November 12, 2018 / 2:32 AM / a month ago

オピニオン:米株の強気相場の最終局面へ、中国リスク意識=青木大樹氏

[東京 12日] - 米国では対中貿易戦争の影響が産業レベルで出始めている可能性があり、トランプ大統領が姿勢を軟化させて「一時停戦」が実現する公算が高まっている、とUBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)、青木大樹氏はみている。

11月12日、米国では対中貿易戦争の影響が産業レベルで出始めている可能性があり、トランプ大統領が姿勢を軟化させて「一時停戦」が実現する公算が高まっている、とUBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)、青木大樹氏はみている。写真はニューヨークにある「チャージング・ブル」の像。2018年8月撮影(2018年 ロイター/Brendan McDermid)

来年にかけては、米国の金利上昇が一段落し、市場に楽観論が広がることで株価が上昇する可能性が高いものの、その後は景気後退入りする可能性があるため、これが強気相場「最後の1年」となると予測する。一方で、中国の外貨準備高の減少が加速し、人民元安が過度に進めば、リスクの方が強く意識される展開になると説く。

同氏の見解は以下の通り。

<米中は「一時停戦」か>

6日実施された米中間選挙の結果、上院では共和党が、下院では民主党が過半数を占める「ねじれ議会」となり、議会を通じた政策実現が難しくなった。トランプ大統領は自らの権限を駆使して政策を進めることになり、中でも貿易、外交、安全保障の分野に注力するだろう。

最大の注目点は、今月末にも行われる米中首脳会談だ。トランプ大統領が米中貿易合意の草案作成を指示したと一部メディアが2日報じたこともあり、貿易戦争の「一時停戦」で両国が合意する可能性がある。具体的には、来年1月に予定されている、2000億ドル(約22.8兆円)相当の中国製品に対する25%の関税率導入の延期が考えられる。

米国ではマクロレベルでの貿易戦争の影響はまだ確認できない。だが個別の産業セクターをみると、例えば2月にセーフガード措置が発動された洗濯機は中国依存度が高く、2月以降に洗濯設備の価格指数が2割上昇する一方で、売り上げ台数は2割減と、影響が明確に出ている。9月に関税措置が発動された2000億ドル相当の米国製品も中国依存度が高く、産業レベルへの影響が意識され、消費者のセンチメントを通じた政権支持率の低下リスクが高まったことが、トランプ氏の態度軟化につながった可能性がある。

今回の中間選挙を受けて共和党では、対中強硬派や保守派の議員が下院で減る一方、上院では比較的穏健な、いわゆる主流派の議員が増えたようだ。同党内の力学変化により、関税ではなく、対米投資の厳格化や中国への輸出制限強化など、別の方法に焦点が移る可能性も考えられる。

関税強化論の後退を受けて、日本の自動車に対する課税リスクも減退していくとみている。日本側が防衛装備品の購入や農産品の輸入などで譲歩し、自動車メーカーが現地生産を増やすことで、関税を回避できるだろう。

<強気相場の「最後の1年」>

2019年の投資環境を巡るテーマは、世界経済の同時減速が見込まれる中で、米国の金利上昇が終了することに注目すべきだ。

米連邦準備理事会(FRB)の利上げ回数について、市場は20年末までに3.4回しか織り込んでいない。一方で当社は、12月に1回、来年3回と、計4回の利上げを現在予想しており、FRBが示した利上げ回数見通しの中心値は5回だ。

1回の利上げ幅が25ベーシスポイント(bp)であるため、米2年国債金利は3-3.3%に到達する。ただ、10年金利が現状の3.2%から大きく上昇することは難しいとみており、10年金利と2年金利の差が小さくなってイールドカーブがフラット化する。つまり、2019年に米国の金利上昇は終了する。

フラット化すると景気後退という見方があるが、米国株式市場はむしろフラット化が起きた後のほうが上昇しやすい。

1968年以降にフラット化が発生した6回の事例をみると、フラット化する前の12カ月間における米国株式のパフォーマンスは、平均15%の上昇率を示した。一方、フラット化した後12カ月のパフォーマンスは平均29%と、さらに高い上昇率だった。

これ以上の金利上昇がないと認識すると、米株式市場で一旦楽観論が広がりやすいためだろう。だがこれはバブルにつながりやすく、株式バブルや負債バブルの崩壊を経て後退期入りするサイクルを繰り返してきた。したがって、来年から再来年にかけては、リセッションに入る前の強気相場「最後の1年」となる可能性が高い。

