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2023年の展望:ゆっくり進む円高、日銀本格利上げならショック発生=植野大作氏

[東京 29日] - 「光陰矢の如し」の格言よろしく、今年もあと2日で大みそかだ。ここで改めて2022年のドル/円相場を振り返ってみると、想定外のイベントや政策変更が頻発し、事前の予測が困難な乱高下が引き起こされた「為替アナリスト泣かせ」の年だったと言えるだろう。

 2022年のドル/円相場を振り返ってみると、想定外のイベントや政策変更が頻発し、事前の予測が困難な乱高下が引き起こされた「為替アナリスト泣かせ」の年だったと言えるだろう。写真は円紙幣。6月撮影(2022年 ロイター/Florence Lo)

<円安急進展後の円高>

1月3日、115円前後で始動したドル/円相場は、同月下旬に一時113円47銭と今年の安値を記録したが、2月にロシア・ウクライナ戦争が勃発すると米国のインフレ率が強烈に上振れして米連邦準備理事会(FRB)が超速利上げを開始。米金利の先高観によって強まるドル高圧力と資源高で膨張した日本の貿易赤字に由来する実需の円売り圧力が入り混じり、10月には一時151円95銭と32年3カ月ぶりの高値を記録した。

ただ、その後は日本政府が巨額のドル売り・円買い介入を実施すると相場の風景が一変。人為的な需給操作で市場のドル買いクッションが一時的に薄くなる中、海外短期筋が感謝祭からクリスマス前の利益確定のドル売り圧力を強めると、急激なドル安・円高が進行した。

既往の米利上げによる米国景気悪化懸念がドル売り材料視される中、師走の日銀会合で予想外の緩和修正が発表されると1日で約7円もの円高ショックを招き、一時130円58銭と4カ月半ぶりの安値圏まで差し込んだ。

その後はようやく下げ止まったが、134円台では戻りの鈍い印象を否めない。今年の年足は「2年連続の陽線引け」がほぼ確実なので「円安の年」になりそうだが、11月と12月に出現した派手な大陰線が、局面変化の予兆であるかのような存在感を示している。果たして、来年はどんな展開が待っているのだろうか──。

<23年は3年ぶりの年足陰線か>

結論から先に述べると、2023年は「3年ぶりの年足陰線」を記録、「円高の年」になる可能性が高い。

テクニカル的にみると、今年10月高値の151円95銭から12月安値の130円58銭までの下げ幅は、約10週間で21円37銭にも達している。

これだけ深い差し込み傷がチャートに入って市場観察の目線を一気に下げさせられると、さすがに円安支持派の心が折れる。「近い将来の150円台復帰の可能性は消えた」とみる市場関係者が激増しており、期待の自己実現によるドル安・円高局面への移行が促されるだろう。

今年の秋まで続いたドル高の原動力だった米国の利上げは、年明け後もしばらく続きそうだが、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で更新された政策金利見通しによれば、来年の春頃には5%程度で打ち止めになる可能性が示唆されていた。

外国為替市場の住人は先読み好きなので、将来起きそうなことを早めに織り込むくせがある。米国の利上げ局面が終盤に差し掛かっているとの見方が広がるにつれ、その後の米利下げ局面への移行を見越して、ドル売りを進める可能性が高い。

1985年のプラザ合意による政策的な為替相場の水準調整が終了した1980年代末期以降、ドル/円相場のトレンドがいったん変化すると、円安局面も円高局面も1年以内に終わったケースは一度もない。少なくとも来年中は円高が進むことになるだろう。

<円高テンポ緩やかな3つの理由>

だだ、筆者はこれから述べる3つの理由から、今年10月高値の151円台を頂点にして始まったドル安・円高局面は、今後は速度を落として比較的穏やかに進むとみている。最近の勢いをこのまま維持して円高一直線という雰囲気にはならないのではないか。

