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オピニオン:トランプ各論政権の日本叩きは杞憂か=竹中平蔵氏
2017年6月30日 / 03:26 / 5ヶ月後

オピニオン:トランプ各論政権の日本叩きは杞憂か=竹中平蔵氏

[東京 30日] - 発足から5カ月を経て、より鮮明に見えてきたトランプ米政権の特徴は、政策運営の幹(みき)となる「総論」が欠如し、枝葉の「各論」のみがバラバラに展開されていることだと、竹中平蔵氏は語る。

それゆえに、分かりやすい成果として雇用創出や貿易赤字削減などに関する「政治的エピソード」が重視されるきらいがあり、その傾向は今後、足元の支持率低迷と来秋の中間選挙をにらんで、一層強まる恐れがあるとみる。

特に通商問題においては、トランプ政権が北朝鮮問題で協力を求める中国・習近平指導部に対して当面強く出にくい状況を考えると、日本への圧力が高まりやすいと警鐘を鳴らす。

同氏の見解は以下の通り。

<「エビデンス・ベースト」とは真逆の政策運営>

政権発足前から予想できたことではあるが、トランプ大統領率いるホワイトハウスの「各論政権」ぶりがここにきて、いよいよ鮮明化してきている。

どのようなマクロ経済運営を進め、いかなる成果を得たいのか、もっと言えば国づくりの方向性について、幹となる「総論」は全くと言っていいほど見えない状況だ。必然的に、枝葉の「各論」のみが横行し、政策運営の先行き不透明感は増すばかりとなっている。

東洋大学教授の竹中平蔵氏は米国のトランプ政権について、具体的な経済政策というより「政治的エピソード」を重視する特徴があると指摘。中間選挙をにらんで、米政権が日米経済対話を「エピソード作り」の場に利用することを、日本側は注意しなければならないと述べた。

先進国では近年、科学的根拠に基づく政策立案手法「エビデンス・ベースト・ポリシーメイキング」の導入が進んできたが、トランプ政権はそうした潮流に背を向けた。そのような政権が重視するのは、支持層の受けを狙った「政治的エピソード」の積み重ねとなろう。

分かりやすい例は、メキシコへの一部工場移転を進めていた大手自動車メーカーのフォード・モーターや大手空調機器メーカーのキヤリアなどを批判し、同計画を撤回させ、「雇用を守った」と勝ち誇ってみせたことだ。また、環太平洋連携協定(TPP)からの撤退や地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱表明も、米国人労働者のためというエピソードづくりに使われた。

長い目で見れば、保護主義や孤立主義は、米企業の収益力低下を招いて、より大きな雇用減少をもたらす可能性が高いという意味で、本末転倒であるわけだが、反エスタブリッシュメント、反エリートの掛け声のもと、そうしたエビデンスは無視され続けるのだろう。

ましてや、ロシアとの癒着疑惑に関する捜査を受け、政権支持率が沈み込んでいることを考えれば、エピソード重視の政策運営は今後、ますます強まるのではないか。来秋に中間選挙を控える共和党議会に効果的な歯止め役を期待することもできそうにない。

<日本の頭越しに米中間取引が行われるリスク>

こうした状況下、特に日本は米国から通商面での圧力が増す可能性に警戒すべきだ。もちろん、対米貿易黒字額は中国の方が何倍も大きいが、トランプ政権は北朝鮮問題で中国に協力を仰いでいる状況にある。通商問題で当面、習近平指導部を刺激しにくいことを考えると、中国の次に対米貿易黒字額が大きい日本やドイツに「口撃」の矛先が向く可能性は否めない。

また、米国と中国が日本の頭越しに、大きなディールを結んでしまう可能性にも警戒が必要だ。例えば、北朝鮮問題解決に向けた中国の対米協力強化と引き換えに、米国が中国主導のシルクロード経済圏構想(一帯一路)に参加するというギブ・アンド・テイクもあり得るかもしれない。その場合、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への米国の出資なども想定される。

