Reuters logo
コラム:米欧で評価割れる原油安効果、注目すべき時間差と日銀 
2015年1月9日 / 04:11 / 3年後

コラム:米欧で評価割れる原油安効果、注目すべき時間差と日銀 

[東京 9日 ロイター] - 原油価格の急速な下落をめぐり、米連邦準備理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)が対照的な反応を示している。国内経済の押し上げ効果と物価押し下げという打撃のどちらにより注目するかで、政策対応は正反対になる構図がそこにはある。

 1月9日、原油価格の急速な下落をめぐり、米連邦準備理事会と欧州中央銀行が対照的な反応を示している。写真はドラギECB総裁(左)とイエレンFRB議長、2014年4月撮影(2015年 ロイター/Joshua Roberts)

さらに2つの要素は、時間差を持つという特徴があることも指摘したい。この問題で日銀がどのような判断を下すのか。原油下落効果の光と影について考えてみた。

<中原元審議委員、バレル20ドルの可能性に言及>

米原油先物CLc1は9日、49ドル台と前日から1%超の上昇となった。今年に入って46ドル台までいったん下げた後に戻している。

ただ、サウジアラビアが減産の意向を示しておらず、供給過剰な構図は当面、継続するとの見方が多く、市場の一部には年央に向けて40ドル割れを予測する見方もくすぶっている。

元日銀審議委員で元東燃(現東燃ゼネラル)社長の中原伸之氏はロイターの取材で、この先に30ドル台、場合によって20ドル台まで下落しても全く不自然ではないと述べている。

<楽観的なFRBと身構えるECB>

この大幅な原油価格の下落基調が長期化した場合、世界経済や先進国にとって、どういう事態が起きるのか。私は、1970年代や80年代とは全く違った展開があるとみているが、その前に対照的な反応を示している2つの中銀を紹介したい。

まず、FRBは2014年12月16─17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、原油価格の下落効果について「大半の参加者は、エネルギー価格の最近の大幅な下落が追い風になっている」との見解を示した。

ところが、ECBのドラギ総裁は欧州議会議員に充てた8日付書簡の中で「最近の原油価格動向が、ユーロ圏の中期的なインフレトレンドに及ぼす、より広範な影響を警戒していく」と表明。そのうえで一段のリスク対応が必要となれば「理事会は責務の範囲内で、追加の非標準的措置を講じるコミットメントで一致している」と述べ、国債購入を含めた資産買い入れによる量的緩和政策の導入方針をあらためて示した。

同じ経済的動きをめぐり、米欧中銀が正反対の評価を下すのは珍しいが、現下の原油価格下落の影響が、複雑な波紋を世界経済に投げかけている実態を鮮明に映し出した「21世紀的現象」であることを明確化しているとも言える。

<70年代と異なるマネー膨張>

原油価格下落のプラスとマイナスの効果は、第1次石油危機のころからあったが、その質が現在の状況と著しく異なっている点に注目したい。

1つは米欧日の中銀の超金融緩和でマネーの流動性が過去最大規模に膨れ上がり、その多くが、有利なリターンを求めてコモディティも含めた多様な金融商品に流れている実態だ。金融商品に流れたマネーの規模が飛躍的に拡大し、実体経済の規模に対する比率が、70年代から急膨張している。

2つ目は、シェールオイルの開発に象徴される石油輸出国機構(OPEC)のシェア低下が顕著になり、供給サイドの協調体制が崩れていることだ。サウジが減産に応じない理由の1つとして、ロシアやイランなどが減産に応じなければ、サウジが減産のデメリットを負ってしまうという事情もある。

その結果、原油価格下落のマイナス効果が、想定よりも大きくなるリスクが増大している。輸入国の物価水準を押し下げ、デフレ心理を拡大させるだけででなく、米国におけるシェール開発業者の破たんをきっかけにした米ハイイールド債市場の混乱が予想される。

また、資源国や新興国の通貨や株が連鎖的に下落する事態に発展すれば、そのことがグローバルマーケットにおける「リスクオフ心理」を拡大させ、米欧日の株式市場を連鎖安に追い詰める引き金になりうる。

<マイナス効果が先行する時間差>

さらに重要なことは、マイナスの効果はプラスの効果に先だって表面化するという「時間差」の問題があることだ。プラスの効果がいずれ出てくることは分かっていても、前段のマイナスの効果が想定を超える規模になった場合、各国は政策対応を迫られることになると予想する。

現在は今年4─6月の利上げがメーンシナリオになっているFRBも、リスクオフ相場で米株式、金融市場が大混乱に陥れば、利上げの大幅な先送りも選択肢の1つに浮上すると予想する。

FRBとECBが、当面の政策対応で正反対の動きをしている背景には、経済の強弱があるが、より具体的には、期待インフレ率の違いがあると言える。米国の物価をサービスとモノに分けてみると、モノの物価は上昇率の縮小が顕著だが、サービスは2%程度でアンカーされている。

他方、ユーロ圏では14年12月のCPIがマイナス0.2%と09年10月以来のマイナス圏入りとなり、期待インフレ率も足元で大幅に下がっている可能性が大きい。

<日銀の難問と壇ノ浦の戦い>

この米欧中銀の中間にいるのが日銀だろう。消費税の影響を除いたベースで11月のコアCPI(除く生鮮)は、前年比プラス0.7%まで上昇率が鈍化。2%の目標とは距離が出てきている。

12月以降、一段とコアCPIは上昇率がゼロ%方向に接近していくだろうが、どこかの段階で原油価格下落のプラス効果が出てくる。コアCPIの上昇率鈍化で期待インフレ率がどこまで低下して行くのか、その先の反転はいつからどういうテンポで始まるのか──。その見極めが、日銀の金融政策スタンスを大きく左右する。

この悩ましい状況は、1185年(元歴2年)3月に行われた源平最後の争乱となった「壇ノ浦の戦い」に構図が似ているのだ。

地図上で左側(西側)に平家の水軍、右側(東側)に源氏の水軍が位置して戦いは始まる。関門海峡では、午前に西から東への海流が強くなり、その間は平家が優勢。午後に海流の向きが逆転し、源氏が反転攻勢に出て、勝利した。午前中に持ちこたえたのが、源氏勝利の最大の要因だったと言える。

原油下落も同じことが言えそうだ。原油下落のプラス面が表面化してくる来年夏場以降までグローバルマーケットが持ちこたえ、暴落や恐慌に陥らなければ、年後半から原油下落効果で先進国経済が持ち直し、日銀は追加緩和なしに乗り切れる可能性が見えてくる(源氏勝利のパターン)。

しかし、前段でリーマンショック並みの混乱が世界経済を覆い尽くせば、日銀に限らず、米欧日はじめ各国は、金融政策を含めたマクロ政策の総動員を余儀なくされるだろう(平家勝利のパターン)。

どちらに転ぶかは、原油価格がどこまで下がるかによって大きく違ってくるのではないか。仮に30ドル台も割り込むようなら、マイナスの波及効果は今、市場で想定されている水準を大幅に超えて大きくなるに違いない。

何とか持ちこたえて、源氏勝利のパターンに持ち込んでほしいと願うばかりだ。

●背景となるニュース

・米FOMC、利上げへの計画づくり進展=議事要旨

・国債購入含め追加措置の用意、原油価格の影響を警戒=ECB総裁

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below