Reuters logo
特別リポート:米ロの新たな軍拡競争、核戦力近代化が引き金に
November 29, 2017 / 1:31 AM / 15 days ago

特別リポート:米ロの新たな軍拡競争、核戦力近代化が引き金に

Scot Paltrow

 11月21日、バラク・オバマ氏は2009年、「核なき世界」構築に向け努力すると訴えて、米国大統領に就任した。その誓いは同年のノーベル和賞受賞にも寄与した。写真は2014年6月、英フェアフォード空軍基地で訓練に備える米空軍のB-52戦略爆撃機(2017年 ロイター/Andrew Winning)

[ワシントン 21日 ロイター] - バラク・オバマ氏は2009年、「核なき世界」構築に向け努力すると訴えて、米国大統領に就任した。その誓いは同年のノーベル平和賞受賞にも寄与した。

その翌年、米国は核攻撃への報復能力を維持すると警告する一方で、新型核兵器は開発しないと、オバマ氏は約束している。大統領就任から1年4カ月のあいだに、米国とロシアは信頼を築き、核戦争のリスクを減らすことを目的とした新戦略兵器削減条約(新START)の締結交渉を行った。同条約により、両国が配備できる戦略核弾頭数はそれぞれ1550発に制限された。

だが、オバマ大統領が退任した2017年1月になっても、アルマゲドンが起きるリスクは後退しなかった。それどころか、米国は保有する核兵器のほとんどの精度と殺傷力を高める近代化プログラムを進めていた。

一方、ロシアも同じことをしていた。冷戦後、兵器は放置され、ひどく劣化していた。ロシア政府はプーチン大統領の下で、米国よりも一足早く兵器の近代化に着手。新型で、より強力な大陸間弾道ミサイル(ICBM)や一連の戦術核兵器を開発した。

──関連記事:米核戦略にICBMは必要か、専門家から疑問の声 

トランプ大統領は、オバマ前大統領の遺産をできるだけ取り消そうと躍起になっている。だが、近代化プログラムは熱心に受け入れている。トランプ大統領は国防総省に、核兵器備蓄の見直しを年末までに終えるよう指示している。

トランプ大統領はプーチン大統領との初の電話会談で、オバマ政権下で締結された新STARTを批判し、2021年に失効する同条約を延長するための協議開始をプーチン大統領が提案したところ、それを拒否した、とロイターは2月に報じている。

かつて保有核兵器の強化を支持していた一部の米元高官や議員、軍縮専門家の多くが、今では近代化を推し進めることは重大な危険をもたらすと警鐘を鳴らしている。

<実に危険な考え>

核兵器のアップグレードは、不信感を和らげ、意図的もしくは偶発的な核戦争のリスクを減らすという新STARTの原理に矛盾すると、彼らは主張する。最新の性能強化によって、米ロの核兵器は破壊力を増し、ますます配備せずにはいられなくなったという。

例を挙げると、米国は戦術兵器として使用可能な「威力を調整できる」爆弾を保有している。

「核戦争を微調整できるという考えは、実に危険な考え方だ」と、米軍備管理協会のキングストン・ライフ氏は指摘する。

同協会幹部の1人で、クリントン政権の国防長官を務めたウィリアム・ペリー氏は、「核戦争により大惨事が起きる危険は現在、冷戦時代よりも高まっている」と述べている。

ペリー氏はロイターに対し、米ロ両国は、核兵器使用の可能性を高めるようなやり方で保有兵器をアップグレードしていると指摘。米国の場合、ほぼ外部の目の届かないところで行われており、「公の場での基本的な議論が何もなされないまま進んでいる」と同氏は語った。

核兵器強化は効果的な抑止力となり、戦争リスクを低下させると主張する人たちもいる。

核兵器を管理する米エネルギー省の高官を1月まで務めていたチェリー・マリー氏は、新STARTによる核兵器保有量の削減によって、米国政府は保有兵器の性能を向上せざるを得ないと述べた。

米国は冷戦時代、相当数のミサイルを保有していたため、たとえ不良品があったとしても軍はそれをただ廃棄することができた。しかし新STARTが1550発に核弾頭保有数を制限していることで、その1発1発が重要になったとマリー氏は言う。

