May 23, 2016 / 7:01 AM / 3 years ago

オピニオン:G7の意義、過小評価は禁物=カーティス氏

[東京 23日] - 多極化に伴って国際秩序が不安定化している時代だからこそ、共通の価値観と問題意識を持つ主要7カ国(G7)サミットには意義があると、米国の政治学者、ジェラルド・カーティス・コロンビア大学名誉教授は説く。

 5月23日、コロンビア大学のジェラルド・カーティス名誉教授は、多極化の時代だからこそ、共通の価値観を持つ主要7カ国(G7)サミットには意義があると指摘。写真は伊勢志摩サミットのロゴデザインと安倍首相。2015年12月に都内で撮影(2016年 ロイター/Koji Sasahara/Pool)

また、日米の政治情勢については、大統領選でのドナルド・トランプ氏の躍進によって米国政治・社会の断層があらわになる一方で、日本では第2保守政党の不在が権力に対するチェック・アンド・バランス(抑制・均衡)機能の低下をもたらしていると指摘する。

同氏の見解は以下の通り。

<多極化時代ゆえの存在意義>

率直に言って、私は以前、G7はもう廃止すればよいと考えていた。世界2位の経済大国である中国を含まないG7サミットで、国際的な諸問題が議論されても、有効な対策が練られるとはとても思えなかったからだ。また、後述するように、G7内部でも政治・経済事情の違いは一段と大きくなってきており、当然ながら政策の優先順位は違う。それは財政出動に対する日本とドイツ・英国の温度差にも示されていると言えよう。

しかし、中国やロシアなどの台頭に伴う多極化の進展で国際秩序が一層不安定化しているにもかかわらず、20カ国・地域(G20)など、より大きな枠組みがうまく機能しない状況を見て、最近はG7の存在意義を再確認させられることが多い。今回の伊勢志摩サミットを含め、G7会合に目に見える成果を求めることは難しいが、少なくとも共通の価値観を持つ先進国のリーダーたちが年に一回集まって話し合うことは無駄ではない。

もちろん、官僚が作ったシナリオを踏襲するだけだったり、ただパフォーマンスとして共同コミュニケ(声明)にサインするだけなら、多大なコストと時間の費消であり、もうやめたほうがよい。ただ、グローバル経済の低迷にせよ、難民問題や核不拡散問題にせよ、同じような思考のベースを持つ首脳陣が互いの意見をぶつけ合い、それぞれに政策のヒントを得て自国に持ち帰るのであれば、意義深いものとなるはずだ。

南シナ海や東シナ海などで海洋進出の動きを活発化させる中国へのスタンスは、欧州と日米では異なるだろう。また、対外強硬路線をとるロシアに対するスタンスも、北方領土問題を抱え、プーチン大統領との対話を重視する日本と、その他の国々は違うだろう。

しかし、G7には、平和的に問題解決にあたるという共通認識や、もっと言えば、民主主義という共通理念がある。新たな国際秩序の構築が求められる中で、G7のように長い歴史があり、比較的小規模な枠組みはかえって国際諸問題の解決にあたって存在意義を増していくのではないかと考えている。

<トランプ旋風で米国社会の「断層」があらわに>

ただし、一言で先進国陣営とくくっても、各国の政治・社会事情の違いが大きくなってきている点には留意が必要だろう。例えば、日米においてもその差異は顕著だ。

まず米国について言えば、大統領選挙におけるドナルド・トランプ氏の存在は、泡沫候補の予想外の快進撃という以上の意味を持つ。彼の言動が米国社会を激しく揺さぶった結果、隠れていたいくつもの断層があらわになったのだ。

断層の1つは、格差拡大に根差すものだ。2000年以降、毎年、生活水準が上がる20%の人々と、取り残される80%の人々。トランプ氏は後者の層を中心に支持を広げている。

