March 5, 2018 / 1:53 AM / 3 months ago

オピニオン:トランプ大統領はセオドア・ルーズベルトになれるか

ビル・エモット 国際ジャーナリスト/英オックスフォード大学客員研究員

[東京 5日] - トランプ米大統領が置かれている状況は、富の集中が進み、反競争的行為と金権政治が横行した19世紀後半に似ていると、英エコノミスト誌元編集長のビル・エモット氏は語る。

この「硬化症」に対する有効な処方箋は、イノベーション加速の裏側で進む大企業の巨大化と市場独占をけん制する競争政策の強化や、格差拡大に強い不満を抱く「忘れ去られた男女」に対する教育支援拡充だと指摘。20世紀初頭のセオドア・ルーズベルト大統領(在任期間1901―1909年)の改革路線が参考になると説く。

同氏の見解は以下の通り。

<「金ぴか時代」の教訓>

いわゆる米国の「忘れ去られた男女」が経済面でも人生の期待値でも苦戦し続け、強い不満を抱えていたことが、トランプ大統領誕生の原動力となったことはよく知られている。企業の富と権力が、ウォール街や一部のテクノロジー企業、一握りの金持ちに集中していることも、「忘れ去られた男女」の不満の種だ。その不満は、トランプ氏やサンダース上院議員によってあおられてきた。

私が、トランプ氏がセオドア・ルーズベルトのような大統領になるチャンスがあると言っているのは、今からおよそ100年前、よく似た事態に対処した代表的な指導者が共和党のセオドア・ルーズベルト大統領だったからだ。

当時の米国は、独占資本の形成が急速に進んだ19世紀後半の「ギルディッド・エイジ(金ぴか時代)」を経て、少数の巨大企業が主要産業を支配し、金権政治が横行、「ロバー・バロン(泥棒男爵)」と呼ばれた大資本家による行き過ぎた行為が問題視されていた。

1901年に大統領に就任したセオドア・ルーズベルトは、反トラスト法を盾に、独占資本を攻撃。寡占的石油企業だったスタンダード・オイルの解体に道筋をつけるなど、「金ぴか時代」に広がった不平等に対処し、富の集中と競争の停滞で「硬化症」に陥っていた米国を立ち直らせる政治を行った。

トランプ大統領も、過去の共和党大統領の優れた政策に見習うチャンスがある。具体的には、人工知能(AI)や自動化技術などイノベーション加速の裏側で進む大企業のさらなる巨大化と市場独占をけん制する競争政策の強化や、格差が広がる中で苦しい生活を余儀なくされ疎外感を抱く「忘れ去られた男女」に対する教育支援拡充などが有効だろう。

<トランプ大統領の落とし穴>

実際、巨大化するテクノロジー企業やウォール街のような権力の中枢を攻撃し、「忘れ去られた男女」が置かれた状況の改善を図り、不平等に対処しようという意欲を、トランプ大統領は持っているように見受けられる。

ただ、問題はその実現方法だ。トランプ大統領にとっての誘惑は、各国に貿易戦争を仕掛け、「米国に雇用を戻す」と言って、移民や貿易に対し門戸を閉ざすことだろう。特に白人の労働者階級を支援することを大義名分として、製造業など「過去の産業」を復活させることにエネルギーを注ぐ可能性はある。実際、折に触れてそうした姿勢を示しており、最近も鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動する方針を明らかにしている。

要するに、より閉鎖的で後ろ向きの、保護貿易の追求だ。「未来のアメリカ」を作るためには公平な競争を促進し、労働市場をよりよく機能させることが必要だが、その真逆を目指す政策となるため、米国経済の地力は弱まってしまうだろう。

また、トランプ大統領に関する懸念をもう1つ言い添えれば、法の支配と対峙し、この民主主義の大事な源泉に害をなす恐れがある点だ。特にモラー特別検察官が率いるロシアゲート(2016年米大統領選へのロシア介入疑惑)に関する捜査へのトランプ大統領の対応ぶりが、米連邦捜査局(FBI)による合法的な捜査の信頼性をいかに傷つけているかを考えると、米国における法の支配に対して長期的なダメージを与える可能性は否めない。

