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2023年の展望:ドル/円は128‐143円か、中国のコロナ急増などリスク目白押し=内田稔氏

[1日 ロイター] - 115円台で始まった2022年のドル/円は日米金利差と日本の貿易赤字の拡大を主因に、歴史的な上昇相場となった。しかし、一時152円台に迫ったところからドル/円も足元では130円台半ばまで反落した。

 115円台で始まった2022年のドル/円は日米金利差と日本の貿易赤字の拡大を主因に、歴史的な上昇相場となった。写真は日本円紙幣。2010年9月撮影(2023年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

2023年に関しては、景気後退入りに伴う米国の利下げ観測や総裁交代後の日銀による政策見直しへの警戒から、ドル/円の続落を見込む声も高まりつつある。

しかし、円の反発力やその持久力が強いとは言えず、ドルについても他通貨との相対的な比較でみれば、このまま下落トレンドが続くとは考えにくい。そこで、改めて円とドルの現状を踏まえ、2023年のドル/円相場のシナリオを整理しておく。

<依然として円は弱い通貨>

円の材料からからみておくと、2023年も貿易赤字が続く見込みだ。資源価格の騰勢が一服しており、通年で20兆円規模に膨らむ見通しの2022年よりは縮小するだろうが、それでも、過去最大で3兆円に届かなかった訪日外国人の円買い(サービス収支の黒字)で打ち消すことは難しく、実需は円売り過多のままとなりそうだ。

日銀に関しては、政府との共同声明やフォワードガイダンスの見直しが見込まれる。物価安定目標の「2%」を「2%程度」に、「できるだけ早期に」とされている目標達成までの期間も「中長期的に」とするなど、日銀の自由度が増す方向に修正されることが市場でもコンセンサスとなってきた。

その上、長期金利の上限が25bp引き上げられたため、マイナス金利の解除も有り得る。金融仲介機能の維持に必要な金融機関の利ザヤの源泉であるイールドカーブの傾きが従前よりも確保されるからだ。どれも正常化への布石とみなされ、円高期待を高めよう。

とは言え、イールドカーブコントロール政策(YCC)が取り除かれる可能性は低いのではないか。日本経済は依然としてマイナスの需給ギャップを抱えている。新型コロナウイルス対応特別オペ制度縮小の影響でマネタリーベースも縮小に転じ、2023年5月には実質無利子・無担保の保証付き融資、いわゆる「ゼロゼロ融資」の利払いも始まる。

こうした中で政府は、防衛費増額に伴う財源の一部を増税で賄う方針を示した。ここにYCCの見直しが重なると、日本経済に二重の引き締めを強いることとなる。日銀が重視する賃上げも中小企業まで含めた場合、どの程度まで進むのか、未知数だ。輸入材価格の上昇に伴うコストプッシュ型のインフレが主導する日本の物価の伸びも、2023年は縮小に転じる公算が大きい。

このような状況で緩和縮小を急ぎ、経済に混乱が生じた場合、その批判の矛先は日銀にも向けられよう。足元の状況を踏まえると、円金利の上昇はあってもかなり限定的とみられ、主要通貨の中で円の金利が最も低い状況は変わらないだろう。このため、実需筋はもちろん、投機筋も基本的には円ショートを維持しそうだ。総じて円が弱い状況は変わらないと考えられる。

<粘着質な米インフレ、ドル安は短命か>

次に、ドルについて言えば、金利上昇が一服したことでドル高もピークアウトした可能性が高い。米国の交易条件の改善を通じてドル高に作用した資源価格の騰勢も和らいでいる。これまでのドル高の反動から当面の間、ドルが弱含み、上値の重い時間帯が続きそうだ。

しかし、米国の労働市場の需給は依然としてひっ迫している。モノやエネルギー価格の上昇にけん引される日本やユーロ圏と異なり、米国のインフレは賃金インフレを通じて、幅広いサービス価格を巻き込んだ粘着質なものとなっている。市場が織り込む2023年の利下げ期待は行き過ぎではないか。

利下げ観測が後退し、2023年末で5%台のターミナルレート(最終到達点)を示した12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の見方に市場が近づく局面が訪れる可能性が高く、その際にドルも持ち直しに転じるであろう。

また、2023年以降、多くの国でも物価の伸びが縮小するとみられる。物価の伸びが予想や前月実績を下回り、ドル安が進んだCPIショックがドル以外の通貨でも起こりそうだ。相対的な金利水準に照らしても、このままドル安相場が続くとは考えにくい。

<ドル/円、130円割れ後に持ち直し>

以上を踏まえてドル/円相場を展望すると、年初から日銀総裁人事が固まる春先までは、米国の利下げ期待や日銀の緩和修正への思惑からドル/円の下落リスクが高まるとみられる。米国の物価の伸びが縮小する場面などで、130円を割り込む場面もみられそうだ。

一方、次第に米国のインフレの粘着性と日銀の緩和継続姿勢とが次第に意識されれば、ドル/円も持ち直しに転じると考えられる。足元ではやや売られ過ぎの感があるドル/円も、2022年の日次データに限ると、米長期金利が12月23日の水準から約25bp上昇するだけで、145円に達する計算だ。

もちろん、こうした関係性は市場の期待や心理で移ろいやすいが、145円がまだ、それほど遠くはない点にも留意を要する。2023年の米国では利上げの打ち止めが確実な情勢で、年末が近づくにつれて2024年以降の利下げも意識されていこう。

したがって持ち直した後のドルも2022年前半にみられた騰勢を取り戻すには至らないだろう。日銀の政策転換への思惑が一定程度はくすぶり続けるとみられ、弱いなりに2022年よりは円も下げ渋ろう。このため、140円大台の半ばでは上値も重くなり、次第に失速しそうだ。以上から2023年の予想レンジとして、128円から143円をがい然性6割のメインシナリオと置く。

<上下のリスクシナリオ>

次に、上下双方のリスクシナリオも検討しておく。米国の利下げと日銀のYCC見直しが現実味を帯びれば、ドル/円はドル安と円高の双方から強い下落圧力を受ける。その程度にもよるが、最大で120円程度まで想定する必要がありそうだ。

このシナリオの場合、140円の大台を回復することも困難となる。これをがい然性3割の下方向のリスクシナリオとみる。

反対に、資源価格の急反発などにより、米国のインフレ懸念が一気に再燃すれば、金利差の急拡大が見込まれる。交易条件の改善がドル高を促す半面、日本では貿易赤字が拡大し、円安が意識される。

ドル/円が再び150円に迫るシナリオを完全に消し去るのは時期尚早と言え、がい然性は1割と最も低いながら、上方向のリスクシナリオとしては残しておくべきだろう。

2023年を展望すると、様々な地政学リスクの台頭が警戒される。中国情勢をみる限り、新型コロナウイルスもまだ相場のテーマとなり得る。急激な金融引き締めが、様々なバブル崩壊の引き金となることも想定しておかねばなるまい。さらに、英国の事例は先進国でも、国債と通貨の急落が起こり得ることを改めて示した。

結局、2022年がそうだったように、2023年も新たに浮上する材料を踏まえ、不断のシナリオ点検を重ねていくほかないだろう。

編集:田巻一彦

*12月26日までの情報に基づいています。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*内田稔氏は、高千穂大学商学部准教授、ALCOLAB外国為替アナリスト。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2012年から2022年まで外国為替のチーフアナリスト。22年4月から現職。J-money誌の東京外国為替市場調査では2013年より9年連続個人ランキング1位。国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、経済学修士(京都産業大学)。

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