December 26, 2018 / 2:42 AM / 23 days ago

オピニオン:平成相場を彩った「超円高」、次の時代は円安に=佐々木融氏

[東京 26日] - 30年間に及ぶ平成時代の為替市場で最も鮮明に記憶している出来事は、日本銀行の為替介入もまったく歯が立たなかった1995年の「超円高」だった、とJPモルガン・チェース銀行市場調査部長の佐々木融氏は振り返る。

デフレの続く平成時代はドル安/円高が基本的な流れだったが、2013年に「アベノミクス」が本格始動して以来、相場は円安に振れている。いったんは円高方向への揺り戻しはあるだろうが、新たに迎える時代では、変動を繰り返しながらも長期的に円は下落していくのではないか、と同氏は予想する。

同氏の見解は以下の通り。

<超円高を前に感じた無力感>

平成時代の為替相場で最も大きな出来事として記憶しているのはドル/円が80円を割り込んだ1995年の円高だ。当時、日本銀行で為替介入を担当していた自分が感じたのは「無力感」だっだ。

買っても買っても、ドル/円は下がっていく。日銀はアナウンスメント効果を狙い、市場に分かる形で介入をしていたが、それでも皆がドルを売ってくる。

ドル/円が79円75銭をつけた1995年4月19日、日銀は介入をしなかった。いくら買っても下げ止まらないので、様子を見ることにしたのだ。そしてドルは80円を割り込んだ。「介入をしないから、ついに80円を割り込んでしまった」――。そう思った瞬間がボトムだった。

その後1カ月間、日銀は介入をしていない。それにもかかわらず、ドル円は反発を始めた。経験上、日銀が介入している間は、ドルは上がらない。日銀しか買い手がいない状況で、ドルを売る相手が急に消えてしまい、異変を感じて初めて市場参加者は買い戻し始めるのではないだろうか。そして、不思議と介入を止めるとドルは反発し始める。

過去30年の平成時代、日米の物価上昇率は90―100%の差がついており、それを反映してドル円は総じて円高方向に流れてきた。しかし、1995年時点の80円割れは実質ベースでみても、相当な円高だった。

当時は日米貿易摩擦が激しく、クリントン政権の高官たちは、あからさまに円高を求める発言をしていた。終盤には英女王陛下の銀行と呼ばれた名門ベアリングズ銀行の破綻によって日経平均も大きく下落した。

ドル/円は、2011年の東日本大震災の発生後に史上最安値となる75円台まで下落したが、日米のインフレ率の差を勘案した実質実効為替レートで見ると、この時の円高はそれほど極端な円高とは言えない。

<対外投資が円安を後押し>

 12月26日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、デフレの続く平成時代はドル安/円高が基本的な流れだったが、新たに迎える時代では、変動を繰り返しながらも長期的に円は下落していくのではないかと予想。 写真は都内にある為替ブローカーのディーリングルーム。1998年6月撮影(2018年 ロイター)

平成時代の為替市場でもう1つ特筆すべき出来事は、2004年から2007年にかけて海外勢が盛んに行った「円キャリートレード」だろう。低い円金利と他通貨の金利差を利用し、海外の金融機関が円建て住宅ローンなど様々な商品を開発し、円売りが広がった。

その後は世界的な金融危機と東日本大震災で円高が進み、2012年12月に安倍晋三政権が発足して「アベノミクス」が始まる直前からは、円安方向に動いている。日米物価上昇率の差からすると、90円台前半がドル円相場の「均衡水準」と考えられるので、今は明らかな円安状態にある。

日本企業が対外直接投資を大きく増やし、為替ヘッジなしの対外証券投資も膨らんでいる。円キャリートレードが盛んだったころの円安の原動力は外国人投資家だったが、今回は日本企業と日本人投資家が主導している。国内に需要がないからというだけでなく、情報通信や交通など、技術の発達で対外投資が容易になっていることも要因と言えるかもしれない。

平成時代の最後に起きている事象であり、もう少し検証の時間が必要だとは思うが、次の時代に振り返ったとき、日本勢による対外投資の活発化は30年間の平成相場の中で重要な動きとして記憶される可能性がある。

<長期の流れは円安に>

新時代のドル円相場は、短期的には、もう少し円安に振れると見ている。2019年は日米金利差がもう一段拡大することが見込まれるため、これまでの日本勢の対外投資フローに、外国人投資家の円売りが加わり、年半ばに118円くらいまで上昇すると予想している。

そこから年末までにいったん112円台へ下落すると見ているが、そのまま円高に進むかどうかは、世界経済がいつ後退するかによる。大きく後退すれば均衡レートの90円台に下落するだろう。

しかし、問題はそこからだ。次の景気後退時の円高は最後の円高となり、次の時代の円相場のトレンドは円安に傾く可能性が高いと見ている。

ドル/円は日米の物価上昇率のどちらが高くなるかで決まる。鍵を握るのは財政政策だろう。次に円高が起きたとき、金融政策には打つ手がなく、財政政策にしか頼れない。そのやり方次第では、通貨の価値が低下する。

そうなる前に財政出動をやめれば良いという意見があるかもしれないが、世界恐慌を受けて歳出拡大した1930年代の事例を考えると、ずるずると続けてしまう可能性が高い。積極財政を日銀が支える政策は、いったん始めたら、簡単にはやめられないことは歴史が証明している。

*本稿は、ロイター特集「平成を振り返る」に掲載されたものです。佐々木融氏にインタビューし、同氏の個人的見解に基づき書かれています。

(聞き手:久保信博)

 12月26日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、デフレの続く平成時代はドル安/円高が基本的な流れだったが、新たに迎える時代では、変動を繰り返しながらも長期的に円は下落していくのではないかと予想。写真は都内のディーリングルームのモニターに映る自民党総裁選の様子。2012年12月撮影(ロイター/Yuriko Nakao )
佐々木融氏(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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