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焦点:中国の報復にあえぐ韓国企業、長期化する外交対立で

[ソウル/嘉興(中国) 13日 ロイター] - 南京錠によって施錠されたドアに貼られた通知は色褪せていたが、まだ「2017年3月6日」という日付は読み取れた。それは、中国浙江省・嘉興に位置するこの韓国ロッテマートの大型店舗が、防火基準違反の疑いがあるとして、「一時的に」閉鎖を命じられた日付だ。

シャッターの降りたエントランスと、風にはためく通知は、1年に及ぶ中韓の外交対立によって、韓国企業が予期せぬ犠牲となっている現実を否応なく思い起こさせる。

中国の習近平国家主席は昨年9月、米軍による地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備に反対する中国の抗議について韓国政府が対応を誤れば、中韓関係に悪影響が出ると警告していた。

現在、北朝鮮の核・ミサイル開発による脅威が高まるなか、THAADの韓国配備はほぼ完了している。だがその副作用は、中国にある閉鎖されたロッテの店舗や、かつては中国人観光客で賑わっていたソウル繁華街の閑散とした様子からも明らかだ。

上海の南西、嘉興にあるロッテ店舗は、中国約90カ所にあるロッテマート店舗と同様に、防火基準違反を口実に閉鎖されたままだ。ロッテ側によれば、問題は解消されたと再三にわたって中国当局に申し入れたものの、検査官はまったく姿を現さないという。

今も残る最小限度のスタッフによれば、最低賃金だけは支給されているものの、ロッテは店舗の売却を検討しているという。

<最悪の状態>

THAAD配備という韓国政府の決定に怒った中国政府は、一時は中国人観光客にとって人気の訪問先の1つだった韓国に向かう団体旅行を密かに禁止したとツアーガイドは語る。クルーズ客船の寄港先リストからも韓国の港湾は削除され、一部の航空便の運航も中止された。

「1992年に中韓両国が正式な外交関係を樹立して以来、最悪の状況だ」と語るのは、現代経済研究所のエコノミストHan Jae-jin氏。

スライドショー ( 3枚の画像 )

米韓政府は、THAADが核武装した北朝鮮に対する純粋な抑止力だと説明しているが、中国政府はレーダーの探知範囲が同国領内に達しており、地域の安全保障バランスを崩すと懸念している。

公式には、中国政府は韓国との「通常ビジネス」や交流を引き続き支持していると述べ、ロッテ店舗や観光面の状況についてはコメントしていない。

ソウルの東大門に近い商業地区では、アウトドア衣料を扱う期間限定店舗が「THAAD報復ショック!閉店セール!」と書かれた看板を掲げている。24時間営業の繁華街では、同様の表示が何十カ所も見られた。

東大門市場で婦人用バッグを15年間販売してきたCho Kyung-sukさんは、2月に3カ所の店舗を閉めたと語る。

「中国の団体観光客やバイヤーが来なくなったので、売り上げはかつての約5分の1しかない」とChoさんは言う。「大企業が業績不振だというなら、われわれのことを想像してみて」

<消えたショッピング客>

韓国を訪れる観光客全体の約半分を占めていた中国人観光客の数は、今年の1─7月に前年同期比で半減した。韓国観光公社のデータによる2015年の中国人観光客の平均支出額をベースに計算すれば、韓国にとり51億ドルの商機が失われたことになる。

韓国の旅行代理店業界の試算では、中国人観光客向けに特化していた国内旅行会社160社のうち、約9割が事業から撤退したという。

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THAADへの報復がなければ、アジア第4の経済大国である韓国は今年3%を上回る経済成長が期待されていた。韓国銀行(中央銀行)による現時点での成長予想は2.8%にとどまっている。

中国でもっぱらやり玉に挙がっているのは、THAAD配備用地を提供する土地交換契約を韓国政府と結んだ韓国ロッテだ。

中国で働くロッテマート従業員6人がロイターに語ったところによれば、店舗再開の兆しは見られないという。ロッテは中国各地で約1万3000人の中国人従業員を雇用している。

「店舗をこのまま何年も閉鎖したままにするわけにはいかないので、長期的には中国事業を閉鎖することも1つのオプションとして検討している」とソウルのロッテマート関係者は、匿名を条件に語った。

嘉興住民からは、近隣でロッテマート以外に閉鎖や経営不振に陥る店舗やレストランが出るとしても、中国側の対応は当然だ、との声が出ている。

「閉鎖はすべてTHAAD絡みだ」とオンライン小売分野で働く安徽省出身のGao Yunfeiさん(22)は、閉鎖された嘉興のロッテマート店舗近くで語った。「当然のことだ。人々の愛国心の反映に過ぎない」

<Kポップから免税店まで>

韓国に話を戻せば、80億ドルと世界最大の規模を誇る韓国の免税店マーケットも影響に悩まされている。

ソウル南部の新沙や狎鴎亭といった高級商業地区には、しゃれた大通りにブランド旗艦店や著名美容室が軒を並べているが、小売家賃価格は2013年以来の低水準に沈んでいると韓国査定委員会と地元の不動産仲介業者は語る。

韓国免税店協会は、国内各地の地方空港に対し、賃料引き下げを要請した。免税店事業の最大手ロッテ・デューティフリーは今年、1980年代以来の四半期損失を計上。仁川国際空港の旗艦店の閉鎖さえ検討している。

「THAAD問題が近いうちに解決されるとは考えていない。われわれにできることは何もない」とロッテ・デューティフリーの関係者は、匿名を条件に、ロイターに語った。

中韓関係改善の期待を込めて、ロッテは中国内の店舗を維持しており、現代自動車005380.KSなどの大手輸出企業も、第2・四半期に中国向けの自動車輸出が6割以上落ち込んでも何とか耐えている。

だが、東大門市場で子供服店を営む店主は、中小企業にそのような余裕はない、という。日本やタイからの訪問者をターゲットにしようと努力してきたものの、中国人客の穴を埋めることは不可能だった。

「この地域全体が、まさに中国客に頼りきりだった。それが、このありさまだ」と53歳の店主は、人影のない近隣のホットドッグ店や化粧品店を指さした。「ここの誰もが中国マネーで暮らしていた」

(翻訳:エァクレーレン)

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