May 28, 2018 / 3:35 AM / 3 months ago

オピニオン:世界経済の2020年問題に備える分散投資戦略=青木大樹氏

青木大樹 UBS証券 ウェルス・マネジメント本部 日本地域CIO兼チーフエコノミスト

 5月28日、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)、青木大樹氏は、中長期の投資戦略を組み立てる際、念頭に置くべきは2020年の主要国景気後退リスクだと指摘。写真は米ドル紙幣。4月撮影(2018年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京 28日] - 米長期金利上昇、新興国通貨不安、米中貿易摩擦などを背景に、米国成長頼みとなる「リスクオフのドル高」地合いが当面続くと、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)、青木大樹氏は予想する。

ただ、1年程度のスパンで考えれば、ユーロや新興国通貨への資金シフトが起き、ドル円も下落する見方は変えていない。12カ月後の予想は1ドル=100―105円とした。

また、米国をはじめとする主要国の景気拡大局面はすでにピークを越えており、早ければ2020年にも景気後退局面に突入する恐れがあると指摘。国内外の株式や債券といった伝統的資産にとどまらず、ヘッジファンドなど非伝統的資産への投資も視野に入れた幅広いリスク分散が必要になると説く。

同氏の見解は以下の通り。

<崩れた「世界同時成長」シナリオ>

1月時点では、今年のメインテーマは「世界経済の同時成長」によるドルから他通貨へのシフトとなるとみていた。昨年までの米国の成長頼みだったところから、欧州の経済成長率が2%台半ばまで回復し、新興国もプラス成長に転じた。今年は、世界のどこでも堅調な成長が進む状況になることから、ドルからユーロや新興国通貨へとポートフォリオシフトが起きると予想していた。だが2月以降、そのシナリオは崩れ、再びドルに資金が集まりやすくなっている。そこで、まずこの経緯を整理したい。

足元では、日米10年金利差とドル円との相関が戻っている。米連邦準備理事会(FRB)がバランスシート縮小に入り、長期金利も含めて米金利が上昇しやすい状況にあった。2月以降、トランプ政権の財政政策による赤字拡大やインフレ加速の懸念が高まり、米国債の10年金利が2.5%から3%前後まで上昇した。

金利上昇だけなら堅調な新興国経済への影響も限定的だったはずだが、さらにセンチメントのピークアウトが起きた。例えば、欧州の製造業購買担当者景気指数(PMI)は5カ月連続で低下している。先進国のセンチメントがピークアウトして、米金利上昇となると、経常収支が赤字の新興国からの資本逃避(通貨安)が起きやすくなる。そこに米中貿易戦争というリスクが加わってきた。

米国の金利上昇、グローバルな景気後退リスク、そして米中貿易戦争リスク、この3つが2月以降の市場の混乱を引き起こし、「世界同時成長」シナリオが崩れ、ますますドルに資金が入りやすい状況を生んでいると考えられる。

しかし、今後の見通しについて言えば、長期的にはドルから新興国通貨やユーロへのポートフォリオシフトが起きるという考えは変わらない。いまのドル保有率は過去の平均から見ても極めて高い状況にあり、そこからのシフトは起きるだろう。日本のインフレ率が1%に到達すると見込まれる中で日銀も緩和の正常化に動くと考えられることから、ドル円レートはフェアバリュー(適正値)とみられる100円に向かうと予想している。

ただ目先は、トルコ中銀の独立性の問題や、メキシコやブラジルの選挙など新興国全体に政治リスクがあるほか、欧州圏のPMI低下がどれほど景気を下押しするかもはっきりせず、新興国通貨やユーロは買いにくい。ドル円も、3―6カ月程度のスパンでは引き続き110円近辺で推移するとみている。

<2020年の「米財政の崖」に現実味>

では、中長期の投資戦略はどう組み立てるべきか。もう少し細かく検討したい。まず、念頭に置くべきは、日米欧中の2020年問題だ。米国は、今年と来年は財政が確保されているが、再来年の2020年に財政出動をできるかは議会次第だ。11月の中間選挙で、民主党が下院の過半数を獲得するなどして「ねじれ」が生じれば、2020年の「財政の崖」による景気落ち込みが意識されてくる。

欧州も、金融緩和政策が終わり、2019年ごろには利上げが始まる。2019年後半から2020年にかけて成長鈍化がはっきりしてくるだろう。中国も昨年行われた共産党大会から3、4年目というところで、これまでのさまざまな政策効果が一巡して経済が落ち込みやすい。日本は、2019年10月に消費税率の引き上げが控えている。東京五輪景気も、政府の見通しでは、関連建設需要は2019年前半までと予想されている。財政規律の問題もこれからが正念場だろう。

米金利に目を転じると、10年金利と2年金利の差が小さくなり、イールドカーブがフラット化するのは、早くて2019年の半ばから後半になるとみられる。イールドカーブが逆転すると、リセッション(景気後退)が数年以内に起きるというのがこれまでのパターンだ。2020年は、金利面からも、米国景気のターニングポイントとなる可能性がある

一方、今後2年間は市場も良好かもしれないが、マーケットのボラティリティーは次第に高まりやすい状況になっていくだろう。先進国の景気サイクルは後期に入り、主要国の金融緩和も終了する。そこに、トランプ大統領という予測不能な要素も入ってくる。短期的には強気の投資スタンスで良くても、節目は変わっており、中長期の備えが必要な局面だ。

<5つの投資チェックポイント>

こうした状況を踏まえ、当社は顧客に対して5つの観点から投資内容を確認するよう勧めている。

チェック項目の1つ目が、短期的な市場のパフォーマンスに依存し過ぎていないかという点だ。景気サイクルの後期になると、ヘッジファンドなどの非伝統的資産の方がパフォーマンスが良くなる。株や債券といった伝統資産だけでなく、非伝統的資産もポートフォリオに入れることが望ましい。

2つ目は、リスクに見合った利回りを受け取っているかという点だ。投資家は高利回りの投資先を探す傾向があるが、景気の後退局面に入ると、高利回り資産のリスクは急速に高まる。米国の10年国債、政府機関が出す高格付け債などの債券にも分散すべきだ。

3つ目は、ポートフォリオが安全かどうかという点だ。次のクラッシュがどこから始まるかは確証が持てない(例えば、トルコの財政がおかしくなればどうなるかなど)。米国も企業は元気だが、自動車ローンやクレジットカードローン、学生ローンなどの家計ローンは、景気後退をもたらす要因になるかもしれない。欧州連合(EU)にしても、イタリアがユーロ離脱を選択する可能性は排除できない。中東リスクも無視できない。こうした状況では、前述したように、幅広いリスク分散が望ましい。

4つ目は、株式については、エクスポージャーを減らすなど、保守的な投資スタンスを検討すべきではないかという点だ。株式のボラティリティーは非常に高まっている。下がったときの備えとして、例えば一定価格で売る権利であるプットオプションが組み込まれた商品を買うなどの対策を考えるべきだろう。

最後の5つ目は、短期的なノイズにとらわれないという点だ。当社では長期の投資テーマとして、高齢化や都市化、世界の人口拡大などに注目している。資産を守るという観点から、2年先より長いところに視点を置き、早めに対策を打つことが求められる。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載された青木大樹氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:山口香子、麻生祐司)

青木大樹 UBS証券ウェルス・マネジメント本部 日本地域CIO兼チーフエコノミスト

*青木大樹氏は、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の日本における最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミスト。2001年より内閣府で政策企画・経済調査に携わった後、2010年にUBS証券入社。2016年、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査の日本経済エコノミスト部門にて5位(外資系1位)に選ばれる。

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