第1に、今年10月高値の151円台から12月安値の130円台に至るまで、わずか10週間で21円37銭もの急落は、さすがにスピード違反の疑いが濃厚だ。このまま機械的に延長すると、来年の3月末には1ドル=90円台に突入するような無茶苦茶なペースなので、一本調子で続くとは思えない。

今後、どこかで売られ過ぎの修正を促す自律反発の局面が来れば、当該下げ幅のフィボナッチ分割38.2%戻しの水準である138円台や、半値戻しに相当する141円台の手前あたりまでなら買い戻される可能性はあるだろう。どんなに明確な理由があって円安や円高が進む場合でも、為替は定規で引いたような一直線の動きにはならない。

第2に、日銀は今年の師走会合で市場に衝撃を与える緩和修正を行ったが、我々は来年中のさらなる緩和修正を見込んでいない。「来年4月の黒田東彦日銀総裁の退任後、新たな日銀執行部が追加的な緩和修正に動く」との思惑はくすぶっているが、当該時点における日本の景気・物価情勢を想像すると、恐らくそのような期待は実現しないだろう。

新体制の日銀執行部が発足する来年の春頃には、米国経済の減速が顕著になっている可能性が高い。「米国経済がクシャミをすると日本経済が風邪をひく」の格言通り、恐らくその頃には日本経済の雲行きも怪しくなっているのではないか。

最近の原油安と円高の影響により、現在一時的に3%台後半まで上昇している日本の物価上昇率についても、来年の春以降になると安定的に政策目標の2%を再び割ってきそうだ。

そのような状況の下で、日銀がさらなる株安・円高ショックを引き起しそうな追加利上げに動く可能性は低い。日銀が短期の政策金利をマイナス0.1%に据え置き、長期金利< JP10YTN=JBTC>の上限0.5%をキープしている間、日本の金利は短期も長期も世界で一番低い状態が続く。

来年、米金利の先安観を背景にしたドル安が進めば、結果的に受動的な円高は進むことになりそうだが、世界で最も低い日本の長短金利の魅力がアップしなければ、超円高が進む際に必要不可欠な「円の上値を追いかけてでも買い続ける」為替需給の担い手は現れ難いだろう。能動的な円高推進力は生まれないのではないか。

第3に、貿易収支の赤字体質が定着しつつある令和の日本では、国内外の金融政策の方向感とは関係なく恒常的に片道切符で持ち込まれる実需のドル買い・円売りのフローが、ドル安・円高局面での下振れ幅を和らげるクッションのような役割を果たしている。

最近の原油安と円高の影響を受け、これまで拡大基調で推移してきた日本の貿易赤字は、来年以降縮小に転じる可能性が高いが、赤字の状態が続く限り、実需のドル不足・円余剰は解消されない。令和の時代、円高の値幅は平成の頃のようには広がり難いのではないか。

以上の諸点を総合的に加味すると、2023年のドル/円相場は3年ぶりの陰線になるものの、130円割れの水準では底堅く推移する可能性が高い。その後、24年まで円高が続く場合は、120円割れの可能性も視野に入ってくるかもしれないが、かつて見たような100円割れの水準へ深く差し込んでいくような円高の再来は想定していない。

<日銀の矢継ぎ早な対応なら、円高急進展も>

もしも来年、筆者の見通しが外れるとすれば、4月に発足する新たな日銀執行部が、比較的早期に現在の長短金利操作を撤廃すると同時にマイナス金利政策も廃止して本格的な利上げ局面に移行した場合、強烈な円高ショックが再び走ることになるだろう。

一方、来年の米国経済が意外な粘り腰を発揮して賃金や物価が下がらず、米国の利上げの最終到着点が、現在市場が織り込んでいる5%前後ではなく、6%をはるかに超える水準に引き上げられた場合は、ドル高トレンドの復活もあり得るだろう。ただ、いずれも現時点では可能性が非常に低いリスク・シナリオだと考えている。

編集:田巻一彦

*12月27日までの情報に基づいています。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍。国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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