March 20, 2019 / 6:20 AM / a month ago

オピニオン:世界経済は5月以降反転へ、悲観無用な5つの根拠=青木大樹氏

[東京 20日] - 世界経済の後退懸念が足元で高まっているが、1─3月期の弱い数字は一時的な要因によるものが大きく、5月以降は復調がはっきりする、とUBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)、青木大樹氏は予測する。

3月20日、世界経済の後退懸念が足元で高まっているが、1─3月期の弱い数字は一時的な要因によるものが大きく、5月以降は復調がはっきりする、とUBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)、青木大樹氏は予測する。ニューヨークの「ウォールストリート・ブル」。1月撮影(2019年 ロイター/Carlo Allegri)

ただ、中国は経常収支の赤字化懸念がくすぶってV字回復が見込めない上、米国も政治リスクの台頭や市場予測に反して9─12月に利上げが実施される可能性があるなど、年末にかけてボラティリティー(相場変動)が高まる可能性は十分にあると指摘する。

同氏の見解は以下の通り。

<「景気減速」は一時的>

輸出や投資データの急速な悪化から、世界的に景気の後退懸念が市場に広がっている。だが、景気減速に対する過度な悲観論は不要とみている。1─3月期の落ち込みは、5つの一時的な要因によるところが大きい。短期的に弱い数字が続く可能性はあるが、5月以降は復調が明確となり、株価は再び上昇基調に入るだろう。

まず、中国の輸出減速は、駆け込み需要の反動によるところが大きい。今年1月1日から対中関税を引き上げるとしていたトランプ米大統領の方針を受け、中国からの輸出は昨年10月をピークに急増。だが、11月に入って米中交渉が開始され、12月1日の首脳会談で「一時休戦」が成立すると急減した。中国の輸出の減少幅は非常に大きいが、多くは一時的なものだ。

次に、昨年10月以降の株価下落の影響で、米企業などが設備投資を延期したり、家計支出が鈍るといった「負の資産効果」が生じ、これが1─3月期の数字に表れた。しかし、当時の株価下落はアルゴリズム取引が主因であり、株価が戻るにつれて影響は減退し、今後はリバウンドが期待できるだろう。

もう1つ大きな要因が、急激な米金利上昇だ。米10年債利回りは、昨年10月に3.2%台まで上昇した。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長はこれも踏まえ、年初からハト派姿勢に転じ、利上げに慎重な態度で臨む考えを強調している。金利上昇の影響は次第に薄れてくるだろう。

昨年10月以降に原油価格が急落し、米国のシェールガス投資が急減速したことも要因だ。シェール投資は、当社試算で2017年の米経済成長率2.2%の0.5%ポイントを占める極めて大きいものだが、これが1─3月期は前期比でマイナスになると見込まれる。しかし、原油価格は中国の需要復調に加え、米国による経済制裁を受けたイランの生産減少、石油輸出国機構(OPEC)の減産もあり、徐々に戻してくるとみている。

最後に12月─1月の米政府機関閉鎖の影響が挙げられるが、これもむろん一時的要因だ。

UBS証券は1─3月期の米国内総生産(GDP)が1%成長に届かず、プラス0.5%程度まで落ち込む可能性もあると予想している。だが、これまで検討した5つの要因から、減速は一時的なもので、4─6月期に強いリバウンドが期待できると予測する。

もう1つ強気の材料となるのは2017年に実施された米所得税改革の影響で、2019年は過去の平均より大きな還付金が見込まれる点だ。当社試算では、今年1─5月の還付金額合計は過去平均より200億ドル(約2兆2300億円)増えると予想され、4─6月期の消費に追い風となるだろう。

中国に視線を移すと、鈍化していた融資の伸びが今年1月に明確にボトムアウトしている。昨年実施された景気刺激策の効果が金融市場にも表れ始めたことがうかがえる。

<パウエル・プットは信頼できるか>

とはいえ、過熱もしなければ冷めすぎもしない、低金利・低インフレ・低政治リスクのいわゆる「ゴルディロックス(適温)」相場が再現されるかといと、そうではない。悲観する必要はないものの、過度に楽観することもできない。特に、年末にかけてはボラティリティーが高まりやすくなる可能性もある。