気を付ける必要があるのが中国経済の減速だ。当社予測では、来年の中国国内総生産(GDP)成長率が6%と更に減速するが、世界経済の成長率は3.8%と、世界の企業収益を大きく損なうものではない。だが中国の成長率が5%台に落ち込んでしまうと、米金利上昇の終了という株式市場にとってポジティブな材料を打ち消してしまう可能性がある。

そこで注目されるのが人民元の動向だ。中国の景気後退懸念が高まる中で、元と世界の株価(MSCIオールカントリー世界指数)との連動性が過去にないほど強まっており、元安になると株安になりやすい状況になっている。一方で、10月末の中国の外貨準備高は3兆530億ドルと、1年半ぶりの低水準となった。外貨準備が減るなかで人民元安が急激に進んだ2015年のチャイナ・ショックの再来を市場は意識し始めている。

現状、2016年以降に導入された規制により、資本流出による外貨準備の急激な下落は予想していない。しかし、中国の経常収支は赤字化のリスクが高まっており、外貨準備の減少が続くリスクも高まっている。外貨準備減少の問題点は元安だけではなく、中国が現在行っている関税対策としての財政・金融政策の波及効果も相殺してしまうことにもある。外貨準備高が3兆ドル程度の安定した水準で推移するのであれば、元安も一定の水準で収まり、中国のGDP成長率の減速も政策でカバーできる範囲に収まるだろう。

<日銀は動くか>

日銀や欧州中央銀行(ECB)にとっては、異次元緩和政策の終焉はまだこれからの話だ。特に日銀は、低金利が金融機関の収益性に及ぼしている「副作用」に対応するためにも、長期金利の上昇を容認する考えが強いようだ。4月までの間に金利上昇を促す政策を打ってくる可能性がある。現在はイールドカーブ・コントロール(YCC)政策のもとで長期金利の誘導目標をゼロ%程度の範囲と定めているが、この目標自体を引き上げるか、または国債買い入れのペースをさらに抑えるなどのやり方が考えられる。来年末時点では10年金利が0.3%程度に到達すると予測する。

これは「ハト派的引き締め」と呼べる範囲の金利上昇であって一気に円高を誘うことはないだろうが、市場を動揺させないための十分なフォワードガイダンスが日銀に求められる。

<世界株式の推奨度を引き上げ>

最後に、推奨する投資戦略について触れておきたい。7─9月期の米企業の好調な決算や、米中貿易戦争が「一時停戦」となる可能性を踏まえ、このほど6-12カ月の戦略期間におけるグローバル株式の推奨度を引き上げた。今年7月にリスク警戒から推奨度を引き下げたのだが、今回再び7月前の水準に戻した。

ただ、引き続きボラティリティーが高い状況が続くとみられるので、基本的には自己資本利益率(ROE)が高く安定している企業など「高クオリティ株」への分散投資を推奨している。また、一定価格で売る権利であるプットオプションなどを組み込むことも勧めたい。債券では、利回りの高い新興国債は魅力的だが、通貨が変動しやすいので米ドル建てを推奨している。

日本株に関しては、輸出が中国経済減速の影響を受けやすいことに加え、来年10月に予定する消費増税を控えてセンチメントが圧迫されやすく、さらに安倍晋三首相の関心が憲法改正などに向かっていると思われるため、リスクの方が意識されやすい。ただ、前述した来年後半以降に期待される米国株の最後の上昇の恩恵を受けるための「仕込み」は、来年前半にかけて行うべきだろう。長期的な視点の投資家からすれば、来年は強気相場の終焉に備える年となる。

ドル円相場は当面は1ドル=110─115円が継続されやすいだろう。ただ、今のドルは歴史的にみて異常に高い水準にあり、ユーロや新興国通貨の上昇余地からみれば下がらざるを得ず、1年以降でみた中期的な水準は105円とみている。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載された青木大樹氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:山口香子)

青木大樹、UBS証券ウェルス・マネジメント本部CIO

*青木大樹氏は、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の日本における最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミスト。2001年より内閣府で政策企画・経済調査に携わった後、2010年にUBS証券入社。2016年、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査の日本経済エコノミスト部門にて5位(外資系1位)に選ばれる

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