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オピニオン:見えてきた「トランプリスク」=武田洋子氏
2017年4月21日 / 09:03 / 7ヶ月後

オピニオン:見えてきた「トランプリスク」=武田洋子氏

[東京 21日] - 医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の採決見送りはトランプ米政権の政策実行能力に疑問符を投げかけたが、米経済の行方を左右する真の正念場は、夏にかけて本格化するとみられる税制改革議論だと、三菱総合研究所・チーフエコノミストの武田洋子氏は指摘する。

仮にオバマケア同様、税制改革法案で議会との調整に手間取り、年内成立のめどが立たなくなれば、大統領選以降、消費者や企業経営者、投資家のマインドを支えてきた景気刺激策への期待が剥落し、米経済成長見通しの修正が必要になる可能性もあると説く。

同氏の見解は以下の通り。

<大盤振る舞いとは真逆のリスク>

メインシナリオは短期押し上げ、中期下押し――。トランプ政権の経済政策(トランプノミクス)効果に関し、以前よりこう述べてきた。

周知の通り、トランプ政権は、保護主義的な通商政策に加えて、大胆な経済対策を公約して誕生した。トランプ大統領が選挙期間中に掲げていたような大規模減税や巨額インフラ投資が実行に移されれば、短期的には景気を押し上げるが、長期金利上昇に拍車がかかり、経済に負の影響を与える可能性がある。

今のところ、こうした見通しを修正する予定はないが、3月末のオバマケア代替法案の採決見送りが、トランプ政権の政策実行能力に疑問符を投げかけたのは事実だ。共和党が上下両院で多数を占めるとはいえ、ホワイトハウスと議会の隔たりは思いの外に大きく、年内にスケールダウンした景気刺激策すらまとまらない可能性には、注意が必要になってきたかもしれない。

米消費者の間では、トランプ大統領が選挙期間中に公約した減税に対する期待が依然として根強い。大統領選後の消費者のマインドを示す指標は大幅に改善し、ITバブル期の2000年12月以来の水準に達している。

米経済における所得減税効果の大きさは、前回のブッシュ減税(2001年と2003年の2度にわたってブッシュ政権が実施した大型減税)で示されている。消費への寄与度を試算すると、2002年は2%程度押し上げられたとみられる。しかし仮に、年内に税制改革案がまとまらない可能性が見えてくれば、消費者や企業経営者のコンフィデンスが冷え込む可能性には警戒が必要だ。

ムニューシン財務長官らが主張するように、富裕層向けの税額控除縮小などを通じ、税収中立を極力目指す形での中間層に手厚い所得減税は、議会も比較的通りやすいはずだが、複雑な国境調整などの法人税の改革に関して意見がまとまらない可能性はある。

<外政で得点稼ぎを急ぐリスク>

経済対策でスケールダウンを余儀なくされれば、外政で巻き返そうとするのではないかとの見方もある。北朝鮮やシリア情勢など安全保障問題に限った話ではない。例えば、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉や対日・対中の2国間経済対話で成果を急ぐリスクだ。

米国では、米通商法301条に基づく制裁課税など2国間の通商問題に対する政策アクションについては、議会の同意を得ずに大統領令で実行に移せるものが多い。一方、議会承認を経て1994年に発効したNAFTAの再交渉は、さすがに大統領権限のみで進めることはできないが、すでに議会への働きかけは開始されているとの見方は多い。

国内経済政策の迷走を覆い隠すために保護主義政策の実行を急ぐようなことになれば、「短期押し上げ・中期下押し」どころか、「短期・中期とも下押し」となる。保護主義的な通商政策は、1)輸入物価を通じた消費者の負担増、2)世界経済の成長下振れ、3)他国の報復措置など、主に3つの経路を通じて米経済の下押し圧力ともなる。

第1の消費者負担は、トランプ氏を支持した低中所得層への影響が大きい。所得階層別に消費に占める輸入財の割合をみると、高所得層に比べ低中所得層で高いためだ。

第2の世界経済への影響に関しては、応用一般均衡モデル(GTAP)を用いた当社の試算では、米国の輸入関税率が10%引き上げられた場合、景気刺激策により米国の内需が1%増加したとしても、前者のインパクトが後者を上回り、世界各国にはマイナスの影響が及ぶ。

第3の報復措置の影響を定量化するのは難しいが、トランプ大統領の保護主義的政策がこうした流れを加速させる可能性がある。世界の保護主義化の流れはトランプ大統領誕生前から強まっているためだ。独立系の通商政策監視機関グローバル・トレード・アラート(GTA)によれば、2016年の20カ国・地域(G20)諸国による保護主義的措置は約350件と2015年の約250件を大きく上回った。

もっとも最近では、トランプ大統領の口から、中国やメキシコに対する関税大幅引き上げ発言があまり聞かれなくなった。これは、ワシントンでは、強大な政治影響力を持つといわれる小売業界のロビイストたちが議員のもとを訪れ、保護主義的政策のデメリットを説明して回っていることも影響している可能性がある。共和党議員も来秋の中間選挙を意識すれば、消費者に近い産業の声を無視することはできないだろう。

NAFTAの一部修正や2国間交渉の要請など、外政で「象徴的なエピソード」をつくることにより得点稼ぎを急ぐリスクは高まっているものの、トランプノミクスは案外、財政の大盤振る舞いもなければ、保護主義的政策も「実態」としては軌道修正されていく可能性はある。

財政規律に目配りした所得減税が実行に移され、そして過激な保護主義的政策の採用が見送られれば、米経済は2%台前半の成長を維持し、政策金利の引き上げも長期金利の上昇も緩やかなペースにとどまる可能性が高い。それが米経済、ひいては世界経済にとって最良のシナリオとなろう。

*武田洋子氏は、三菱総合研究所のチーフエコノミスト。1994年日本銀行入行。海外経済調査、外国為替平衡操作、内外金融市場分析などを担当。2009年三菱総合研究所入社。米ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、武田洋子氏の個人的見解に基づいています。

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