March 1, 2018 / 6:45 AM / 6 months ago

オピニオン:ドル安をあおる米経済の構造的「孤立化」=青木大樹氏

一方、日本経済への影響は、昨年の輸出数量拡大にみられるように、アジア貿易の重要性の高まりに伴って相対的に米ドルへの依存度が低下したこともあり、甚大にはならないと予測する。

同氏の見解は以下の通り。

<投資家のドル離れをもたらす構造要因>

ドル円相場の見方として、日米国債金利差との相関関係は従来から指摘されている。特にこの2年ほどは、ドル円は10年国債金利差の推移を追うように動いてきた。

だが、昨年末頃からこの相関関係が崩れ始め、ドル円と金利差は現在では明確に乖離(かいり)し始めている。金融政策の正常化が意識される中、市場は金利差ではなく、物価や経常収支などの米国の構造的要因に注目し始めた。構造的要因からみれば、ドルはさらに5―10%程度の下落余地があると考えられる。

そこで、当社では2018年のドル円相場見通しを大幅に修正した。ドル指数はまだ低下の余地があることから、具体的には3カ月後が1ドル=102円、6カ月後が100円、12カ月後が98円とした。金利差の拡大に注目していた従来予測では、想定中心レンジは1ドル=112─118円だった。

ドル安を促している構造的要因とは何か。まず、トランプ米政権の経済政策がほぼ出そろい、税制改正法案も成立し、この上さらに市場を盛り上げる政策は期待できない。米国の利上げも、ペースの問題よりも最終的な金利があまり上昇しないとみられている。むしろ、拡大する財政赤字が金利のリスクプレミアム上昇(悪い金利上昇)を通じてドル安につながるとの懸念が出始めた。

そして何よりも大きいのが、ドルから他通貨へのシフトが加速している点だ。1998年から2016年における投資家の株と債券(時価総額)保有の各通貨建ての割合をみると、米ドル建ては45─55%の間で推移しており、直近値は55%に近い。つまり投資家は依然としてドル資産に傾斜している「ドルリッチ」の状態にあり、国内総生産(GDP)見通しの上方修正が相次いだ欧州や、景気が順調な新興国などに投資資金が向かいやすい状況が続く。

世界の外貨準備や中央銀行の外貨保有でも、ユーロの比重は20%程度の低い水準にあり、今後はユーロの割合の上昇に合わせてドル比率が低下していくと考えている。

さらに、より根本的には、米国経済の構造的な「孤立化」が投資家のドル離れを加速させる。2017年の米GDP成長率は2.3%だったが、このうち0.6%はエネルギー、ことにシェールオイル・ガスが寄与した。原油価格の回復に伴ってシェールオイル・ガスの生産が大きく伸び、中東にエネルギー資源を頼らなくて済む状況になっている。米製造業の好況は、これに助けられた部分が大きい。

なお、いま伸びている産業はヘルスケアやサービス業が中心で、日本の輸出企業への恩恵も少なくなっている。

要するに、米国の景気回復は、以前ほど他国に依存しておらず、また他国に影響を与えていない。実際、輸出額と輸入額を合計した貿易額を国内総生産比でみた貿易依存度は2011年以降、低下傾向にある。トランプ大統領による鉄鋼やアルミの輸入制限などの政策は、米国経済をますます「孤立化」させることにつながる。 

<為替のシーソーゲーム、ドル安に軍配>

為替市場は、片方に金利差、もう一方に物価や経常収支などのファンダメンタル要因を乗せた「シーソーゲーム」のように動いている。金利差要因だけでみれば、ドル円は1ドル=118―124円と整合的だが、経常収支や物価要因からみれば1ドル=98―105円までドル安が進む可能性がある。双方の要素を計量的に評価するなら1ドル=110円あたりがシーソーの均衡だろう。だが、今後しばらくは、経常収支などの構造的要因の方に比重が傾いた状況が続きそうである。

このシーソーが、いつごろ、何を契機として反転するかはまだみえない。ただ、ユーロについて言えば、欧州の実体経済が市場予測を上回ることが多かったためにユーロシフトが加速したとみており、実体と予測の差が縮まればそれも止まってくるかもしれない。

また、米ドルの今の状況は、2004年から2005年にかけての状況に近いとみている。当時もまた、米国金利は利上げにより上昇していたにもかかわらず、ドル安が進んだ。利上げ開始とともに株価上昇が鈍り、米国投資に向かっていた資金がユーロや新興国に行きやすくなって、現在と同じようなポートフォリオのシフトが起きていた。

それがドル高に転じたのは、利上げ終了の見通しがみえた時点だった。具体的には、イールドカーブのフラット化の終了がみえたタイミング。市場に利上げの終了が織り込まれ、イールドカーブがフラット化する直前で、ドル高シフトが始まった。利上げの終了が織り込まれるのは早くても2018年後半となるだろう。

<米国株式や通貨分散に引き続き妙味>

構造的なドル安が続くことは製造業にとって脅威とみる向きもあるだろう。だが、海外経済が堅調な状況であれば、ドル円の水準が低下しても、輸出数量の拡大で相当程度影響を相殺することができる。

米国が孤立主義的になる中で、日本にとってはアジアの重要性が一層高まっている。昨年は、年始の1ドル=117円から一時107円まで低下し、年末時点でも112円と円高傾向にあった。それでも輸出は中国の恩恵もあって急激に伸びた。昨年の日本市場の株価上昇と円高の同時進行は、その辺りの事情を踏まえている。輸出数量が実質的に増え、企業収益がそれだけよかったのだ。ドル円が仮に100円以下まで高騰しても、日本経済はそれほど大きなダメージを受けないだろう。

投資戦略の観点からは、そうは言っても日本の製造業がさらに大きく収益を拡大させる余地は小さいため、日本株については引き続きニュートラルだ。日本の輸出を押し上げた中国の景気は徐々に減速する。さらに、2018年度の企業収益は、米国の企業税制の恩恵で大きく押し上げられた前年と比べ、マイナスになる可能性が高い。年初来高値を更新できないリスクは大きい。

米国株については、15%の1株当たり収益の拡大を見込んでおり、強気だ。米国の株式市場は、1940年以降23回ものブル(強気)相場での調整を経験してきた。その間、10%の調整後どのように米国株が推移したかをみると、8%から27%のリターンを生んでいる。調整局面となれば、押し目買いのチャンスとなろう。また、今後の調整局面に備え、株式を一定の価格で「売る権利」であるプットオプションを新たに推奨し始めた。

通貨では、ドル安の継続が見込まれる中、ユーロや英ポンド、カナダドル、豪ドルに加えて、ブラジルレアルやインドルピーなどの新興国通貨を推奨している。

*本稿は、青木大樹氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:山口香子、麻生祐司)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*青木大樹氏は、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の日本における最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミスト。2001年より内閣府で政策企画・経済調査に携わった後、2010年にUBS証券入社。2016年、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査の日本経済エコノミスト部門にて5位(外資系1位)に選ばれる。

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