August 1, 2018 / 8:13 AM / 2 months ago

オピニオン:貿易戦争下の投資戦略、自動車関税も織り込み必要=青木大樹氏

[東京 1日] - トランプ米政権による関税引き上げに端を発した世界的な貿易摩擦の激化は不可避の情勢であり、米国の自動車関税発動もリスク見通しの基本シナリオに含める必要があると、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)、青木大樹氏は述べる。

 8月1日、UBS証券ウェルス・マネジメント本部最高投資責任者(CIO)の青木大樹氏は、世界的な貿易摩擦の激化は不可避であり、米国の自動車関税発動もリスク見通しの基本シナリオに含める必要があると指摘。写真は右から中国人民元、日本円、米ドル。北京で2016年1月撮影(2018年 ロイター/Jason Lee)

とはいえ、貿易摩擦が最大限影響した場合でも、現在堅調を維持している米国経済が一気に減速する可能性は低いと指摘。強気の投資姿勢を維持すべき局面だと話す。

一方で、貿易戦争の影響で第4・四半期の米国経済の成長率は鈍化が予想されるため、米連邦準備理事会(FRB)は年内にあと1回の利上げにとどめ、今年12月の利上げは見送る可能性が高いと予測する。

同氏の見解は以下の通り。

<貿易摩擦激化の確率は60%>

当社はこのほど、米中間を中心に貿易摩擦が激化し、米国が輸入自動車・同部品に対する関税の引き上げにまで踏み切るという見方を、景気予測の基本シナリオに据えた。それに伴い、推奨する投資内容も大きく変更した。基本的には景気には強気の見方で投資を継続すべきだが、影響が想定以上に大きかった場合のダウンサイドへの備えも必要になっている、というものだ。

まず、貿易摩擦が激化する確率は60%とみている。米国はすでに一部発動した500億ドル(約5兆6000億円)相当の中国製品に対する25%の関税に加え、2000億ドル(約22兆4000億円)相当の中国製品に対する10%の関税措置も発動するだろう(一部報道によれば、この2000億ドル相当分に対しても関税率を25%に引き上げる計画がトランプ米政権側にはあるという)。これに対し、中国は報復として、同規模の関税措置に加えて、米国企業の中国への投資制限などを取るだろう。

さらに、トランプ政権は、前述した通り、輸入自動車・同部品に対する関税の強化にも踏み切ると考えている。金額的には、およそ3000億ドル相当の自動車や関連製品に20%の高率関税を課すこととなる。

もちろん、米中間の事前交渉が成立し、米政府が関税方針を転換する確率も35%と、それなりに高く見積もっている。従って、どちらの方向に進むかで、市場の先行きは大きく変わる。貿易摩擦が激化して関税がかかるとなると、市場は現段階ではそのリスクを2、3割程度しか織り込んでいないとみており相当の下げ圧力となるし、関税が回避されるとなると、リスクオンがさらに加速する。

こうした二項対立的な見通しの下では、投資家は「一度現金化しよう」という考えにとらわれがちだ。この低金利では債券投資で利益を上げにくく、株投資のリターンも足元ではあまり期待できない状況となっているからだ。

ただ、こうした状況でも、当社は、「ステイ・イン・インベストメント(投資継続を)」と呼びかけている。グローバル全体を俯瞰(ふかん)すれば、リスクオンの地合いが続いていることに変わりはなく、将来的に取れる収益をみすみす逃してしまうことになりかねないからだ。

<それでも2桁成長見通しの米国企業>

米国経済は非常に堅調で、第2・四半期の米国内総生産(GDP)速報値は年率換算で前期比4.1%増と、2014年以来の高水準となった。消費と設備投資がともに強く、所得減税、法人減税の効果が明確に現れている。

さらに、当社では米国の企業経営者が景況感をどう見ているかを示す「アニマルスピリット指数」を作成しているが、足元はピークの状態が続いており、堅調な企業マインドが設備投資などを促していることが見て取れる。

そうした米国経済に、関税はどう影響するだろうか。

まず、米国が2000億ドル相当の中国製品に対する10%の関税と、500億ドル相当の製品に対する25%の関税を実施し、中国が報復として同程度の関税措置を米国に対して実施した場合の米国のGDPへの影響は、0.2ー0.3%ポイント程度と予測している。