「数が減らされたことで、われわれは確実にそれらを機能させなくてはならなくなった。また、機能すると敵に信じさせることも大事だ」

トランプ大統領の近代化プログラムへの見解についての質問に対し、米国家安全保障会議の報道官は、「現代的かつ強固で、順応力と回復力があり、いつでも使用可能で、21世紀の脅威を抑止し、同盟国を安心させる目的にかなう」核戦力を生み出すことが大統領の目標だと答えている。

<最も高額な爆弾>

保有数の減少は、技術的向上を覆い隠してもいる。

兵器の数ではなく殺傷力を競う軍拡競争が繰り広げられていると、米ミドルベリー国際大学院モントレー校、ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのウィリアム・ポッター所長は指摘。「技術進歩が、軍縮を上回っている状況だ」と語る。

古い兵器がより危険な新兵器に生まれ変わった例として、米国の主力水素爆弾がある。米空軍は1960年代半ばから、重爆撃機に核爆弾「B61」を装備している。最近まで、B61は航空機から投下され、重力に従って標的にただ落下する旧式の爆弾だった。

11月21日、バラク・オバマ氏は2009年、「核なき世界」構築に向け努力すると訴えて、米国大統領に就任した。その誓いは同年のノーベル和賞受賞にも寄与した。写真は2008年6月、ワシントンでオルブライト元国務長官(中央)、ペリー元国防長官(右)と会談するオバマ氏(2017年 ロイター/Jim Bourg)

空軍は現在、それを制御可能なスマート爆弾に進化させた。新型には調節可能なテールフィンが付いており、爆撃機乗員が爆弾を標的に向かわせる誘導システムを備えている。最新型はすでに、爆発の威力を調節できる特殊な「調節能力」を備えている。

広島に投下された原子力爆弾と比べ、ほんのわずかの威力しかない0.3キロトンから、同爆弾の23倍で都市を壊滅する破壊力を有する340キロトンまで、爆発の威力を調整することが可能だ。同様の機能は、新型巡航ミサイルでも計画されている。

新型のB61は史上最も高額な爆弾だ。1発当たり、2080万ドル(約23億円)で、同じ重さの24金よりも約3割高い。計480発製造する計画で、推定価格は100億ドルとみられている。

米国議会はまた、新兵器「核搭載長距離巡航ミサイル」の当初予算18億ドルを承認した。総費用170億ドルを見込む同ミサイルは、爆撃機から発射される。ステルス爆撃機が標的の真上まで飛んで投下するB61と異なり、この巡航ミサイルは、敵空軍の防衛圏のはるか外を飛ぶ爆撃機から敵地の奥深くに向けて発射することが可能だ。

オバマ前大統領による核兵器の近代化は、共和党議員らが軍縮戦略に抵抗を示したことで、当初のビジョンとは違う道をたどり始めた。

オバマ前大統領は新STARTを早期批准したい考えだったと、元ホワイトハウス当局者らは言う。核の緊張緩和の他に、当時行われていたイラン核開発を巡る協議にロシアの協力が不可欠だとオバマ氏は考えていた。

当時、オバマ大統領は共和党のジョン・カイル上院議員(アリゾナ州選出)の抵抗に遭っていた。上院で共和党の院内幹事を務めていた同議員は、新STARTを否決するのに十分な数の共和党議員を集めた。

Slideshow (3 Images)

だが結局、カイル議員はある条件と引き換えに、新STARTの可決に賛成する意向を示した。その条件とは、残存する米兵器の大規模な現代化を米政権に迫るものだった。オバマ大統領は同意し、上院は2010年会期の最終日に可決した。

<新たな軍拡競争>

新STARTでは、核弾頭数や運搬手段の数が制限されているものの、兵器のアップグレードや、古い兵器を全くの新型でより強力な兵器と取り替えることは禁止していない。その結果、兵器の近代化によって、米ロ関係を不安定化させ、新たな軍拡競争を引き起こしたと、オバマ政権時の顧問や外部の軍縮専門家らは指摘する。