楽観できない1つ目の理由は中国の状況だ。中国政府は今月の全国人民代表会議(全人代)で、昨年の倍近い2兆元(約33兆円)の個人・企業向け減税や、400億元規模のインフラ支出拡大など、合計23兆元の意欲的な財政支出を示した。一方、財政赤字目標はGDP比2.8%と、2018年の目標2.6%に対してほぼ横ばい、実績値4.2%からは改善を考えているようだ。

財政拡大を公約として掲げる割に、財政赤字を増やすというメッセージにはなっていない。ここに、中国が抱えるジレンマが表れている。

中国は内需拡大を進めており、今回の積極財政も内需を念頭に置いている。一方で、財政赤字の拡大は、すでにギリギリのところにある経常収支の赤字化懸念を高める。外貨準備高が急減して資本が流出すれば、為替の安定が損なわれ、国内貯蓄でファイナンスされているシャドーバンキング(影の銀行)を巡るリスクも再燃しかねない。

つまり、内需を拡大して輸入を増やす政策は打ち出しにくい。中国政府は経常収支や外貨準備の動向をにらみながら、慎重に政策を遂行していくことになるだろう。

過度な楽観を慎むべき理由のもう1つは、パウエルFRB議長だ。1月以降に急速に政策スタンスを修正させることで市場を安定化させたいわゆる「パウエル・プット」を、どこまで信用できるかという問題だ。

UBS証券は人工知能(AI)で連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録と声明文を読み取り、「ハト派度」と「タカ派度」を数値化する「FRB態度指数」を作成した。これを政策金利に対する期待を示す米フェデラルファンド(FF)金利先物(6カ月変化)と対比すると、直近では大きな乖離(かいり)がみられる。

つまり、態度指数は依然として年内1回の利上げの範囲内にあるのに対し、足元のFF金利先物の変化は、一部利下げまで織り込んでいるのだ。議事録と声明文から読み取れる以上に、パウエル氏の数々の発言は「ハト派」寄りの態度を市場に織り込ませていることになる。

問題は、どちらが正しいかということだが、前述した当社の米国の景気見通しやFRB態度指数が正しいなら、9─12月に1回の利上げがあると予測する。市場はまったく利上げを織り込んでいないため、実際に実施されれば市場の混乱を招く恐れがある。

トランプ大統領も、過度に楽観できない材料の1つだ。トランプ氏は中国への姿勢をいったんは和らげているが、景気や株価が回復してくれば、2020年の大統領選を念頭に、再び厳しい要求を突きつけるかもしれない。

また、メキシコ国境の壁建設を巡る民主党との溝も不安材料だ。10-11月に資金が枯渇するため債務上限引き上げで対立が激化し、米国のデフォルト(債務不履行)懸念が高まる恐れがある。また、いわゆるロシア疑惑の展開も大統領選挙に向けた焦点となろう。

<8─9月がピーク>

こうしたリスクをはらみつつ、世界経済は5月以降に株価が再び上昇基調に転じ、8─9月ごろピークを迎える可能性が高い。この中で投資戦略は、米国株ならプット・オプション(売る権利)などを付けることが基本になる。債券は、過度に売られている欧州やアジアの中で社債、ハイイールド債などを選別的に拾うのがいいだろう。

日本株は、米国株がピークを迎えるのに合わせて上昇余地はあるが、積極的に買われる材料があるわけではない。上げても2万3000円程度ではないだろうか。

ドル円相場は、米金利の上昇余地が限られていることから、上値は1ドル=112円程度だろう。1年以上の中期的なスパンでみた水準は、過剰に割安なユーロが買われてドルが下落する結果、1ドル=105円程度まで下がる可能性がある。ただ年内は、下がっても108円程度までとみている。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載された青木大樹氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいて書かれています

(聞き手:山口香子)

青木大樹氏(本人提供)

*青木大樹氏は、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の日本における最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミスト。2001年より内閣府で政策企画・経済調査に携わった後、2010年にUBS証券入社。2016年、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査の日本経済エコノミスト部門にて5位(外資系1位)に選ばれる

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