November 4, 2016 / 5:56 AM / 2 years ago

オピニオン:米大統領選後はドル安と新興国株高へ=居林通氏

株式市場への影響については、次期米政権のドル安志向が米国株や新興国株にポジティブな要因となる一方で、日本株や欧州大陸株には、金融緩和の縮小局面と重なる可能性とも相まって、ネガティブな要因になりそうだという。

同氏の見解は以下の通り。

<ドル円は来年末98円へ下方修正>

我々は、11月8日の米大統領選・連邦議会選について、6つのシナリオ別に生起確率をはじき出している。直近では、私用メール問題の再燃を受けて、民主党のヒラリー・クリントン候補のリードは縮小傾向にあるものの、共和党のドナルド・トランプ候補勝利の可能性は15%程度しかないと見ている。

我々が最も確率が高いと想定しているシナリオは、クリントン大統領の下で、民主党が上院、共和党が下院の過半をそれぞれ獲得するシナリオで、42.5%。次に、クリントン大統領とねじれ議会(共和党が上下両院で過半)の組み合わせで32.5%。そして、トランプ大統領の下で共和党が上下両院の過半を押さえて完勝するシナリオが15%、クリントン民主党の完勝シナリオが10%だ。

それ以外の組み合わせ、つまりトランプ大統領の下で、民主党が上下両院の過半を獲得する(あるいは上院と下院の過半をそれぞれ民主党と共和党が取る)可能性はゼロ%と見積もっている。両候補の支持率にはそれほど差がないにもかかわらず、民主党優位と考えるのは米大統領選が各州の選挙人を通じて行われるという独自のシステムであるからだ。

ただ、重要なポイントは、たとえトランプ氏は敗退したとしても、大統領候補になっている時点で、クリントン氏の選挙活動に大きなインパクトを与え、すでに米国の将来の政策に様々な影響を及ぼしていることである。

周知の通り、共和党は伝統的に「小さな政府」「自由貿易」を志向してきた。ところが、トランプ氏は民主党のお株を奪うように「大きな政府」「保護主義」を前面に押し出した選挙活動を展開している。これに、バーニー・サンダース上院議員らがけん引する民主党内のリベラル派ポピュリズムの影響も加わって、経済に関しては米国の左傾化・保護主義化が顕著になったのが今回の選挙の特色だったと言えよう。

ストラテジストの目から見れば、この左傾化・保護主義化のインプリケーションは素直に「ドル安」である。米主要500社の収益が金融危機後の2009年以来となる長期の減益局面に昨年来入っていることから、過度なドル高をけん制するような発言が民主党陣営からも相次いでいる。ドル指数で見ると、年初来すでに2割程度のドル安が進んでいるが、来年はさらに下げ足を速める可能性が高い。

ドル円で言えば、来年末には98円まで下がると見ている。今年中旬に立てた来年末の予想レートは107円だったので、大幅に下方修正した格好だ。

むろん、目先は、12月に米連邦準備理事会(FRB)の追加利上げが想定されることから、下値もサポートされ、102―104円程度で踏みとどまるだろうが、来年には利上げのドル高円安効果も弱まり、再び下落基調を強めるだろう。数年内に日銀が金融緩和のテーパリング(縮小)に向かう可能性が高い点も、この流れを後押しすることになりそうだ。

<厳しい日本株、選別物色相場続く>

では、ドル安を前提に考えると、大統領選後はどのような資産クラスが有望なのか。一番は、新興国株だろう。2014年以降の米FRBのテーパリングに伴うドル高の進行によってドル建て債務負担が急増するなどして、新興国景気は下向きの圧力をずっと受け続けてきたが、今後はその流れが変わる可能性がある。

1株当たり利益(EPS)ベースで見て、2011年以降広がった新興国企業と先進国企業の株価パフォーマンス差も急速に縮まっていくと予想される。新興国景気が持ち直せば、下落基調が続いていた原油などコモディティー相場の反転上昇にも期待が持てそうだ。

先進国株は、リーマンショック後の金融緩和の支えが取り払われていくので、総じて言えば厳しい展開が予想されるが、米国株については、大統領選後はドル安志向による企業収益回復期待を背景に、例外的に堅調な推移が見込めそうだ。同様に、英国についても、欧州連合(EU)離脱選択後のポンド安を受けた株高基調の継続が予想される。

一方、通貨高で引き続き「負け組」となりそうなのが、欧州大陸株と日本株だ。特に日本株は厳しい。ドル円が98円になると、来期の企業業績は、下手をすると純利益ベースで減益となりかねない。今期も営業利益ベースではすでに15%の減益であり、純利益ベースでぎりぎり増益といった状況だ。

足元で日経平均株価は1万7000円前後と、6―7月の底値から10%程度戻っているが、この水準がフェアバリュー(適正値)に近いとみられる。さらに大きく上があるかと言えば、非常に難しい状況だ。選別投資を一層進めるべき局面だろう。

日本株についてもう少し補足すれば、今年の前半は、景気動向に左右されにくいと言われる医薬・食品などのディフェンシブ銘柄が強かった。長期国債の利回りがマイナスとなる中で、配当利回りが1%でも、安定性を理由に選好されたわけだ。

しかし、日銀がイールドカーブコントロール(長短金利操作)を導入したことで、今後は10年超の超長期ゾーンの金利がプラス幅を拡大していく可能性がある。本来、株式市場に入るべきではなかったお金が債券相場に回帰し、医薬・食品株などのパフォーマンスが厳しくなるかもしれない。先ほど選別投資と言ったが、日本株を選好するならば、今後は新興国・コモディティー関連の銘柄などに視線を移す必要がありそうだ。

<金融政策のワイルドカード>

ちなみに、ここまでの話は、次期米政権がドル安を志向するとの見通しと、米国以外の先進国、特に日欧の中銀がテーパリングに向かうとの予想が前提だが、このシナリオが狂うとすれば、後者の金融政策で大きなサプライズがあるときだろう(米大統領選は、どちらの候補が勝利してもドル高志向になるというサプライズは起きそうにない)。

金融政策のビッグサプライズとは、すなわちヘリコプターマネーである。中銀保有の国債を償還期限の定めのない永久債に転換したり、政府の償還義務を免除したりすることだ。通貨の暴落を招きかねない劇薬であり、慎重居士のドイツがいるユーロ圏では真剣に議論されそうにない。将来的に可能性があるとすれば、先進国では日本ぐらいしか思い浮かばない。

むろん、必要な法改正の難易度に加えて、国内外の政治的な反発を考えれば、極めて非現実的なシナリオに思えるが、戦前の金本位制停止も当時の常識では「あり得ない選択肢」だったはずだ。保護主義への傾斜が予想される次期米政権下で、ドル安が進み、円高デフレ回帰で追い詰められた末に、日本がこのワイルドカードを絶対に切らないという保証はない。

*居林通氏は、UBS証券ウェルス・マネジメント本部のジャパン・エクイティ・リサーチ・ヘッドでエグゼクティブ・ディレクター。大手投資信託やヘッドファンドなどで運用に携わった後、2006年UBS証券入社。

*本稿は、居林通氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:麻生祐司)

――関連コラム:米国の変容示すヒーロー不在の大統領選=山下えつ子氏

――関連コラム:クリントン氏、戦後最も不人気な大統領になる恐れ=カッツ氏

――関連コラム:次期米大統領にレームダック化の恐れ=安井明彦氏

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラム及び米大統領選特集に掲載されたものです。

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