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写真が語る2022年(下)

[23日 ロイター] - ロイターの写真記者は、2022年の最も重要な出来事を目撃してきた。今年撮影された印象に残る写真を、写真記者による裏話と共に紹介する。

ハリケーン「イアン」が広範囲に被害をもたらす中、銃を抱え、家族とともに浸水した道路を歩く男性。9月30日、米フロリダ州ノースポートで撮影(2022年 ロイター/Shannon Stapleton)

(3回シリーズの3)

*遺体の写真が含まれます。

シャノン・ステープルトン記者(米フロリダ州ノースポート)

「その朝はヘリコプターに乗り込み、ハリケーン『イアン』の被害状況を空撮することができた。地上に戻り、甚大な洪水被害が起きているという海岸線へ車で向かった。

日が傾き始め、悲惨な現場が幻想的に照らされていた。さっと右側に目をやると、家から運び出した荷物を手に、乾いた場所を目指して冠水した道路を歩く人々の姿があった。

銃を抱え家族と歩く男性が遠くから近づいてくるのが見えた。すぐに胸まであるウェーダー(胴付長靴)を身に着け、水をかき分けて彼らの方へと向かった。まだ遠くまで行かないうちに、地元住民からアリゲーターや陥没穴に注意するよう声をかけられた。

24ー70ミリレンズのカメラを手に男性に近寄り、金色の光が冠水した地域に差し込む場所で構えた。男性と目が合い、向こうから歩みを進める家族を写真に収め始めた。推測だが、彼が銃を持っていたのは、アリゲーターに遭遇した時に家族を守るためか、彼にとって家から運び出したい宝物だったためではないかと考えた。私たちは言葉を交わさなかった。

フロリダ州では、高額な保険料を払えないために、多くの住民が洪水保険に加入できずにいる。取材対象の人々が全てを失ってしまっているという厳しい現実には、いつまでも慣れることはない。それでも前を向こうとする被災者たちの姿に心を打たれた」

父ビクトル・グバレフさんの遺体のそばで泣き崩れ、パートナーのエフゲニー・ウラセンコさんと母リュボフ・グバレワさんに支えられるヤナ・バチェクさん。ビクトルさんはロシアのウクライナ侵攻による砲撃で命を落とした。4月18日、ウクライナ・ハリコフで撮影(2022年 ロイター/Alkis Konstantinidis)

アレキス・コンスタンティニディス記者(ウクライナ、ハリコフ)

「ある朝、ハリコフの町で新たなミサイル攻撃があったと聞いた。ものの数分で旧ソ連時代に建てられた集合住宅に到着し、敷地内へ入ると、見たこともないほどおびえた表情で建物から出てくる女性がいた。ヤナ・バチェクさんだった。

ヤナさんの父ビクトル・グバレフさん(79)は、パンを買いに出かけたところで砲弾の破片に当たり、自宅近くで命を落とした。爆発の直後にヤナさんは父のもとへと駆け寄り、母親とパートナーに付き添われながら泣き崩れた。救急隊員は遺体を運ぶため、ヤナさんを制止しなければならなかった。

多くの場合、こうした悲劇に巻き込まれた人はすぐに姿を消してしまう。だが、私たちは翌日、ヤナさんを見つけることができた。ヤナさんは英語教師で、ビクトルさんはロシア国営ガス会社ガスプロムの自動車部門のマネージャーを務めていたという。攻撃の直後、母親からビクトルさんがまだ外出していると連絡があった。ヤナさんは父親に電話を掛けたが、応答はなかった。少しして、ヤナさんはビクトルさんの亡きがらの横でひざまずいていた。

ヤナさんに話を聞いた時、ビクトルさんが購入したパンはプラスチックの袋に入れられたまま、まだ廊下のテーブルに置かれていた。 『パンは血だまりの中にあった』と彼女は話した。

『今はまだできないが、手に持ってみたいと思っている。このパンは父の形見だから。父が最期に持っていたものだった』

直接会って話を聞くことで、ヤナさんはただの『遺体の横で泣いている写真の中の女性』ではなくなった。彼女と父親は名前を持った1人の人間で、この写真には世界に伝えるべきストーリーがあるのだ」

看護師が超音波診断装置でサポートする中、人工妊娠中絶手術を行うシェリー・ティエン医師。3月14日、米アラバマ州バーミングハムにある「プランド・ペアレントフッド(全米家族計画連盟)」が経営するクリニックで撮影(2022年 ロイター/Evelyn Hockstein)

エブリン・ホックスティーン記者(米アラバマ州バーミングハム)

「人工妊娠中絶が厳しく制限されているアラバマ州のような地域を飛び回り、手術を行う医師を取材していた。同地の中絶クリニックでは、州外の医師だけで処置を実施しており、患者は超音波検査と48時間の待機が求められた。『メディケイド(低所得者向け公的医療保険)』は、命の危険がある時やレイプ、近親相姦の場合の中絶に限り対応していた。

ここでは、看護師が患者の手を握り、超音波診断装置でサポートする中で、シェリー・ティエン医師(40)が中絶手術を行っていた。処置中、写真にも写っている時計が目に留まった。中絶を巡る女性の選択権が連邦政府に保護されるかを巡って米連邦最高裁判所が判決を下すまで、あと3カ月だった。

全米的に中絶を合法化した『ロー対ウェイド判決』が最高裁によって覆された直後、アラバマ州では命の危険や深刻な健康被害がある場合を除いて、中絶が違法化された。この写真はアラバマ州で最後に行われた人工妊娠中絶手術の記録になったのだろうか、と考えている」

英北部スコットランド・エディンバラにあるホリールード宮殿に到着した霊きゅう車から、故エリザベス女王のひつぎを運び出すロイヤル・スコットランド連隊の隊員。9月11日撮影(2022年 ロイター/Alkis Konstantinidis)