確かに、トランプ政権の実働部隊である各省庁の高官ポスト(政治任用)の多くがいまだ空席の状況では、日米間にせよ、米中間にせよ、物事はそこまで早く進まないだろうとの見方は可能だが、エピソード重視でホワイトハウスがスタンドプレーに出る可能性はあり、油断は禁物だ。

ちなみに、ニューヨークの金融業界関係者らに話を直接聞くと、ムニューシン財務長官やロス商務長官ら経済閣僚の手腕に対する評価は高い。その手腕を有機的に結び付ける政策アジェンダ、すなわち総論がないとはいえ、各々の領域で案件ごとにタフな要求をしてこないとは限らない。

むろん、日米経済対話は米国の意向をくんで始まったものであり、日本が焦って時計の針を進める必要はないが、米中経済対話の動向にも十分に目配せしつつ、さまざまなシナリオをシミュレーションしておく必要があろう。

<第4次産業革命で広がる格差、トランプ政権は無策か>

最後に米経済の行方について言い添えれば、大統領選直後からしばらく続いたトランプラリー(株高・金利高・ドル高)が示したような過度の楽観も禁物だが、いたずらに悲観するのも間違いだと考える。

いわずもがな、米国の強さは、立法・行政・司法の三権分立がしっかり機能していることであり、それゆえにトランプ政権の暴走にも歯止めがかかっている。中東・アフリカ6カ国からの入国を制限する大統領令に関しては、連邦最高裁が26日、各地の連邦地裁・高裁から出されていた差し止め命令を見直し、条件付きで執行を認めたが、トランプ大統領が選挙中に公言していたような、米国の移民・国境管理政策の大転換は起きていない。

振り返ればトランプ大統領当選後に広がった不安には、2種類あった。1つは「何かとんでもないことを実行に移すのではないか」というもの。もう1つはその逆で「何もできないのではないか」というものだったが、現状はむしろ後者の「何もできない」不安が現実化しつつあるのではないか(それは不安ではなく、安心につながるのかもしれないが)。

財政についても、当初一部で予想されていたような大幅な拡張策は実行に移されない可能性がある。そもそも米国予算の特徴は、大統領の権限が限られていることだ。日本では予算案を作成し国会に提出するのは内閣の仕事だが、米国では予算の立案・決定権はすべて議会が握っている。予算教書などに示される大統領の意向がどこまで通るかは、政権の支持率次第だ。要するに、現在のように低い支持率では、共和党議会が、エピソードづくりには協力しても、財政中立という主義主張を捨ててまで大盤振る舞いに走るとは思えない。

とどのつまり、米経済は、大幅な財政拡大で成長率が一時的に大きく跳ね上がることも、とんでもない政策で腰折れすることもなく、巡航速度の成長を持続することになるのではないか。むしろ、注視すべきは、米連邦準備理事会(FRB)による金融政策正常化プロセスがうまくいくかどうかだろう。

ただ、これは米国に限った話ではないが、IoT(モノのインターネット)やフィンテック、AI(人工知能)といった第4次産業革命が進展していけば、その恩恵を受ける経済主体とそうでない経済主体の格差はどんどん広がっていくことになる。トランプ政権が所得の再分配政策を提示していないことを考えると、米国社会の分断は今後も深刻化していく可能性が高いだろう。そうした状況がさらに多くの政治的エピソードを必要とさせるような悪循環には警戒が必要になりそうだ。

(聞き手:麻生祐司)

*本稿は竹中平蔵氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*竹中平蔵氏は、東洋大学国際地域学部教授/慶應義塾大学名誉教授。1951年和歌山県和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)などを経て慶大教授に就任。2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣。02年経済財政政策担当大臣に留任し、金融担当大臣も兼務。04年参議院議員当選。05年総務大臣・郵政民営化担当大臣。現在、国家戦略特別区域諮問会議の有識者議員、未来投資会議の民間議員などを務めている。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトのトランプ政権特集に掲載されたものです。

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