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展望2021:ドルは100円割れへ、ピッチは緩やか

[東京 28日 ロイター] - 来年の外為市場はドル安予想が大勢。米国の拡張的な財政政策や緩和的な金融政策が通貨安につながる一方、そうした政策がグローバル市場に安定感をもたらし、リスクオンムードの下で、円も弱含みやすくなる。ドル/円は年後半に向け、100円割れへゆっくりと上値を切り下げていくイメージを描く参加者が多いようだ。

12月21日、来年の外為市場はドル安予想が大勢。米国の拡張的な財政政策や緩和的な金融政策が通貨安につながる一方、そうした政策がグローバル市場に安定感をもたらし、リスクオンムードの下で、円も弱含みやすくなる。写真は米ドル紙幣と日本円紙幣。2017年6月撮影(2020年 ロイター/Thomas White)

ドルも円も弱いなか、財政統合に踏み出したユーロの一段高を見込む参加者もいる。 

市場関係者の見方は以下の通り。

●ドル安継続、100円割れも

<シティグループ証券チーフFXストラテジスト 高島修氏>

米ドル安の継続が基本シナリオだ。ドル指数は基本シナリオとして年間で1割ほど、リスクシナリオでは最大2割ほど下落してもおかしくないとの見方をとっている。

その理由は、1)米国の金融・財政刺激策が大規模で経常赤字のファイナンス環境が悪化している、2)ドル建て資産のバリュエーションに割高感がある、3)世界的に投資家のドル建て資産が膨らんでおり、為替ヘッジ比率も低いと考えられる、ことだ。

さらに、4)新興国を中心とした世界の外貨準備運用担当者が、通貨の保有割合を考慮して、対ユーロなどで米ドル売りを出す可能性があることも、ドル安の加速要因として挙げられる。

広範なドル安に対して新興国が自国通貨売り/ドル買い介入を行うと、外貨準備に占めるドルの割合が過剰となるので、取得したドルの一部を、対ユーロなど他の主要国通貨で売る操作が行われる。それが主要国通貨に対するドル安を加速させる。

一部試算によると、世界の外貨準備高は今年に入って増加ペースを速めており、14年末に記録した過去最高額の12兆ドルを超えてきたもようだ。春以降のドル安局面で、こうしたメカニズムが働いてきたことを感じさせる。

ドル安が世界経済を安定させ始めれば、リスクオン的な市場環境が補強される。リスクオン的な円安が部分的に相殺しても、全面的なドル安の中でドル/円も100円台を割り込むことになってもおかしくないと考える。ドルが2割ほど下落するリスクシナリオでは、95円程度までの値崩れにも覚悟が必要になるだろう。

ドル/円の予想レンジ:97─107円

●日本の景況感悪化、円高圧力に

<三菱UFJ銀行 チーフアナリスト 内田稔氏>

ドル/円は変動相場制移行後初めて、6年連続のドル安/円高になる可能性が高いとみている。

米国では経常赤字が拡大、長期金利が低下している。マネタリーベースは過去最大規模に膨らんでおり、ドル資産に割安感が出るまで、通貨安圧力は続くだろう。民主党政権の政策も保護主義的とみられ、ドル安志向が強くなりやすい。

日本の景況感悪化も円高圧力を高める。物価には下押し圧力が加わり、名目金利からインフレ率を差し引いた実質金利はプラス圏へ浮上した。実質金利との相関が高い円相場にも、じわりと増価圧力が加わっている。

日米購買力平価(PPP)レートは19年末時点で101円半ば。13年以降、相対的に高いドル金利と日本の実質金利低下で実勢はPPPを上回ってきたが、現在はどちらも下支えの役割を果たしていない。実勢が再びPPPを割り込む危険性が増している。

ドル/円の予想レンジ:97─106円

●ドル/円は緩やかに下落、年央に100円割れ見込む

<JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長 佐々木融氏>

2021年のドル/円は、リスクセンチメントよりも、実質金利や経常黒字といったファンダメンタルズにけん引されると考えている。たとえグローバルな株式相場が今後も上昇を続けたとしても、それが円の緩やかな上昇を阻む壁となる可能性は低いだろう。

