May 4, 2018 / 2:39 AM / 6 months ago

オピニオン:「トランプ保護主義」は中間選挙後に先鋭化か=安井明彦氏

安井明彦 みずほ総合研究所 欧米調査部長

 5月4日、みずほ総合研究所の安井明彦・欧米調査部長は、トランプ米政権の保護主義政策は2020年大統領選挙に照準を合わせたものであり、秋の中間選挙後に沈静化するとの見方は早計だと指摘。写真は、トランプ大統領(右)と安倍首相(左)。日米首脳会談が行われた米フロリダ州パームビーチで4月17日撮影(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)

[東京 4日] - トランプ米政権の保護主義政策は、11月の中間選挙を前にした有権者向けのアピールとの見方も根強いが、みずほ総合研究所の安井明彦・欧米調査部長は、むしろ中間選挙後に先鋭化する可能性が高いと警鐘を鳴らす。

米保護主義政策の照準はあくまで2020年の次期大統領選挙に合わせたものであり、日米通商関係も今後、一段と難しい局面に突入する公算が大きいと読む。

同氏の見解は以下の通り。

<「素顔のトランプ」>

今の米政権は、人事刷新を受け、「素顔のトランプ」が出やすくなっている。「素顔のトランプ」とは、すなわち米国第一主義(保護主義)であり、ディール志向だ。言い換えれば、トランプ政権は、保護主義をデフォルト(標準設定)としつつ、ディールを視野に政策の振れ幅が大きくなっている。

一部には、貿易不均衡是正を理由とした関税引き上げ措置など保護主義政策が横行するのも、11月の中間選挙を強く意識しているからだとの声もあるが、たとえそれが理由の一端だとしても、本質ではないだろう。

そもそも通商交渉は何年にも及ぶものであり、秋口までに有権者に対し目に見えて分かりやすい成果を提示できるような取り組みではない。むしろ、2020年の次期大統領選挙を念頭に、保護主義はこれから先鋭化すると見た方がいい。中間選挙が終われば、矛を収めると考えるのは早計だろう。

こうした中、日米通商関係も、さらに難しい局面に入っていくと思われる。周知の通り、日本は、米通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム関税引き上げ措置から適用除外を得られなかったばかりか、4月の米財務省為替報告書では、円相場について、実質実効レートだけでなく名目レートでも割安だと指摘された。

このように、米国市場へのアクセスのみならず、為替の面からも攻め立てられかねない以上、日本としては警戒を解くわけにはいかない。まして、在韓米軍基地の撤退をほのめかされたという韓国のように、安全保障のカードすら使われる可能性があるのは気掛かりだ。

ただ、この間の安倍政権の対応は、適切だったと思う。注目したいのは、4月の日米首脳会談前に起こった2つの出来事だ。具体的には、日米間の新たな通商交渉枠組みを日本側が提案したということ。そして、トランプ大統領が環太平洋連携協定(TPP)復帰を一度は匂わせたことだ。この2つがないまま、2国間の自由貿易協定(FTA)交渉に追い込まれていたならば、日米首脳会談の評価は「日本の負け」となっていただろう。

日本は今後も、交渉のイニシアチブをとって、ダメージを最小化する必要がある。例えば、トランプ大統領のディール志向を逆に利用して、米国産天然ガスの輸入拡大や第三国への輸出支援など日本にとってもメリットが見込める分野で、大型ディールをまとめるといった交渉スタンスが望ましい。

そこで重要なのは、輸出自主規制など、国際的なルールから逸脱しそうなディールを避けることだ。米国第一主義の行き着く先は、自国市場へのアクセスを武器とした「力によるグローバル化」だ。国際的なルールの足場を揺るがすような流れに加担することは、日本の将来にとって得策ではない。

<民主党大統領よりましか>

米中貿易摩擦についても、トランプ大統領の中間選挙対策と考えるのは本質を見誤っている。現在の米国の立ち位置は、次のように整理すべきだ。

まず、自由貿易体制のメリットまで視野を広げて国益を捉える余裕は失われており、米国第一主義の素地が強まっている。

第2に、余裕の喪失には、いわずもがな、中国の台頭が大きく影響している。トランプ大統領がTPP復帰をほのめかした背景に、対中交渉の道具として使えるとの色気があったことは容易に想像がつく。カドロー米国家経済会議(NEC)委員長は、中国を意識して、自由貿易の「有志連合」という言葉まで口にしている。

中国は、経済面では1970―90年代の日本の再来であると同時に、安全保障面では冷戦時代のソ連の再来だ。こうした認識は、米政権だけでなく、米議会にも浸透しており、中間選挙に前後して変わるようなものではない。言い換えれば、米国の余裕喪失と中国の台頭は、トランプ大統領であろうがなかろうが、進行していた事態だ。

ちなみに、日本は、もはや米議会から通商上の大きな脅威と見なされているわけではない。その意味で、ディール好きのトランプ大統領に集中できる状況は、中国より恵まれているのかもしれない。

見逃せないのは、現在の米国には、トランプ大統領の米国第一主義を受け入れる素地があるということだ。たとえ2020年の次期大統領選挙でトランプ大統領が再選されなかったとしても、ドグマティック(教条主義的)な保護主義者が多い民主党候補が次の大統領になった方が、日本にとって厳しい未来となる可能性がある。

*本稿は、安井明彦氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいています。

(聞き手:麻生祐司)

安井明彦 みずほ総合研究所 欧米調査部長(写真は筆者提供)

*安井明彦氏は、みずほ総合研究所・欧米調査部長。1991年東京大学法学部卒業後、富士総合研究所(当時)入社。在米日本大使館専門調査員、みずほ総研ニューヨーク事務所長などを経て、2014年より現職。主な著書に「アメリカ 選択肢なき選択」などがある。

*本稿は、トランプ政権特集に掲載されたものです。

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