他方、中国については、米国側が前述の関税措置を課した場合のGDPへの影響は0.3ー0.5%ポイントと予測する。しかし、中国政府もまた、緩和的な財政・金融政策を取って影響の緩和に努めることが予想され、中国がリセッションに陥るような事態は想定しづらい。また、資金流失のリスクがあるため、中国政府は積極的な元安政策を取らないだろう。

米国株式の関連では企業利益への影響が注目されるが、仮に自動車関連の関税に加えて、合計4500億ドルの製品に対して報復の関税をかけられた最大のケースを考慮しても、S&P総合500種の企業利益に対する直接的な影響はマイナス4.5%程度と試算している。波及効果を含めてもマイナス6ー7%程度である。S&P500の企業収益の伸び率予想は、トランプ政権の税制改正に支えられていることもあり、2018年は19%。報復関税を考慮しても米国企業は差し引きで収益2桁増を維持できることになる。

つまり、貿易紛争が激化した場合でも、米国株式市場を大きく損ねるような影響は出ないというのがメインシナリオだ。米国株式にはさらなる上昇の余地があり、ここで資金を引き上げてしまえば、収益を得る機会を失うことになる。

ただし、米国が輸入自動車・同部品に20%の関税を課した場合の日本経済や株式市場への影響は相当に大きくなる。日本から米国への輸出額は1兆円程度の減少が見込まれ、日本のGDPは0.3ー0.4%ポイント程度の影響を受けるだろう。自動車メーカーの企業収益は25%程度減少し、企業全体の収益は4%程度のマイナスとなろう。当社はもともと、2019年3月期のTOPIX500純利益伸び率はマイナス4%と予測しており、そこからさらに4%下がれば、マイナス8%になる計算だ。

以上のような貿易紛争激化シナリオを踏まえ、推奨される資産だが、グローバル株式は推奨の程度は引き下げたものの、推奨を継続している。しかし一方で、関税の影響が想定以上に大きくなるリスクケースにも備え、株式が一定の価格以上に上昇した場合の権利は放棄し、下がった場合はプレミアムをもらえる「バイライト戦略」や、株式を一定の価格で売る権利であるプットオプションをつけることなどを勧めている。

日本株式は、上振れ余地がほとんどないとみている。債券では、リスクの少ない高格付け債を、新興国のものも含めて選別することを推奨している。外国為替は、リスク回避的なドル依存が続いているが、米10年金利の上昇なしにドル相場がさらに上昇する事態は考えづらい。むしろ、豪ドルやカナダドルの方が魅力的に見える。

<FRBの利上げはあと6回>

最後に、日米金融政策の見通しに触れておきたい。

今回の貿易戦争の影響として、米国の第4・四半期のGDP成長率は1.6%に減速するとみている。そうした傾向を受けて、米連邦準備理事会(FRB)は、今年12月の利上げを見送る可能性が高い。つまり、今年の利上げはあと1回だけだ。

ただし、景気後退期に向かうわけではないため、2019年は今年と同じ3回、2020年は2回程度の利上げは可能とみており、今利上げサイクルにおける利上げは残すところあと6回だろう。一時的に上振れるものの、政策金利の最終着地点(ターミナルレート)は3%程度に落ち着くと考えられる。

日銀は、7月30ー31日の金融政策決定会合で、フォワードガイダンスを活用することによりハト派的に金利の上振れを容認する結果となった。2019年の消費増税への配慮に言及したことで長期金利の誘導目標の「ゼロ%程度」はしばらくの間継続するとみられるが、物価上昇の加速が明確となれば、ゼロ%の目標の下でもさらなる金利上昇を容認するだろう。

ドル円の相場見通しは、しばらくはドルの底堅さが続くことから3、6カ月後は108円から112円のレンジだが、米10年金利に上昇余地は少なく、日本の金利上昇は徐々に明確となる可能性が高いため12カ月後は105円としている。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載された青木大樹氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:山口香子、麻生祐司)

青木大樹氏(写真は筆者提供)

*青木大樹氏は、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の日本における最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミスト。2001年より内閣府で政策企画・経済調査に携わった後、2010年にUBS証券入社。2016年、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査の日本経済エコノミスト部門にて5位(外資系1位)に選ばれる。

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