また、白人層のアイデンティティ危機がもたらす米国社会の断層がある。米国勢調査局の予測によれば、米国の総人口に占める白人の割合は18歳未満では2018年か2019年にも過半数を割り込む見通しだ(全体では2043年)。人種の多様性は米国の強さとダイナミズムの源だが、白人の労働者階級を中心に、不平不満が高まっているという現実がある。トランプ氏は、明らかにそのはけ口となっている。

民主主義の良さは、センターレフト(中道左派)とセンターライト(中道右派)があり、政治がセンター寄りの選択肢を国民に与えながら、妥協できる中間地帯があるということだ。ところが、8年間のオバマ大統領在任中の民主党政権と共和党議会との徹底的な対立を経て、そうした中間地帯は脆くなってしまっている。そこにトランプ氏が現れて、過激な発言で対立をあおっているところに米国政治の危うさがある。

トランプ氏は共和党候補に指名されても本選では負けるだろうと思うが、民主党筆頭候補のヒラリー・クリントン氏が大統領になったとしても、この米政治・社会の断層は残されたままだ。民主党自身、割れてしまっている。性的少数者の権利や温暖化対策などを重視する富裕層の中には、保守派の急先鋒であるティーパーティに席巻された共和党を嫌い、民主党支持に回った人々がいるが、この層は民主党左派の経済政策には賛同しておらず、その結果、党内亀裂に拍車をかけている。

G7では、各国の国内政治が大きな話題になることはないだろうが、背景にある格差拡大など主要国に共通する社会問題の深刻さはトップ同士で共有し、議論を尽くしたほうがよいだろう。

<「一枚岩」になりすぎた日本政治のリスク>

一方の日本は、逆のリスクを抱えている。それは、政治が「一枚岩」になりすぎたという問題だ。米国のような政治の断層も危険だが、野党勢力が著しく弱体化し、与党一強下で官邸に権力が集中しすぎている状況は、健全な意味でのチェック・アンド・バランス(抑制・均衡)機能が働きにくいという点で危うい。

日本に必要なのは、2つの保守政党だ。残念ながら、今の民進党にその一翼を担う力があるとは思えない。民進党が割れて、そこに自民党の一部が移り、第2の保守政党が生まれる必要がある。だが現在、そうした大きなスケールの政界再編を主導できそうな剛腕政治家は見当たらず、安倍官邸の一強状態は当面続くのではないか。

そうしたなか、懸念されるのは、自民党内の一部に存在する中国に対する過度な脅威論、封じ込め論が支配的となってしまうことだ。むろん、日本の対中脅威論の高まりは中国側の挑発的な行動に原因が求められるが、日本側が封じ込めにこだわれば、中国側の過剰反応を招き、悪循環を引き起こす恐れがある。

そもそも経済規模で日本の何倍にもなっていく中国を封じ込めるなど、不可能な話だ。日本の対中外交の選択肢は日米安保を軸に地域的な力のバランスを維持しながら、中国を国際秩序により責任ある形で関与させるエンゲージメント政策であるのだ。

今のところ、安倍政権が進めている日米同盟深化の取り組みや、南シナ海問題で中国との対立の火種を抱える国々との連携強化などは、エンゲージメント政策から逸脱しておらず、許容範囲内だ。日本の政治家には、くれぐれも中国の台頭や挑発的な行動には冷静かつ慎重に対処してもらいたい。

G7では、南シナ海問題に限らず、中国に関する様々な問題も議論されよう。一枚岩の対応を目指すのは難しいと思うが、少なくとも対応策について、多様なアイデアが共有されることを望みたい。

(聞き手:麻生祐司)

*本稿は、ジェラルド・カーティス氏へのインタビューをもとに同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*ジェラルド・カーティス氏は日本研究で知られる米国の政治学者で、コロンビア大学名誉教授。東京財団名誉研究員。東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学、政策研究大学院大学などの客員教授を歴任。1974―90年コロンビア大学東アジア研究所長。1940年生まれ。

*本稿は、「伊勢志摩サミット」特集に掲載されたものです。

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