[東京 13日 ロイター] - 看護師の津端ありさ選手(27)は、ボクシングの日本代表選手として今夏のオリンピック東京大会に出場するため、仕事の合間を縫って1年以上も最終予選に向けてトレーニングを続けてきた。
だが、国際オリンピック委員会(IOC)は6月に予定されていた最終予選を中止し、近年の国際大会の成績によるランキングに基づいて出場枠を割り当てると発表。津端選手の夢は打ち砕かれた。
津端選手のように、東京五輪への自動出場権を獲得できるほどランキングが上位ではない多くの選手は事実上、門戸を閉ざされたことになる。他の五輪予選大会も中止となった。
ボクシングに専念するため、津端選手は今年1月、大病院での仕事を辞めた。小規模な心療内科クリニックで、給料は安くなるが負担の少ない仕事をすることにした。
以来、平日は1日3時間以上、土曜日も数時間はトレーニングに励んできた。日曜日だけ、休養やマッサージの時間に充てている。
「予選中止の連絡をもらった時は、やっぱりすごい残念な気持ちだった」。ライフサポートクリニック(東京都豊島区)に勤務する津端選手は語る。「(東京五輪の延期から)1年間、そのために頑張ってきたところがあったので、挑戦する権利さえなくなってしまったという無念な気持ちが大きかった」
日本政府は、COVID―19(新型コロナウイルス感染症)の影響で2021年に延期された五輪を開催すると説明している。ただ、パンデミック(世界的大流行)の真っ只中で、大規模なスポーツイベントをどのように開催するのかには疑問も残る。日本は現在、感染第4波と戦っている。
「なぜ、新型コロナが流行しているこのタイミングで、五輪を目指したのだろう」。津端選手は自問自答したという。「まさかこのタイミングで新型コロナが流行するとは、誰も思わなかっただろう」
世界的なスポーツイベントへの参加という生涯の夢を打ち砕かれ、キャリアが宙ぶらりんの状態になってしまった世界中の多くのアスリートは皆、悔しさと不安を抱いている。
IOCは6月29日までに、今回の五輪予選を完了する必要があった。だがボクシング最終予選が中止されたことで、2017年以降の試合でのポイントに基づいて、約53の枠を複数の地域で割り当てなければならなくなった。
COVID―19で多くの犠牲者を出したインド。同国ボクシング代表チームのヘッドコーチであるサンチャゴ・ニエバ氏は、4人のボクサーに予選中止を伝えた時、「胸が張り裂けるような」気持ちになったという。
「彼らの夢を奪ってしまったような気がした」とニエバ氏は言う。「選手らは失望した。何もかも失われてしまい、心も体も空っぽのように感じていた」
<複雑な思い>
津端選手は3年前、ダイエットのためにボクシングを始めたが、すぐにコーチから競技への出場を勧められ、2019年にはミドル級の全日本女子選手権で優勝するまでになった。
看護師であり、ボクサーでもある津端選手。新型コロナの感染者が増える中、7月に開幕する予定の東京五輪を決行すべきかどうかについては、複雑な思いを抱いている。
「選手のことを思うと、やってもらいたい」と津端選手は言う。「予選が中止になった時に私が味わった残念な気持ちを、その人たちが味わうことになったらとてもかわいそう」
ただ看護師としては、感染拡大が抑えられなければ、日本での五輪開催は「難しいのかなという、複雑な気持ちがある」という。
現時点で津端選手は前向きな考えを抱いており、5月にロシアで開催される大会での国際デビューに向けて準備中だ。
2024年のパリ大会への出場を考えるのはまだ早いといい、競技に必要な体力を維持できるかが心配だという。
「次のパリ大会を目指しているとは言えないが、私にできることは、小さな大会でも大きな大会でも、一歩一歩頑張っていくことだ」。津端選手はそう語った。
(文:Ju-min Park記者、撮影:Kim Kyung-Hoon記者、翻訳:田頭淳子)
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