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オピニオン:危機回避へ中銀頼みの劇薬浮上=倉都康行氏
2015年10月5日 / 05:52 / 2年後

オピニオン:危機回避へ中銀頼みの劇薬浮上=倉都康行氏

[東京 5日] - 米国の金融政策正常化プロセスが滞るなど、主要国の政策に手詰まり感が強まる中、世界経済の失速を回避するためには、多少の劇薬も検討の余地があると、独立系シンクタンク・RPテックの倉都康行代表は指摘する。英労働党の新党首が提案するインフラ投資事業の中銀ファイナンスはその一案だという。世界経済の行方と合わせて、今後の政策オプションについて聞いた。

同氏の見解は以下の通り。

<高まる世界経済失速懸念、米FRBのかじ取りに不安>

先週末に発表された9月米雇用統計が予想を大きく下回ったことで、少なくとも10月27―28日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げの線はほぼ消えたと見てよいだろう。12月15―16日FOMCでの実施の可能性は、今後の経済指標次第ではゼロとは言えないが、以前に比べればかなり小さくなったと思われる。

このような米利上げ観測の後退を受けて、資金流出に見舞われていた新興国・資源国経済も一息つけるとのロジックから、世界経済の先行きに対する懸念や国際金融市場の混乱がいくらか収まるとの見方もあるが、果たして本当にそうなのだろうか。

率直に言って、私は、このような形での米金融政策をめぐる不透明性の排除が、年末に向けて市場や経済の好材料になっていくとは思えない。理由は2つある。

第1に、米連邦準備理事会(FRB)の政策運営能力に対する信頼性の低下だ。特にここ数カ月間、利上げの要否をめぐる米金融当局幹部のメッセージは、二転三転してきた。

9月17日のFOMC声明文や同日行われたイエレンFRB議長の会見内容は、「中国やその他の新興国の成長をめぐる懸念」に言及し、不透明な世界経済情勢が重石となり、早期利上げの可能性は低いとの印象を植え付けた。

ところが、そのわずか1週間後には、イエレン議長(24日講演)やダドリー・ニューヨーク連銀総裁(28日講演)が一転して、米経済の堅調さを理由に、年内利上げの可能性を強く打ち出した。これでは、米金融当局が政策運営に自信を失っていると捉えられても仕方がない。常々感じていることだが、イエレンFRBの市場との対話には整合性が欠けているように思われる。

2点目の理由は、早期利上げが難しくなることで米金融政策をめぐる不透明性が薄まるとしても、その分、中国経済の悪材料に市場の不安が集中してしまうリスクだ。前述したように、イエレン議長は9月FOMC後の会見で、利上げ見送りの理由の1つに中国要因を挙げている(それだけでも、年内利上げは難しいという解釈は可能だ)。今後は投資家が今まで以上に中国発のネガティブなニュースに過剰反応する恐れがある。

ただでさえ、中国当局は今年に入ってから、市場の混乱に対するリスクマネジメント能力の低さを露呈してしまっている。6月の上海株急落後のなりふり構わぬ株価テコ入れ策といい、8月の人民元切り下げ後の人民元買い・ドル売り介入といい、ちぐはぐな政策対応ぶりが続いている。

言うまでもなく、現在最も警戒すべきシナリオは、中国発のデフレリスク伝播であり、それが新興国経済のみならず先進国経済の下押し圧力となり、世界経済が3%の成長ラインを割って失速することである。こうしたシナリオは数カ月前までは杞憂だったが、今ではそうとも言い切れない情勢になっていると考えている。

<ルビコン川を渡った中銀に英労働党が新たな提案>

問題は、世界経済が明らかに変調をきたしているにもかかわらず、主要国の金融・財政政策に手詰まり感が強まっていることだ。

ちなみに、FRBの場合、もっと早く利上げを行い、ゼロ金利から脱していれば、今頃は0.25%から0.5%の利下げの「のりしろ」があった。追加緩和が必要な状況になっても、伝統的金融政策で対応することはある程度可能だったわけだ。

しかし、今や利上げの好機は逸してしまったように思われる。景気サイクルの面から考えても、米国の景気拡大期はすでに6年を超え、5年弱という戦後の平均を上回っており、今後減速に向かう可能性は低くない。そうした場合、FRBは量的緩和第4弾を求める政治圧力にさらされないとも限らないだろう。

それならば、欧州中銀(ECB)や日銀の追加緩和に期待すればよいとの見方もあるかもしれないが、量的緩和の限界は、三度行いながら、インフレ率もさほど高まらず、労働市場の改善ペースも足踏みしている米国の状況が示している。日銀の異次元緩和も思ったような成果をあげられていないのが実情だ。

財政政策に目を移しても、米国は来年、大統領選を控えており、大規模な財政出動には共和党の激しい抵抗が予想される。欧州でもドイツや英国は財政緊縮下にあるし、日本の財政余力の低さはあらためて説明するまでもないだろう。また、財政余力を残す中国にしても、過剰投資体質からの脱却途上にある以上、リーマンショック後の4兆元投資のような大盤振る舞いは期待薄だ。とどのつまり、政策的な制約とけん引力不在の中で、世界経済は深刻なデフレリスクに直面しかねない状況にある。

こうした中、非常に興味深い政策アイデアだと思えたのが、9月に英労働党の新党首になったジェレミー・コービン氏が掲げている「People’s Quantitative Easing(国民のための量的緩和)」だ。簡単に説明すれば、国債購入を中心とする既存の量的緩和とは違い、インフラ投資事業を中銀がファイナンスするものだという。

むろん、文字通りの財政ファイナンスであって、劇薬だ。伝統的金融政策の立場からすれば、禁じ手以外の何物でもない。ただし、その意味では既存の量的緩和も同じであり、日米欧はじめ多くの主要国中銀はすでにそのルビコン川を渡ってしまったと言える。

「国民のための量的緩和」の理屈は、既存の量的緩和が資産効果(株価・不動産価格)に働きかける金持ち優遇政策であるのに対して、インフラ投資によって広く国民に利益が直接届くというものだ。高インフレを招くとの批判も聞こえてきそうだが、既存の量的緩和でもインフレにならない現状に鑑みれば、その理屈を一方的には否定できないだろう。

確かに、対象プロジェクトの制限など具体的な政策設計で議論すべき点は数知れない。だが、主要国の低インフレ・低成長が長期化し、世界経済の失速リスクも高まる中、金融先進国の英国から浮上してきた新たなアイデアは少なくとも傾聴に値するのではないか。

英労働党の新党首が提案しているインフラ投資事業の中銀ファイナンスは傾聴に値する面もあると、国際金融評論家の倉都康行氏は指摘する。

*本稿は、倉都康行氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*倉都康行氏は国際金融評論家。独立系シンクタンク・RPテックの代表取締役。東京大学経済学部卒業後、東京銀行に入行。新商品開発、マーケットメイキング、リスク管理など国際金融市場全般に携わる。バンカース・トラストとチェース・マンハッタンのマネージングディレクター、チェース証券会社取締役東京代表などを経て、2001年4月にRPテックを設立して独立。「投資銀行バブルの終焉」「予見された経済危機」「12大事件でよむ現代金融入門」など著書多数。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

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