アルキス・コンスタンティニディス記者(英エディンバラ)

「エリザベス女王の訃報が発表された時、私はアテネにいたが、翌朝にはエディンバラに向かった。女王のひつぎは、2日後にバルモラル城から運ばれてそこに到着するとされていた。世界の人が霊きゅう車から運び出された女王のひつぎを目にするのは、これが初めての機会になるはずだった。その夜一晩安置されることになるホリールード宮殿で、私は4カ所ある撮影場所の一つを任された。何千もの人々が、ひつぎを一目見ようと反対側の丘に登っていた。

数時間待った後、ホリールード宮殿へと続く『ロイヤルマイル』を霊きゅう車が進んできた。沿道には女王に敬意を示す人々が集まっていた。これほど大勢の人がしんと静まり返っている様子を見たのは初めてだった。宮殿の中から、霊きゅう車が近づいてくるのを見守った。時間が止まっているように思え、息をのんで待った。

宮殿の門が開いて霊きゅう車が外に止まり、長女アン王女、次男アンドルー王子、三男エドワード王子が母親を出迎えた。アン王女は、母であるエリザベス女王のひつぎを見つめていた。落ち着いていたが、その表情には悲しみが刻まれていた。

何をどう撮るべきか事前に想像していたので、様々な角度から撮影することは難しいとわかっていた。霊きゅう車のドアが開き、ロイヤル・スコットランド連隊の兵士たちが女王のひつぎを運び出していった。彼らが宮殿に入る前に立ち止まった数秒間で、この角度からの写真を撮影することができた。ひつぎを運ぶ隊員の顔には哀悼の意が浮かんでいた。目を閉じて頭を空に向けた兵士からは、特にその様子がうかがえた」

米デラウエア州リホボスビーチで自転車に乗り、集まっていた支持者に向かっていく途中で転倒するバイデン米大統領。6月18日撮影(2022年 ロイター/Elizabeth Frantz)

エリザベス・フランツ記者(米デラウェア州リホボスビーチ)

「米デラウェア州のリホボスビーチでサイクリングをするバイデン大統領の取材は、恒例行事だった。報道陣が位置につき、大統領が側近とともに通過するのを待ち構えていた。最後の一周はシャッタースピードを下げ広角カメラを大統領の動きに合わせて水平に動かし、おもしろい写真を撮影しようとしていた。だが、大統領は報道陣の前を通り過ぎず、代わりにコースから外れ、近くにいた群衆の方へとこいでいった。

人々が一斉に動いた。群衆の中に分け入って絶好の撮影場所を探していると、複数の人が『あっ』と声を上げるのを耳にした。私が人混みで身をかわしていた2秒間のうちに何かが起きたのだ。アドレナリンがみなぎる中、最前列まで向かい、目にしたものを写真に収めた。

米大統領警護隊(シークレットサービス)にウエストを両手でつかまれて引き戻されるまでに、地面に倒れたバイデン氏を4枚撮影することができた。大統領が立ち上がるまで警備員が周囲を取り囲んだため、姿は再び見えなくなってしまった。それで終わりだった。カメラの設定によってぼやけている部分は、転倒場面だけにとどまらず、現場がどれだけ混乱していたかを映し出している。

同僚と話し合い、バイデン氏は自転車を降りようとしてペダルに足をひっかけ、バランスを崩したという結論にたどり着いた。カメラに収められた世界のリーダーを務める79歳の転倒は、注目に値するものだった。ペダルに足を引っかけることは、自転車に乗る人にとってはよくあることだが、その重大さは大統領となると別だ。けがはなかったようだが、この日一日、このニュースがどう展開されていくのか、想像がつかなかった。

私はデータを素早く送信した。この写真は至るところに掲載された」

ドバイ空港に到着し、チームと移動する男子テニスのノバク・ジョコビッチ選手(セルビア)。豪裁判所は、全豪オープン(OP)に出場する予定だった同選手のビザ(査証)を取り消した政府の決定を支持する判断を下していた。1月17日、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイで撮影(2022年 ロイター/Loren Elliott)

ローレン・エリオット記者(アラブ首長国連邦ドバイ)

「ノバク・ジョコビッチ選手は、オーストラリア(豪州)裁判所から2度目の強制送還命令を言い渡され、これ以上の意義申し立てができなくなった。テニスの四大大会、全豪オープン(OP)の開幕を翌朝に控える中、新型コロナワクチンの接種状況を巡って、スター選手の出場が取り消される事態となった。

ジョコビッチ選手がそこへ向かうと見越し、ドバイ便に乗るため空港へ急いだ。私たちは賭けに出て、勝利した。搭乗口を発見し、豪華なラウンジ内で当局職員に取り囲まれているジョコビッチ選手を見つけた。搭乗口へと付き添われる彼を写真に収めることができた。

ドバイに着陸する際はビデオを撮るよう言われていたため、飛行機から降りた後、携帯電話で彼の映像を撮影し、報道デスクに送信しているところだった。動画は十分撮影できたと思い、小型カメラをポケットから出して撮影したのがこの写真だ。

この写真の撮影は、いくつもの理由で困難を極めた。ロジ的なことを言えば、国際線に搭乗できるよう、48時間ごとにPCR検査を受けている必要があったうえ、ジョコビッチ選手がどの飛行機に乗るかを探し出して搭乗しなくてはならなかった。仕事を邪魔されないよう、空港職員をうまくかわす必要もあった。技術的な面では、暗くて対象の動きが速いのに、繊細な状況下だったため目立たない小さな全自動カメラで撮影しなければならなかった。さらに、動画の撮影を第一にこなしながら、写真も同時進行で撮っていた」

(翻訳:大澤優花)

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