April 5, 2019 / 2:17 AM / 2 months ago

オピニオン:女性活躍は「富士山五合目」、普通に働き昇進する時代へ=村木厚子氏

[東京 5日] - 厚生労働事務次官を務めた村木厚子氏は、保育所の拡充が遅れたことが大きなミスだったと、平成時代の女性政策を振り返る。それでも女性が活躍する社会の実現は「五合目」まで来たとし、政府が本腰を入れる今こそ、女性自身が変化のために声を上げることが求められると指摘する。企業は女性が普通に働き、普通に昇進する組織づくりを進めるべきだと訴える。

4月5日、厚生労働事務次官を務めた村木厚子氏は、保育所の拡充が遅れたことが大きなミスだったと、平成時代の女性政策を振り返る。写真は東京のオフィスで電話をする女性。2015年7月撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)

同氏の見解は以下の通り。 

平成を振り返ると、法制度上は早い時期から職場の男女平等の枠組みが整備されたものの、働く女性が直面する現実は非常にゆっくりとしか変わらなかった。女性が社会で活躍するには男女が共に育児や介護に取り組めるよう、男性側、そして企業が変わらなければいけない。しかし「働き方改革」にたどり着くまでに、1985年の男女雇用機会均等法成立から30年以上もかかってしまった。

均等法成立から数年後に法定労働時間が48時間から40時間に短縮され、企業はその対応に努力したが、残業の削減は置き去りにされた。働く男性と専業主婦という組み合わせが男性の無制限とも言える残業を可能にし、それが企業の成功体験になったという面もある。大手はもちろん、中小企業も簡単に変われなかった。

バブルが崩壊してからは、企業が正社員の雇用を抑制し、仕事が多いときは残業、または非正規社員の採用で対応してきた。さらに年功序列もスピードを鈍らせた原因の1つだと思う。

<あと10年早く動くべきだった>

政府の政策にも大きな誤りがあった。女性が働き続けるための最低条件である、保育所の整備を進めなかったことだ。

最大の理由は予算がつかなかったからだ。介護や医療、年金にはそれぞれ特別な財源があるが、子育ての予算は一般財源でまかなっている。高齢者にかかる社会保障費が急速に増える中、子どもは後回しにされた。保育所を拡充してもさほど票にならないという、政治家の損得勘定もあっただろう。

「良き母親」を求める社会の風潮、「子供を保育所に預けるのはかわいそう」といった保守からの圧力、さらに女性の中にもそうした意識の人がいて、保育所の整備は大きな社会的要請にならなかった。

一変したのは、2012年、消費税率の5%から10%への引き上げが決まってからだ。基礎年金や高齢者医療、介護に限定されていた使途が、少子化対策にも広がった。予算ありきで保育所の整備計画を立てるそれまでのやり方から、子どもの数をもとに必要な数の保育所を割り出し、逆算して予算を組み立てる方式に転換できた。私自身、内閣府の子ども政策を担当する政策統括官の立場で予算折衝にかかわったが、保育政策はここで大きく変わったと思う。

だが、あと10年早く動くべきだった。団塊ジュニアが子供を産む時期に保育所を拡充できていれば、少子化のスピードを遅らせることができたかもしれない。今後は出産適齢期の人口が減るため、たとえ出生率が上がっても、生まれる子どもの数が増えにくくなる。保育所整備の遅れは、大きなミスだったと思う。

東京都などは保育所の数を増やしてはいるが、働く女性の数が想定以上に増えていることもあり、待機児童の問題は解消していない。自分の子どもが小学校に入れるかどうかを心配する親はいない。保育所も同じ状況にならなくてはいけない。

<「普通に昇進」していく組織に>

企業は女性が普通に働き、普通に昇進していくモデルを確立すべきだ。

企業関係者からは、新入社員を成績順に採用したら、ほぼ女性になってしまうという話をよく聞く。女性が優秀だということは皆が認めているわけで、残る課題は、途中で辞めないようにすることと、きちんと昇進していけるようにすることだ。

日本では男性がほぼ自動的に昇進していくのに対し、女性は自ら手を挙げなければならず、躊躇(ちゅうちょ)する人が多い。実力があれば男性と同じように女性も昇進することを当たり前にし、事情がある場合のみ遅らせる仕組みにすべきだ。女性管理職の数値目標を設定するのも有効だろう。

働き方改革の一環で、4月から残業時間の上限規制が導入されたが、さらに厳格に規制をしてもよいのではないか。男性も若い世代の意識は大きく変化しており、遅い時間まで働きたくない、夜の飲み会こそが仕事の本番だなどと思いたくない人が劇的に増えていると感じる。環境は確実に変わりつつある。共働きの夫婦2人で子育てすることが当たり前になれば、状況はさらに変わるだろう。

私自身は働く女性がまだ少ない時代に、最後まで勤めることができそうな職をと思って公務員を選んだ。入省後に分かったことだが、旧労働省は霞ヶ関の中で唯一、毎年女性を採用しており、その縦のラインが強力に後輩をサポートするようになっていた。

初めて管理職になる、初めて出産するといったときには、皆が集まっていろいろな角度からアドバイスをくれた。1人きりではなく、一緒に戦い、守ってくれるのが非常に心強く、尻込みした時も「先輩たちに怒られる。チャレンジしなくては」と背中を押されるのを感じた。事務次官まで働き続けられたのは、そのことが一番大きかったと思っている。

<声を上げる勇気を>

組織が変化するスピードはトップの考え方に左右されがちだが、自分たち自身で声を上げ、働く環境を作っていくのも大事なことだ。

霞ヶ関では2014年、女性官僚の有志が「働き方改革」を提言した。すでに子育て中、またはこれから子育てに入る世代の官僚の2─3割が女性であることをグラフで訴え、1)残業を前提にしている業務の削減と効率化、2)勤務時間内に処理できない仕事をテレワークでできるようにすること──の2点に絞って要望した。

国民に貢献すべき公務員として活躍するためであり、家庭のほうが大事だからとか、楽をしたいからではないということも説明した。法律の改正案を自動作成するシステムが導入されるなど、一定の成果があった。

自分のためだと主張すると反発を受ける。女性の場合は特にそうだ。だが、最終的には顧客のため、または国民のためになるということを説明すれば、受け止められやすくなる。後輩のために改善を要望するといった、他人のための主張というのも通りやすい。

女性活躍の現状はと聞かれると、「富士山の五合目」と答えるようにしている。その心は、そこから先は自分で歩いていかなければいけない、ということだ。今は政府が女性活躍の進展に取り組み、これまでにない「追い風」が吹いている。こんなチャンスを利用しない手はない。

*本稿は、ロイター特集「新時代『令和』 日本の針路」に掲載されたものです。村木厚子氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

ロイターの取材に答える村木厚子氏。3月撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

*村木厚子氏は津田塾大客員教授。1955年高知県生まれ。高知大卒業後、労働省(現・厚生労働省)入省。障害者政策や女性政策などに携わる。2009年の郵政不正事件で虚偽公文書作成容疑などで大阪地検に逮捕・起訴されたが、裁判で無罪が確定した。13年厚生労働事務次官、15年退官。近著に「日本型組織の病を考える」

(聞き手:山口香子)

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