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オピニオン:生産性革命なき働き方改革=ジョルゲンソン教授
2017年8月28日 / 05:34 / 3ヶ月後

オピニオン:生産性革命なき働き方改革=ジョルゲンソン教授

[東京 28日] - 日本経済の最大の課題は1991年以来低迷が続く生産性上昇率のテコ入れであり、最も効果的な政策アプローチはアベノミクスの初志に立ち返り、岩盤規制の排除を目指すことだと米ハーバード大学のデール・ジョルゲンソン教授は語る。

 8月28日、米ハーバード大学のデール・ジョルゲンソン教授(写真)は、安倍政権が昨年来、アベノミクスの優先課題として取り組んでいる働き方改革は社会的に望ましい政策であり実現すべきだが、生産性向上の決め手にはならないと指摘。2014年5月に都内で撮影(2017年 ロイター/Toru Hanai)

安倍政権が2016年秋以降、優先課題として取り組んでいる長時間労働の是正や非正規雇用の処遇改善などの働き方改革については、社会的に望ましい政策であり実現すべきだが、生産性向上の決め手にはならないと指摘。労働政策面では、併せて出生率の改善や労働効率の向上などを目指し、減少傾向が続く労働力人口問題の解決に真正面から取り組む必要があると説く。

同氏の見解は以下の通り。

<現行の働き方改革に足りないもの>

安倍政権は昨秋以来、アベノミクスの優先課題として働き方改革を掲げ、多大な時間と労力を割いているが、そうした改革が、1991年以来低迷が続く生産性上昇率の引き上げにつながる可能性については、あまり高望みをしない方が良い。

もちろん、長時間労働の是正や、労働市場の二重構造問題(正規・非正規雇用の分断)解消、女性活躍の促進、そして時間や場所に制約されない多様な働き方の許容などは、社会的に望ましい政策であり、進めていくべきだ。だが、労働生産性は、労働者1人当たり、労働時間1時間当たりでどれだけの成果を生み出しているかという視点で捉えるべきである。そうした効率性の観点から言えば、現行の働き方改革イコール生産性向上の実現ではない。

労働政策と経済効果をリンクさせたいならば、1998年をピークに減少傾向にある労働力人口問題に真正面から取り組む方が重要だと考える。目標にすべきは労働効率の向上、出生率の改善、女性の就労拡大などだ。その意味で、働き方改革の項目の1つに、女性活躍の推進が入った点は良い。言葉だけではなく、数値に表れる成果が必要だ。 

<「岩盤規制」排除の初志貫徹を>

ただ、日本経済の最大の課題である生産性革命を実現するために何より大事なのは、アベノミクスの初志に立ち返り、岩盤規制に大ナタを振るうことである。労働市場という切り口ではなく、生産性の低い産業セクターに照準を合わせた規制改革アプローチが好ましい。具体的には、エネルギー、流通、金融・保険、建設、不動産、その他サービス分野における岩盤規制の排除に注力すべきだ。

岩盤規制の排除が思ったほど進んでいない点については、確かに、安倍政権にも同情の余地はある。本来、規制改革は、米国を含む環太平洋連携協定(TPP)の発効を見越して、あらかじめ設計されていたはずだ。トランプ米政権がTPPからの離脱を決めたことで、改革のモメンタムは低下してしまった。とはいえ、生産性向上によって潜在成長力の底上げを図るためには、初志を貫徹して、改革を実現するしかない。

その意味で、欧州連合(EU)との間で7月、経済連携協定(EPA)について大枠合意に達したことは、良いサポート材料だ。今後も、国内の規制改革を推し進める際のテコの役割を、他国・他地域との自由貿易協定(FTA)に求めるべきだろう。

米国抜きのTPPは、EUとのEPA締結よりも優先順位は下がるが、残りの11カ国での合意・発効を目指すべきだ。長い目で見れば、米国が加わる可能性はゼロではない。新規の加盟申請を認める条項を入れておくことが欠かせない。

<投資から消費への税負担シフト>

岩盤規制の排除と併せて、もう1つ重要な点を挙げれば、私が長年言い続けていることだが、生産性革命を促すような方向に日本の税制を改革していくことだ。具体的には、税負担を投資から消費へとシフトさせ、民間投資を喚起することが大事だと考える。

本来ならば、経済情勢が改善していた2016年に、8%から10%への消費増税を2019年10月に再延期せず、予定通り2017年4月に実施すると決断すべきだった。今から約2年後の消費増税も、先行きの経済情勢次第ではさらに延期される可能性があるのかもしれないが、なるべく早いタイミングで投資減税・消費増税の方向にシフトしていく必要がある。

ちなみに、インフレ率は2%の目標を達成できていないが、経済情勢はアベノミクス始動前と比べれば、格段に改善している。アベノミクスの第1の矢(大胆な金融政策)はもう十分に役割を果たした。日銀は2%物価目標に拘泥せず、金融緩和の出口に向かうべきタイミングに差し掛かっている。次期総裁人事が固まり次第、その方向に舵を切るべきだ。個人的な意見としては、黒田東彦総裁が来春に再任され、金融政策の正常化に手を付けることが理想だと思う。

<財政拡大は非現実的な選択肢>

アベノミクスの第2の矢(機動的な財政政策)については、あまり出番がない方が望ましい。この点は、拡張的な財政政策が極力回避されている米国で景気拡大局面が続いていることに注目すべきだ。

確かに、先進国の成長率の鈍化傾向を問題視し、拡張的な財政政策にその解決を求める議論が増えていることは私も知っている。ただ、財政拡大は短期的には成長率を押し上げるものの、効果が切れた後は、より深い景気後退の谷へと経済を陥れてしまう恐れがある。

もちろん、何もしなければ、いずれ景気拡大局面はいったん終息するが、ビジネスサイクル(景気循環)は無傷のまま残る。米国を含めて先進国が重視すべきは潜在成長力の底上げを目指した生産性の向上であり、目先の高成長を追い求めて大規模な財政出動に打って出ることがないように願いたい。

中でも日本は、財政が深刻な状況に陥っているのだから、拡張的な財政政策は現実的な選択肢ではないと肝に銘ずるべきだ。その上で、当初掲げた第3の矢(民間投資を喚起する成長戦略)の重要性を思い起こし、岩盤規制排除に向けた諸法案を議会で成立させ、企業や人々の行動を実質的に変えていかなければならない。それができなければ、アベノミクスのこれまでの取り組みはすべて水の泡となってしまうだろう。

(聞き手:麻生祐司)

*デール・ジョルゲンソン氏は米国の経済学者で、投資理論・生産性分析の権威。ハーバード大学名誉教授。計量経済学会会長、米国経済学会会長、米国学術研究会議経済政策部門(STEP)委員長などを歴任。スウェーデン王立科学アカデミー、全米科学アカデミーなどの名誉会員。

*本稿は、デール・ジョルゲンソン教授へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

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