November 12, 2018 / 1:47 AM / a month ago

オピニオン:逆風の対米通商交渉、日本経済の仕組み見直す好機=加藤隆俊氏

[東京 12日] - 米国、メキシコ、カナダがNAFTA新協定(USMCA)に9月合意し、米韓自由貿易協定(FTA)がまとまる中、トランプ米大統領は、次は日本だと意気込んでいるはずだ、と国際金融情報センター顧問の加藤隆俊・元財務官は語る。

トランプ大統領は7日、日本は米国を貿易面で不公平に扱っていると中間選挙後の会見で改めて不満を表明。先の米財務省為替報告書でも、日本が中国と韓国に並んで監視対象国に指定、対米貿易黒字額では中国、メキシコに次いで日本が3番目の大きさだと指摘した。

逆風の中で、日米物品貿易協定(TAG)の交渉が来年年初に始まるが、日本はこれを経済の仕組みを見直す好機として前向きに捉えるべきだ、と加藤氏は説く。

同氏の見解は以下の通り。

<日米TAG、極めて難しい交渉に>

日米TAG交渉では、対米貿易黒字の4分の3を占める自動車及び自動車関連部品について、日本側は関税回避を重視するが、米国としては2020年の大統領選が本格化する前に同交渉をまとめたいという強いインセンティブがある。

次善策として、米国からの輸入を拡大することや、米国が作るインフラ投資の仕組みに日本が協力することなどが考えられるが、他国との通商交渉をみても、米国は相手の懐(ふところ)に飛び込んでFTAをまとめており、日本側にとってTAGは極めて難しい交渉になるだろう。

農産品に対する関税に関しては、日本政府は過去の経済連携協定の内容が最大限だとして、環太平洋経済連携協定(TPP)などで決めた水準を上回る関税引き上げの可能性を否定している。来年7月に参院選を控えている日本としては、農産品について政治的に譲歩することは困難ではないか。農業の分野では、交渉に関わらず、働き手を海外から補充することや、生産の工場化、効率化が喫緊の課題だ。

逆風下の対米通商協議になろうが、防御的になり過ぎず、日本経済の仕組みやあり方を見直す好機として前向きに捉える心構えも必要ではないか。

例えば、日本には古くから物づくりの文化があり、良いものを作ることを美徳としてきた。一方で、ITを中心に物を動かすことには遅れをとっている。

米国が自動車や自動車関連部品の製造を最終的に自国に取り込むつもりならば、日本としてはITと自動車製造を結び付ける分野の開拓・発展を目指す戦略に弾みをつける拍車だと捉えるべきではないか。

<為替条項は誤った認識に基づく>

ムニューシン財務長官はTAG交渉を巡り、通貨安誘導を封じる為替条項を日本にも求める可能性を示唆している。たが、為替条項に関しては、通商面に配慮して為替政策が制約を受けることは避けるべきだ。

日本を巡る為替取引の大半は資本取引関連のフローであり、貿易取引関連のフローが為替相場に与える影響は限定的だ。貿易関連のフローが、為替相場を左右するとの認識は「犬のしっぽが胴体を振る」ような話であり、間違った認識に基づく提言は受け入れるべきではない。

また、為替相場は経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移すべきとの国際的な合意は過去40―50年かけて構築されたものであり、日本としては妥協すべきではない。

<米中の「つばぜり合い」は長期化>

トランプ大統領と中国の習近平国家主席は、ブエノスアイレスで今月開かれる主要20カ国・地域(G20)にあわせて米中首脳会談を開催するが、そこでは今後の2国間協議のロードマップが示されるとみている。

中国の7―9月期の国内総生産(GDP)は実質で6.5%に減速しリーマンショック直後の2009年1―3月期以来の弱さとなった。足元でも景気の弱さが続くなか、中国は貿易面でまとめたいという心境であろう。

習主席は8日、米国との問題を対話を通じて解決することを中国は望んでいるが、発展の道筋に関する中国の選択やその利益を米国は尊重する必要があるとの見解を示した。

一方、米国のペンス副大統領は先月4日の講演で、中国が米国の知的財産権を盗むことや、強制的な技術移転をやめない限り、強硬な通商政策を行使せざるを得ないと強調している。

特に、次世代情報技術やロボットなど重点分野を発展させ、先端技術を中心に独自のサプライチェーンの構築を目指す「中国製造2025」について、米国は警戒しており、両者の「つばぜり合い」は長期化しそうだ。

<米国経済は減速へ>

一方、経済情勢に目を転じると、最近の民間調査によれば、世界のファンドマネージャーの多くが世界景気のピークは既に過ぎ去ったとの認識を持っているようだ。

米国についても、9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で示された実質GDP成長率見通しは、今年は3.1%、2019年が2.5%、2020年が2.0%と次第に減速する見込みだ。大規模減税の景気浮揚効果も来年にかけて弱まってくるとみられ、追加減税については下院で過半数を奪還した民主党が簡単に首を縦に振らないだろう。

米国経済が高成長期から比べれば次第にブレーキがかかってくることが予想されるが、そのなかでFRBが利上げを進めれば、トランプ大統領との軋轢(あつれき)は増すだろう。

ドル高、米金利高、そして欧米緩和マネーの縮小に伴い、新興国が不安定さを増すことが懸念され、通貨や経済の安定を意図して、一段の利上げを余儀なくされる国々がアジア地域にも現れるだろう。

(聞き手:森佳子)

加藤隆俊氏 国際金融情報センター顧問/元財務官
 11月12日、米国、メキシコ、カナダがNAFTA新協定(USMCA)に9月合意し、米韓自由貿易協定(FTA)がまとまる中、トランプ米大統領は、次は日本だと意気込んでいるはずだ、と国際金融情報センター顧問の加藤隆俊・元財務官は語る。写真はニューヨークでの日米首脳会議に臨む安倍晋三首相(2018年 ロイター/Carlos Barria)

*加藤隆俊氏は、元財務官(1995─97年)。米プリンストン大学客員教授などを経て、2004─09年国際通貨基金(IMF)副専務理事。2010ー17年公益財団法人国際金融情報センター理事長。2017年10月から同センター顧問。

*本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの「外国為替フォーラム」に掲載された加藤氏へのインタビューです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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