[ソウル 18日 ロイター] - 平昌冬季五輪の開会式で統一旗を掲げて合同入場し、アイスホッケー女子で南北合同チームを結成することを決めた韓国と北朝鮮の合意が、韓国国内で厳しい批判にさらされている。北の隣国に対する韓国人の意識の変化を浮き彫りにした格好だ。
韓国内の反応は、朝鮮半島統一の理念への共感が、過去の世代と比べて薄れていることを示していると、専門家は指摘する。こうした世論環境の変化は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領がとる北朝鮮との融和路線にも影響する可能性がある。
北朝鮮の平昌五輪参加は、この機会を北朝鮮の核・ミサイル問題の進展に向けた外交の突破口として利用したい考えである文大統領の「勝利」とみられている。また、北朝鮮が新たな兵器実験を行って五輪を台無しにすることへの国内の懸念を和らげる効果もある。
だが、同五輪で両国の融合を図る文大統領の決断は、以前から大統領を批判してきた保守派だけでなく、大統領の主な支持基盤である若者層からも大きな反発を呼んでいる。若者は、北朝鮮が何のとがめも受けないまま主役の座を奪おうとしていることに困惑している。
「北朝鮮は昨年、ミサイル発射一辺倒だったのに、突然五輪に参加するため韓国に来たいと言う。誰がそれを決めるんだ」と、通訳のKim Joo-heeさん(24)は底冷えがするソウルでコーヒーを飲みながら憤った。「北朝鮮は、やりたい放題やれる特権でも持っているのか」
大統領府は、2月9日に始まる五輪に向けて南北の当局者が事務的調整を進めるとしたが、それ以上のコメントは避けた。
今回の合同参加計画が明らかになって以降に公表された世論調査は、韓国側の提案に対する国民の支持が限定的であることを示している。
韓国の世論調査会社リアルメーターが18日に公表した調査によると、開会式で統一旗を掲げて合同入場する計画を支持すると答えたのは4割程度だった。
17日に南北の合同行進案などが発表されると、ソーシャルメディア上で失望を表明する人が相次いだ。統一旗は「私の旗じゃない」とのコメントや、「平昌五輪が平壌五輪になってしまった」と嘆く声も聞かれた。
<2つの異なる国>
北朝鮮との合同チーム結成が決まったのは女子アイスホッケーだけだが、韓国チームのコーチや選手からは、実力の劣る北朝鮮選手を短期間に組み入れようとすればプレーが邪魔されるとして、批判の声が上がった。
文大統領は17日に同チームと面会し、統一と希望を示すことが勝利より重要な場合もあり、北朝鮮選手を受け入れることで「比較的人気のないスポーツ」にも注目が集まると述べて、選手たちの反発を和らげようと試みた。
高麗大学の北朝鮮専門家、南成旭(ナム・ソンウク)教授は、韓国選手に計画の変更を強いた大統領は「不公平」と受け止められたとみられると指摘する。
「昨年の大統領選で文在寅に投票した人は、公平さや努力が評価され報われる、それまでと異なる社会を求めていた。だが今回、文政権は状況を理解できず、支持者も含めて多くの人を失望させた」
1950─53年の朝鮮戦争や、その後の冷戦を経験していない若い世代の韓国人は、その前の世代と比べて北朝鮮とのつながりが薄く、朝鮮半島の統一への意欲も低い可能性がある。
「間違いなく、私たちは2つの別々の異なる国だ」と、事業開発業界で働くLee Seung-kunさん(26)は言う。「誰もそれを疑っていない。だから、『1つの国』として五輪競技に参加することは、理論的につじつまが合わない」
米パシフィック・フォーラム戦略国際問題研究所(CSIS)のアンドレイ・アブラハミアン研究員は、五輪での合同参加計画が、古い世代の反北朝鮮ナショナリストだけでなく、若い世代の反発を招いたことは重要だと指摘する。
「古い世代のような単純な反共産主義というより、韓国のナショナリズムとアイデンティティーの成長を反映していると思う。若い世代は反共産主義ではない。共産主義は彼らにとってどちらかというと無縁なものだからだ」
<政治ショー>
韓国と北朝鮮の選手団による開会式合同入場を観客が大歓声で迎えた2000年のシドニー夏季五輪から、政治状況も大きく変化した。2000年当時は、外交の突破口が見えたと感じる人が韓国の内外で多かった。
「統一旗の下で行進することは、朝鮮半島に平和をもたらさない」と、ある韓国のツイッター利用者はつぶやいた。「18年前のシドニー夏季五輪でも同じことをやったが、北朝鮮はミサイルを発射し、核実験を行い、われわれの国民を殺した。ただの政治ショーにすぎない」
文政権内には、北朝鮮との和解に「ロマンを持っている」人がいるが、韓国民の多くはそれを「幻想」とみていると、韓国研究者のマイケル・ブリーン氏は言う。
「国民の多くは、ほかにもっと良いやり方があるに違いないと考えている。数カ月後には、北朝鮮情勢が元の木阿弥になっていると分かっていればなおさらだ」
(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)
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