同政権で核不拡散担当の特別補佐官を務めたジョン・ウォルフスタール氏は、比較的少ない数の兵器でも壊滅的な軍拡競争となり得るとの見方を示した。

新STARTは、陸上や潜水艦から発射される弾道ミサイルや水素爆弾、巡航ミサイルといった兵器の「運搬」方法の設計については全く言及していない。したがって、米ロ双方は自国兵器の殺傷力を飛躍的に向上させ、運搬手段もアップグレードしている。そのため、核弾頭や運搬手段の数を増やすことなく、兵器はより大型化し、精度を高め、危険な新機能も搭載されるようになった。

3月1日に発行された「原子力科学者会報」の記事は、米国の弾道ミサイルの「殺傷力」は約3倍になったと指摘。米国の近代化プログラムは「米国が保有する弾道ミサイルの照準能力を大いに向上させる革新的な新技術を導入した」と、筆頭著者で米科学者連盟の核情報プロジェクトの責任者を務めるハンス・クリステンセン氏は記し、「驚くべき能力増強だ」と述べている。

クリステンセン氏によると、最も懸念すべき変化は、改良された新型の潜水艦発射弾道ミサイル「トライデントII」だという。これには核弾頭に爆発するタイミングを伝達するセンサーを使用する新たな「ヒュージング」装置を搭載している。長いあいだ、トライデントのヒューズ(信管)は不正確で、わずか20%程度の命中率だった。新たなヒューズは「百発百中」だと同氏は言う。

新STARTの下では、米国のオハイオ級原子力潜水艦14隻がトライデント20発を装備している。トライデント1発当たり、最大12発の核弾頭が搭載可能だ。トライデントIIの公式射程距離は7456マイル(約1万2000キロメートル)で、地球外周の約3分の1にあたる。実際の射程距離はそれよりも長いことはほぼ確実だと、外部の専門家らは指摘する。トライデントIIが搭載する主な核弾頭1発あたりの威力は475キロトンで、広島に投下された爆弾の約32倍だ。

<ロシアの放射能ドローン>

ロシアも、殺傷力のより高い戦略兵器の製造に余念がない。プラウシェアーズ財団の試算では、米ロともに少なくとも20以上の新型あるいは改良された戦略兵器の製造に取り組んでいる。

ロシアは超大型ICBM「RS‐28サルマト(通称サタン2)」など、新型の地上発射ミサイルを製造している。サタン2は少なくとも核弾頭10発を搭載でき、異なる標的を狙うことが可能。米テキサス州やフランスと同規模の面積を破壊できると、ロシア国営メディアは伝えている。米国の専門家は、その可能性は低いとみているものの、同兵器の破壊力が壊滅的であることに変わりはない。

ロシア軍当局者は2015年、放射能をまき散らす「ダーティーボム(汚い爆弾)」のアイデアを新たな段階へと引き上げ、人類を滅亡させるような兵器を明らかにした。多くの米専門家はこれをはったりだとみているが、同兵器がすでに配備されているとみる向きもある。

この兵器は無人潜水ドローンで、最高速度56ノット、航続距離6200マイル(約1万キロメートル)とみられている。これまで一度も使用されたことのないダーティーボムのコンセプトは、テロリストがダイナマイトなど通常爆発装置を使って有害な放射性物質を拡散するといったものだ。ロシアのドローンの場合、致死的な大量の放射性物質が核爆弾によってまき散らされることになる。

この爆弾には、長期間にわたって有害なガンマ線を発する放射性コバルトが仕込まれている。爆発と風向きによって、放射性コバルトは何百キロも拡散し、米東海岸の大半を居住不能にしてしまいかねない。

ロシア国営テレビで放送されたドキュメンタリー番組によると、このドローンの目的は、「長期間にわたり、軍事や経済活動などに向かない広範囲な放射能汚染エリア」を生み出すことだとしている。

前出の米軍備管理協会のライフ氏は、たとえ構想段階だとしても、このような兵器はロシア政府の「実に奇抜な考え」を示していると指摘。「戦略的に無意味であり、核抑止力として何が必要かという点で、ひどくひねくれた考え方を表すものだ」と語った。

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below