日、会見で「2人は拘留されておらず、事情聴取のため協力を求めている」ことを明らかにし、事件当日に出国した他の4人の容疑者については、すでに平壌に到着したと「確信している」と述べた。

韓国と米国の当局者は、核保有国家である北朝鮮における金一族による支配について、正男氏が公の場で遠慮のない発言をしていたために、異母弟である正恩氏の指令を受けた北の工作員によって殺害されたものと考えている。

マレーシアはそこまで断定していないものの、同国警察が韓国の要請で動いているという北朝鮮政府の示唆には不快感を示している。

<良好だった2国間関係>

北朝鮮とマレーシアの関係はこれまで良好だった。マハティール元マレーシア首相が、米国に対する反発を一因として、世界的に孤立した北朝鮮を容認したからである。

だが、両国間の貿易額は、2015年でわずか2300万リンギットにすぎない。

それでも、マレーシア製の自動車「プロトン」は北朝鮮に輸出され、平壌の街でタクシーとして使われている。北朝鮮の鉱山労働者はマレーシアのサラワクで働いており、マレーシア産のパームオイルやゴムも共産主義国家である北朝鮮に輸出されている。

マレーシア対外貿易開発公社のDzulkifli Mahmud最高経営責任者は昨年、北朝鮮について、「マレーシアが企業優遇政策を進めるビジネス・フレンドリーな国であることを認識しており、東南アジア市場への連絡口として利用している」と語っている。

オーストラリアのタスマニア大学アジア研究所のジェームス・チン所長は、貿易統計には、相当規模の非公式な経済活動が反映されていないと指摘。その多くは、北朝鮮大使館とそのダミー企業を経由して行なわれているという。

「マレーシアは、北朝鮮による多くの密輸事業の拠点となっており、北朝鮮本国の資金調達に貢献している」と同所長は語る。「北朝鮮中枢のエリート層のために、マレーシアで高級消費財も多数購入している」

マレーシアの警察は22日、金正男氏殺害事件の重要参考人として、北朝鮮大使館の2等書記官と北朝鮮国営のコリョ航空社員に対する事情聴取を要請したことを明らかにした。

(翻訳:エァクレーレン)

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