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コラム

オピニオン:伊勢志摩サミット成否の分かれ目=竹中平蔵氏

[東京 16日] - 日本が議長国を務める5月26―27日開催の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)は、長期停滞論を踏まえた包括的経済対策を最優先課題として議論すべきだと竹中平蔵氏は説く。

 5月16日、竹中平蔵・東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授は、伊勢志摩サミットで議論されるべき最優先課題は、長期停滞論を踏まえた包括的な経済対策だと指摘。写真は、三重県伊勢市に設置された伊勢志摩サミットの国際メディアセンターで5月25日撮影(2016年 ロイター/Issei Kato)

同氏の見解は以下の通り。

<伊勢志摩サミットに期待できる2つの理由>

中国を中心とする新興国経済の台頭を受けて、主要7カ国(G7)経済のプレゼンス低下が指摘されるようになって久しい。だが、ここ数年の世界経済の変遷を見るにつけ、私はむしろG7への期待を高めている。特に5月26―27日の伊勢志摩サミットは、先進工業国グループの存在感を示す好機だろう。

伊勢志摩サミットに期待できる理由は主に2つある。まず、新興国経済の苦境が続く中で、世界経済に占めるG7のプレゼンスが相対的に高まっている点だ。特に米国経済は2008年のリーマンショックから立ち直り、中国の経済成長が年々鈍化する中で、世界経済のけん引役として踏ん張っている。

今年1月のダボス会議でも話題になった通り、ロシアやブラジルがマイナス成長に沈む中、その2カ国に中国・インドを加えた「BRICs」という言葉も今や色あせた。少なくとも向こう2年程度は、米国を中心に、先進工業国グループが世界経済をけん引していくことになろう。

2点目は、安倍晋三首相のリーダーシップに期待が持てることだ。小泉純一郎首相後、第1次安倍内閣を含め、日本の首相は毎年のように代わり、国際リーダーシップの取りようがなかった。だが、今回は違う。

2012年12月の第2次安倍内閣発足から3年半が経過し、就任間もないトルドー加首相(15年就任)やレンツィ伊首相(14年)はもとより、メルケル独首相(05年)、オバマ米大統領(09年)、キャメロン英首相(10年)、オランド仏大統領(12年)を前にしても、安倍首相は強力なチェアマンシップを発揮できる十分な経験を蓄積しているだろう。

サミットの形態には大きく分けて、トップが一室に集まって閉鎖空間で話し合うライブラリー型と、シェルパ(元来はヒマラヤ登山者の案内人)と呼ばれる各国首脳の補佐役が根回しを進める組織型があるが、安倍首相ならば、組織型を踏まえたうえで、ライブラリー型のトップダウン合意をまとめることもできるのではないか。実際、報道を見ていると、安倍首相は5月初旬の訪欧を通じて、協調行動の礎となる議論のプラットフォームを事前にうまく構築していたように思える。

むろん、世間に公表されるG7の共同コミュニケでは、それぞれの国の事情に応じて金融・財政・構造の各政策を動員するといった内容以上に踏み込むことは難しいだろうが、トップ同士の問題意識のすり合わせは可能だ。例えば、為替問題について、強くけん制し合うのは建設的ではない。為替レートはあくまで、世界経済の成長に資する国内経済のテコ入れ策を各国が行うことによるサイドエフェクト(副作用)だとのコンセンサスづくりが必要となろう。

<構造改革とインフラ投資拡大で長期停滞脱却を>

ただ、G7首脳に求められる最も重要な共通認識は、金融資本市場の不安定化が進み、世界経済は厳しい状況を迎えており、その打開策が必要だということである。今回の伊勢志摩サミットは、世界経済がセキュラー・スタグネーション(Secular Stagnation、長期停滞)に陥るのではないかという、サマーズ元米財務長官らによるここ数年来の指摘を踏まえたものであってほしいと思う。

長期停滞論の理論的背景の1つは、貯蓄と投資をバランスさせる景気に中立的な実質利子率(自然利子率)がすでに大幅にマイナスになっているとの見立てだ。これは、総需要不足の状況が慢性化している可能性を示す。

この問題に対する処方箋は2つある。1つは、実質的な市場金利を徹底的に引き下げることだ。そもそも自然利子率がマイナスだとすれば、実質的な市場金利をそれ以下にしないと、緩和的な状況にはならない。その意味で、日銀や欧州中央銀行(ECB)などが導入しているマイナス金利政策には効果が期待できると私は考える。特にデフレとの戦いが続く日銀は今後、マイナス金利幅の拡大を迫られる可能性がある。

もう1つの処方箋は、投資機会を作ることだ。やるべきことは2つある。第1に、民間投資を促進するための規制撤廃・緩和、すなわち構造改革だ。第2に、財政もうまく使ってインフラ投資を拡大することである。

インフラ投資というと、新興国が連想されがちだが、実は先進国でも必要なインフラは不足している。老朽インフラの更新や維持管理、そして特に日本の場合は、耐震構造強化という課題もある。

また、大事なことは、こうしたインフラ投資のすべてを公的資金で賄おうとするのではなく、民間資金の積極活用を目指すことだ。公共インフラの運営権を民間に売却するコンセッション方式は有効策となろう。

<G7の存在意義は高まっていく>

最後に、G7の存在意義について言い添えれば、私は今後ますます高まっていくのではないかと考えている。

現代は「マルチステークホルダー」の時代と呼ばれるが、言い換えれば、単一の枠組みでは利害調整がきわめて難しいことを意味する。様々な枠組みが複層的に関わり合いながら、建設的な緊張関係の中で、有効な解を導き出していく必要がある。

分かりやすい例は、1993年末に妥結した「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」ウルグアイラウンドだ。ウルグアイラウンドは86年の開始宣言以来、長期にわたり紛糾し決裂が懸念されたが、93年、米国の主導でアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が立ち上がると、一気に交渉が進んだ。背景には、APECに属さないウルグアイラウンドの主要交渉参加国やGATTという枠組みに、「取り残される」という危機感が高まったことがある。

同じような緊張関係は、G7と20カ国・地域(G20)にも期待できよう。ある難題についてG7が合意したら、中国など主要新興国の危機感が高まり、より大きな枠組みであるG20でも利害調整が急速に進む可能性はある。そもそもG7には、1975年の仏ランブイエ・サミット以来の歴史とそれ以前から資本主義・民主主義陣営として共有してきた理念がある。国際的な問題解決の枠組みとしては起点となりやすいはずだ。

むろん、G7も一枚岩ではない。例えば、日米から見れば、欧州はなぜ中国に近づくのか、逆に欧州から見れば、日本はなぜロシアに近づくのかといった疑念もあるかもしれない。今回の伊勢志摩サミットは、そうした疑心暗鬼を払拭(ふっしょく)する好機でもある。9月4―5日に中国・杭州で開かれるG20首脳会議前に、G7の強固な結束がより明確に示されることを期待したい。

(聞き手:麻生祐司)

*本稿は、竹中平蔵氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*竹中平蔵氏は、東洋大学国際地域学部教授/慶應義塾大学名誉教授。1951年和歌山県和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)などを経て慶大教授に就任。2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣。02年経済財政政策担当大臣に留任し、金融担当大臣も兼務。04年参議院議員当選。05年総務大臣・郵政民営化担当大臣。現在、政府産業競争力会議の民間議員、国家戦略特別区域諮問会議の有識者議員を務める。

*本稿は、「伊勢志摩サミット」特集に掲載されたものです。

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