<トランプ大統領は「西洋」の破壊者か>

 3月5日、英エコノミスト誌元編集長のビル・エモット氏は、トランプ米大統領(写真)が置かれている状況は、富の集中が進み、反競争的行為と金権政治が横行した19世紀後半に似ていると指摘。米ワシントンで1月撮影(2018年 ロイター/Win McNamee/Pool)

では、トランプ大統領の任期中に、先進諸国が共有してきた価値観や仕組みが崩壊するような事態はあり得るのか。その点については、私は比較的楽観している。

人工知能は高齢化先進国の救世主、ビッグブラザー化には注意(字幕・9日)

仮にトランプ大統領が内政面において第二のセオドア・ルーズベルトになれなかったとしても、世界に対するスタンスが積極的な敵対行為ではなく「ディスエンゲージメント(不関与)」にとどまる限り、「西洋」は存続できるだろう。なぜなら、保護主義的な色彩が強かったロナルド・レーガン大統領の在任中(1981―1989年)もそうだが、米国が不関与に傾き、西洋的な価値観から距離を置いていた時期は過去にもあったからだ。

ちなみに、私の定義では、西洋とは「イコーリティ(平等)」と「オープンネス(開放性)」という理念を、政治的、社会的、経済的なシステムとして採用している全ての国を指す。つまり、日本や台湾、韓国のような「東洋」の国々も含んでいる。

 「開放性」とは、自由市場経済を採用していることだ。それは、貿易、資本フロー、技術、アイデアに対してオープンであり、従って、あらゆる種類の破壊的イノベーションに対してオープンであることを意味する。「平等」がなぜ必要かと言えば、破壊的イノベーションは社会の混乱と変動をもたらすからだ。

これは、すでに証明されていると思うが、市民が政治や意思決定に対し平等に参加しているという意識を持っている社会、言い換えれば本物の自由民主主義社会は、独裁者が率いる、権利において不平等で、分断されている社会よりも、社会的変動を巧みに吸収し、歴史問題も上手に乗り切っている。そして、これら西洋の国々は、開放性と平等を尊重する国際機構と国際法を通じて互いに結びつき、国家間の競争を組み立てている。

ビル・エモット氏 写真:John Cairns

トランプ大統領が西洋を破壊するかという質問に戻れば、米国が不関与ではなく、例えば世界貿易機関(WTO)のような国際機構に対し積極的な敵対行動をとるならば、つまり米国が西洋のために築き上げた構造物や仕組み、ネットワークを徹底的に破壊しようとするならば、西洋は生き残ることができない。だが、不関与にとどまるならば、さほど壊滅的な事態になるとは思わない。西洋の縮小はある程度進むかもしれないが、米国に次の大統領が3年後、あるいは7年後にやってきて、物事を再始動できるだろう。

(聞き手:麻生祐司)

*本稿は、ビル・エモット氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいています。

――参考特集:「2018年の視点

――関連ビデオトランプ大統領は第2のセオドア・ルーズベルトになれるか

――関連ビデオ中国脅威論は行き過ぎ、「西洋」の敵は別にいる

――関連ビデオ人工知能は高齢化先進国の救世主、ビッグブラザー化には注意

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 *ビル・エモット氏は、英国のジャーナリスト。現在、英オックスフォード大学オール・ソウルズ・カレッジの客員研究員。同大学モードリン・カレッジ卒業後、ナフィールド・カレッジを経て、1980年に英エコノミスト誌に入社。1983年から3年間、東京支局長。1993年から2006年まで13年間、同誌の編集長を務めた。『日はまた沈む』『日はまた昇る』(共に草思社刊)など日本に関する著書多数。近著に「The Fate of the West」(邦訳版は『「西洋」の終わり』日本経済新聞出版社刊)。

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