世界的な金融緩和を受けて各国の名目金利にあまり差がつかなくなってきている中で、今まで以上にインフレ率を考慮した実質金利が重要になるだろう。日本のインフレ率は低位に留まる見込みであり、主要10カ国と比較して、円の実質金利は相対的に魅力的になっている。

日米消費者物価指数(CPI)の格差は、2019年までの過去6年間でピークの200ベーシスポイント(bp)から50bpへと縮小したが、過去数カ月間で再び200bpを超える程度まで拡大しており、ドル/円が1990年代終盤のような下落基調をたどる可能性を示唆している。

一方で、円高が持続したとしても、政府・日銀が為替介入や追加緩和に乗り出す可能性は限定されるだろう。

今後も株価の上昇基調が続けば、為替介入の必要性は薄れるうえ、米財務省の「為替操作国認定」の3基準のうち、日本は既に対米貿易黒字と経常黒字の2つを満たしている。積極的な円売り介入を実施すれば3つ目の基準も満たすことになり、米国から報復を受ける余地がある。

また、新型コロナ・パンデミック以降の世界的な金融緩和・低金利環境において、日銀のさらなる緩和政策が直接的に円安につながる可能性は低いだろう。

世界的な低金利環境で、本邦投資家の対外投資活動はペースダウンすると予想する。また年金基金の外国債券投資は概ねポートフォリオ目標に達しており、今後の対外投資フローは縮小するとみられ、円売り圧力の低下が見込まれる。

ドル/円の予想レンジ 98―106円

●ユーロが為替相場の主役の年に

<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>

ドルの全面安を予想する。その核として大きく買われる通貨はユーロになるとみている。

ユーロ圏では2021年から7年間にわたりコロナ復興基金を含む1.8兆ユーロの中期予算が割り振られる予定だ。

ユーロ圏は1999年の単一通貨ユーロの導入により通貨を統合し、欧州中央銀行(ECB)を軸に金融政策も統合し、ブロック経済圏として形を成してきたが、唯一の弱点は各国の財政がバラバラだったことだった。

しかし、新型コロナのパンデミックを前にして、ユーロ圏の財政は一枚岩となり、大規模な債務の共有化による財政統合に踏み出した。この変化がユーロ買いをさらに推し進めていくだろう。

一方、米国の新型コロナ追加景気対策は、民主党の当初プラン(3.4兆ドル)に比べかなり小ぶりになっている。この経緯を見るに、バイデン政権が目論む10年間で10兆ドルという大きな政府・財政支出の実現は難しそうである。

ドル安のトリガーとしては、財政統合を進めるユーロの再評価、バイデン政権下の財政赤字拡大に伴う悪い金利上昇、超低金利政策の長期化の可能性を映じたドル売り、そして、ドル安を指向する民主党政権の為替政策が考えられる。

デジタル通貨や暗号通貨の台頭と相まって、基軸通貨としてのドル価値の棄損という流れも作用するだろう。

穏健派と見なされるバイデン政権だが、人権や環境への問題意識は高く、この点で中国との関係が一層悪化すると、地理的に近く、親米派のわが国において、地政学的リスクを反映した円売りを誘う場面もあろう。

ユーロ/円では2018年前半の135円程度まで、ユーロ/ドルでは1.35ドルまでのユーロ高を見込んでいる。

ドルと円は売られるため、ドル/円の値幅は狭くなるが、ドル売りで収益を確保しやすい通貨ペアとして短期筋の標的となれば、一時的に95円前後までのドル安もあると予想する。

ドル/円の予想レンジ:95―110円

*ロイター編集部では、2021年の経済、市場、業界などを展望するインタビュー記事を「展望2021」として配信します。 内外経済や国際情勢、金融市場や各業界の見通しなどについて随時配信していきます。

基太村真司、森佳子 編集:石田仁志

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