November 9, 2016 / 11:32 AM / 2 years ago

オピニオン:トランプ次期大統領の政策転換リスク=安井明彦氏

選挙中も公約は二転三転しており、政治経験の欠如、スタッフ不足、共和党議会の分裂リスクなど波乱要因は山積し、政策の不透明性が高水準となるのは必至だと見る。

同氏の見解は以下の通り。

<大きな政府への傾斜>

今回の米大統領選は、政治経験のない実業家ドナルド・トランプ氏が共和党候補者指名争いを勝ち抜いたうえに、本選でも勝利するという、異例の展開で幕を閉じた。後講釈にすぎないが、現状に対する米国社会の不満はそれだけ強く、トランプ氏が勝ったというよりも、政治のプロの象徴的存在であるヒラリー・クリントン氏(民主党候補)が負けたということなのだろう。

現状に対する不満の解消(真の変化)を約束して船出するだけに、トランプ政権は世論に振り回されながら常に迷走する恐れがある。そもそも、選挙期間中もトランプ氏の公約は二転三転しており、次期政権の特徴を一言で分類すれば「known unknown」、すなわち「分かっていないことだけが分かっていること」だ。政治経験の欠如、スタッフ不足など波乱要因は山積し、政策の不透明性が高水準となるのは必至である。

それでも過去の言動から政策運営をあえて予想すれば、次の3つの方向性は高い確率で追求されそうだ。まず「大きな政府」へのシフト、第二に、それにも関連するが、財政赤字の拡大容認、さらに米国第一主義に基づく閉鎖的・保護主義的な政策への転換である。

米国では「大きな政府の民主党」「小さな政府の共和党」と言われてきたが、そもそもトランプ氏の経済政策はその伝統的な共和党の路線から外れている。象徴的なのは、年金・医療保険だ。共和党はそれらの分野の予算削減を主張してきたが、トランプ氏は2015年6月の演説で「削減せずに、年金と医療保険を救う」と表明している。

注目すべきは、トランプ氏だけでなく、共和党の支持者においても、「大きな政府」志向が強まっていることだ。世論調査によれば、年金の削減に反対する割合は、民主党支持者と同じくらい高水準だ。かつて保守派運動「ティーパーティー」の躍進もあり、「共和党は小さな政府への傾斜が進んでいる」との論調がよく聞かれたが、そうした解釈の正しさが問われる状況となっている。

とはいえ、オバマ政権が導入した医療保険制度改革法(通称オバマケア)が廃止を免れるかは不透明だ。トランプ氏は、年金・医療保険の削減には反対しているが、民間保険業界主導の新たな仕組みの必要性を主張している。

現在、複数の州で保険料が高騰していることが社会問題となっており、それに対する政策的な手当てが足元で必要な点はトランプ政権も理解するだろう。だが、「クリントン大統領」ならば、恐らくはテクニカルな修正だけで済んでいたところ、オバマケア廃止までにらんだ大手術に乗り出す可能性もある。その場合、共和党は、オバマケアに代わる新たな仕組みを自ら提示する必要があり、混乱の長期化は必至だろう。

<共和党の分裂リスク>

トランプ政権で予想される政策方向性の第2のポイントは、財政赤字の容認だ。実は、クリントン氏も同様の政策方向性を示していたが(インフラ投資拡充の考えも同じ)、自然増を超えた財政赤字拡大の度合いや中身に関しては、大きな違いがあった。

特に歳入面では、クリントン氏の場合、富裕層増税が盛り込まれており、自然増を超えた財政赤字拡大の度合いはかなり小さかったが、トランプ氏の場合は、増税をせず、大型減税のみを提案していたことから、赤字拡大の度合いは格段に大きかった。

上下両院で過半を維持したとみられる共和党は、前述したように「小さな政府」志向とはもはや必ずしも言えない状況だが、民主党に比べて財政規律へのこだわりがいまだ強いのは事実だ。トランプ氏の計画通りに行くのか、共和党議会との綱引きとなろう。

最後に、対外的な関わりについて言えば、そもそもこれまでは民主党が保護主義的で、共和党が開放的な政策志向が強いと考えられてきた。ところが、今回の選挙戦では、むしろその逆で、トランプ氏の方がより強く閉鎖的な姿勢を前面に押し出した。「メキシコとの間に(移民流入を防ぐ)壁を築く」「環太平洋連携協定(TPP)は最もひどい通商合意」「日本は(在日米軍経費について)全額負担すべきだ」といったトランプ氏の発言はその象徴だ。

むろん、そうした言動は選挙戦を勝つための戦術だったのかもしれないが、トランプ氏の場合は、本気で言っている可能性も懸念される。後者ならば、トランプ氏を阻止できるのは、共和党議会だけという構図になる。トランプ氏が持論にこだわれば、共和党が大きく割れてしまうリスクも浮上するだろう。

*安井明彦氏は、みずほ総合研究所・欧米調査部長。1991年東京大学法学部卒業後、富士総合研究所(当時)入社。在米日本大使館専門調査員、みずほ総研ニューヨーク事務所長などを経て、2014年より現職。主な著書に「アメリカ 選択肢なき選択」などがある。

*本稿は、安井明彦氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:麻生祐司)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「米大統領選」に掲載されたものです。

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