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アングル:ハーグ裁定から5年、止まらない中国の南シナ海進出

[ケイトー(フィリピン) 9日 ロイター] - フィリピンの漁師ランディ・メグさん(48)は、南シナ海で発生する嵐など物ともせずに漁に出ることが多い。だが最近では嵐より怖いものがある。水平線上に現われる、中国海警局の艦艇だ。

オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、メグさんが漁に出る海域において中国が主張する同海域の歴史的権利に法的根拠がないとの判断を下してから5年。メグさんは、中国の艦艇に遭遇する頻度は以前よりも上がっていると話す。

「とても怖い」とメグさんは言う。彼はアウトリガー(舷外浮材)が付いた木造漁船に乗るが、5月には陸から約140カイリ(260キロ)離れた海域で3時間にわたり中国の艦艇に追尾されたという。

メグさんによれば、他の漁師からは、伝統的に彼らの漁場と思っていた海域で漁をしている最中に、衝突されたり放水銃の噴射を受けたという報告があるという。2016年の常設仲裁裁判所での裁定によって安全が確保されるものと期待していた海域だ。

中国外務省は9日、中国政府は同裁判所の判断を受け入れておらず、またこれに基づく要求や行動を容認しないとの主張を繰り返した。中国はいわゆる「九段線」内の海域のほとんどについて領有権を主張しており、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナムとも争いが生じている。

中国外務省はロイターに対する声明の中で、この海域で操業する中国漁船は国内法・国際法を遵守していると述べ、中国が毎年夏に実施する8月16日までの漁業一時停止の対象にはならないとしている。

<排他的経済水域への侵入>

フィリピンの主張によれば、3月に起きた1件だけに限っても、中国の民間武装船200隻以上が、フィリピン沿岸から200カイリまで広がる同国の排他的経済水域(EEZ)に侵入したという。

中国外務省は声明の中で、フィリピンのEEZ内の中国船については触れていない。中国の外交関係者は以前、そうした船舶は悪天候から退避しているだけであり、船員は武装していないと述べていた。

7月9日、フィリピンの漁師ランディ・メグさんは、南シナ海で発生する嵐など物ともせずに漁に出ることが多い。写真は6日、南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)での漁から戻ったフィリピンの漁師たち。パンガシナン州インファンタで撮影(2021年 ロイター/Eloisa Lopez)

ワシントンの戦略国際研究センター(CSIS)のグレッグ・ポーリング氏は、「この海域のデータは非常に明確だ」と述べる。「フィリピンのEEZ内における中国海警局の艦艇と民間武装船の数は5年前よりも増加している」

2020年7月の世論調査によれば、フィリピン国民の70%は、政府が南シナ海における領有権を強く主張することを望んでいる。

フィリピンのロクシン外相は先月の声明で、「我が国の領有権を損なうような、それどころか法律、歴史、我々の集団的記憶から消し去ろうとするような試みは断固として拒否する」と述べた。

2016年以来、フィリピンは係争の対象となっている海域での中国の活動に対して128回にわたり外交ルートを通じた抗議を行っている。また沿岸警備隊及び水産庁の船舶がフィリピンEEZ内で「主権維持を目的とした」哨戒を行っている。

ただ、ドゥテルテ大統領のもとで、フィリピンは領有権主張の動きを外交的な抗議以外にはほとんど見せていない。煽動的なドゥテルテ氏ではあるが、対中関係を外交政策の要としており、圧倒的に規模の大きな隣国に挑戦するのは「無益」であると述べている。

今年初めには一部の閣僚が領有権問題をめぐる発言をヒートアップさせたため、ドゥテルテ大統領は閣僚によるそうした発言を禁止している。

「中国の主導権は強まっている。ドゥテルテ政権が言えるのは、中国側が大きな事件を起こしていない、ということだけだ」と前出のポーリング氏。「いじめっ子に屈服ばかりしていれば、もちろん喧嘩は起きない」

フィリピン沿岸警備隊と国防省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

南シナ海の他の海域でも中国の存在感は増している。防備を固めた港湾や滑走路、地対空ミサイルを備えた人工島の強化も進行している。

ベトナムとの対立はエネルギー開発プロジェクトの後退に繋がった。マレーシアは中国船舶の活動に抗議している。また中国船舶の出没は、厳密には領有権争いの当事国ではないインドネシアでも懸念を呼んでいる。

米海軍は時折「航行の自由」作戦を実施することで中国による領有権主張をけん制しているが、中国によるフィリピンその他の周辺海域への艦艇展開をやめさせる効果は出ていない。

ドゥテルテ氏は2016年に大統領に選出される前、南シナ海におけるフィリピンの領有権主張を守り抜くと述べていた。

ドゥテルテ氏は来年末には1期6年の任期を終えて退任する予定だが、副大統領への就任や娘が後継となる可能性も噂され、政策は変化しないのではないかとの疑念も生まれている。

冒頭のメグさんらパンガシナン州の漁業者らは、今や彼らの動きを左右するようになった中国艦艇に歯向かうという望みはほとんど持っていない。

漁業者のクリストファー・デベラさん(51)は、「今ではまるで、自分たちの裏庭で盗みを働いているような気分だ」と語る。

(翻訳:エァクレーレン)

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