[ソウル 2日 ロイター] - まもなく韓国・平昌で開幕する冬季五輪に参加する約3000人の選手は、もれなく同国サムスン電子(005930.KS)の最新スマートフォンや最高級のスポーツ用品、洗練された米ナイキ(NKE.N)製ユニフォームなどの「特典」を受け取ることになる。
ただし、北朝鮮選手22人は例外となるかもしれない。
渡航制限や、ぜいたく品・スポーツ用品の販売禁止を含む厳格な国際制裁が、他の五輪参加選手と同様の特典を北の隣人にも提供しようとする韓国当局者の努力を困難なものにしている。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領はこの数カ月、正式にはいまだ戦争状態にある北朝鮮との緊張緩和や、韓国主催の主要イベントを悩ませてきた暴力事件の発生防止を目指し、北朝鮮の五輪参加を求めてきた。
韓国当局は北朝鮮の参加を大いに歓迎し、来訪が問題なく運ぶよう心を配っている。
五輪で初めて南北合同チームを結成するアイスホッケー女子チームは、寝食を共にしながら合同練習を行い、誕生日ケーキすらシェアしている。
応援団など他の北朝鮮代表団メンバーも、高級ホテルに滞在する予定だ。
だが、こうした努力は、米本土に到達可能な核弾頭ミサイル開発を行う北朝鮮に対する米国と国連安全保障理事会による多くの制裁によって水を差されている。
ほぼすべての面において、韓国は自国が提供する「おもてなし」の数々が、制裁や他の法律に触れないよう多大な労力を費やす羽目に陥っていると、複数の当局者は明らかにした。
韓国には、北朝鮮の体制を称賛することを禁じる法律があり、選手村で他の国旗と共に北朝鮮の国旗を掲げる場合、同法律の適用除外措置が必要になると、大会組織委員会当局者はロイターに語った。
<最新スマホもナイキもだめ>
平昌五輪の公式スポンサーであるサムスン電子は、参加選手「全員」に、自社の最新スマートフォン「ギャラクシーノート8」の五輪バージョン4000台を提供する。
国際オリンピック委員会が配布することになると、同社の広報担当者はロイターに語った。
しかし、国連安保理が北朝鮮に科している制裁のため、同国選手にそれを受け取る資格があるのか、韓国は頭を悩ませていると大会組織委員会の関係者は言う。
この関係者はこれ以上明らかにしなかったが、約1100ドル(約12万円)のサムスン製スマートフォンを提供することは、ぜいたく品や軍民両用で利用可能な電子機器の販売を禁止する国連制裁に違反する恐れがあると専門家は指摘する。
一方、アイスホッケー女子の南北合同チームは、公式スポンサーのナイキの代わりに、フィンランドのメーカーが製造したユニフォームを着用すると、別の韓国政府当局者がロイターに明らかにした。米制裁に違反する可能性があるからだという。
米国による対北制裁は国連のそれよりはるかに厳しく、米国の企業や個人が北朝鮮と取引することを事実上、禁止している。
「制裁に違反しない方法を見つけようと努力している」と、この政府当局者は語った。
ナイキは自国の制裁措置に従うとしている。
「アイスホッケー女子の南北合同チームは、ナイキのユニフォームを着て競技しない」と同社広報はロイターに語った。
また北朝鮮選手は韓国を去る際、国際アイスホッケー連盟(IIHF)が彼らのために「レンタル」したフィンランド製のホッケー用スティックや靴などの用具を返却しなくてはならないと、同政府当局者は語った。
<フライトリスク>
韓国統一省は、北朝鮮への航空飛行許可を一時的に米国から得たと明らかにした。
チャーター便は1月31日、北朝鮮の馬息嶺スキー場で合同練習を行う韓国選手を乗せて出発、その翌日には今度は北朝鮮選手を乗せて韓国に戻ってきた。
北朝鮮を訪れた航空機や船舶は180日間、米国への入国が禁じられている。今回米国が認めた飛行許可は1回限り有効だ。つまり、北朝鮮高官が五輪期間中に航空機やフェリーで韓国を訪問する場合はその都度、米国の許可が必要になる。
米国務省報道官は「北朝鮮への統一した対応について、米国政府は韓国と緊密に連絡を取り合っている」と述べた。
また、米財務省当局者は同省が「特定の禁止取引や活動」の適用を判断するとし、その中には五輪関連も含まれると語った。
チャーター便には、厳格化した米制裁により、米ボーイング(BA.N)機ではなく欧州のエアバス(AIR.PA)機が使われたと、韓国テレビ局は伝えた。チャーター便を運航した韓国アシアナ航空(020560.KS)はコメントを差し控えた。
韓国軍の規則に従い、チャーター便は非武装地帯の上空を避け、海上に大きく迂回したと韓国統一省は明らかにした。
<5つ星ホテル>
北朝鮮の選手団は、他国の選手同様、江陵市の選手村に滞在する。大会組織委員会は、北朝鮮選手が安全強化といった面で特別な扱いを受けているかについて明言しなかった。
統一省当局者によると、230人から成る北朝鮮応援団は、森林に囲まれた4つ星ホテル「麟蹄(インジェ)スピーディウム・ホテル」に滞在する予定。同ホテルの部屋は1泊当たり24万2000─71万5000ウォン(約2万4000─7万2000円)だという。
五輪の事前公演で演武を披露する北朝鮮のテコンドーチームは、韓国首都ソウルにある5つ星ホテル「グランドウォーカーヒル」に滞在する。漢江が見渡せ、過去にはマイケル・ジャクソンやパリス・ヒルトンのような米著名人が滞在したホテルだ。
こうした北朝鮮選手団らにかかる費用を韓国が負担したのは、これが初めてではない。2002年に韓国で開催されたアジア大会では、北朝鮮選手らの費用として13億ウォンを負担した。
だが現在、治療のような日常経費や土産の支給といったことさえ、問題にぶち当たる可能性があると、韓国・高麗大学の柳何烈(ユ・ホヨル)教授は語る。
「過去には制裁の影響を受けなかったような北朝鮮代表団への支援が、今では論議の的となっている。近年、制裁が一段と広範囲に及ぶようになったからだ」と同教授は話した。
(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)