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焦点:プーチン氏の核使用巡る発言、「本気」か警戒感強める西側

[ロンドン 28日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領が9月21日の国内向けテレビ演説で、核兵器を使用する用意があると改めて警告した。これにより、果たしてプーチン氏は本気なのか、「はったり」をきかせているだけなのか、という厄介な疑問がずっと切迫した形で世界に突きつけられている。

 ロシアのプーチン大統領が9月21日の国内向けテレビ演説で、核兵器を使用する用意があると改めて警告した。これにより、果たしてプーチン氏は本気なのか、「はったり」をきかせているだけなのか、という厄介な疑問がずっと切迫した形で世界に突きつけられている。写真は27日にソチで撮影。提供写真(2022年 ロイター/Sputnik/Gavriil Grigorov/Pool)

もちろんプーチン氏は、虚勢を張っているのではないと強調している。一方、西側の政治家、外交官、核兵器専門家の間では意見が分かれる。ただ、その一部からはプーチン氏が小型戦術核を使って軍事的な敗北を避け、大統領の地位を守り、西側をおびえさせるか、ウクライナ政府に降服を強要する可能性があるとの声も聞かれた。

プーチン氏は、西側がロシアに対して核兵器を使用する、より具体的な脅威に言及した。これはロシアが部分的にしか占領していないウクライナの4つの地域を併合した後、事態のエスカレーションを検討していることを意味している可能性がある。

実際、同氏の手には、世界最大規模の核弾頭に加え、新世代の極超音速兵器もあり、戦術核の保有数は西側の10倍に達する。それだけに米国や他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、プーチン氏の発言を深刻に受け止めている。 

プーチン氏は21日の演説で、ロシアは領土を守るために「利用可能なあらゆる武器」を使うと表明。「これは決して口だけの脅しではない。そして、われわれを核兵器で脅迫しようとする人々は風向きが変わって、自分たちが同じ目に遭う可能性があると知るべきだ」と言い切った。

これほど率直な物言いは、世界を核戦争の一歩手前に陥らせた1962年のキューバ危機以降、旧ソ連の指導者たちが発信してきたずっと微妙な威嚇のシグナルとは全く異なる。

サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は25日、バイデン政権はプーチン氏の発言を「極めて重大」に受け取り、ロシアが核兵器を使えば「破滅的な結果」を招くと、くぎを刺した。

米政府は今のところ、万が一の場合の具体的な対応策を示していない。ただ、米国も核兵器を行使すれば「核エスカレーション」につながりかねない以上、ロシアの軍事施設に対する通常兵器での大規模攻撃が行われる確率がより大きい、というのが大半の専門家の見立てだ。

米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は27日のCBSテレビで、プーチン氏が核攻撃に向かうか質問されると「彼の威嚇は、非常に深刻に受け止めなければならない」と答えつつ、米国の情報部門はプーチン氏が即時に戦術核使用に動く実際的な証拠は得ていないと付け加えた。

<実戦投入のシナリオ>

プーチン氏が本当にウクライナ領内への核攻撃を命令すれば、太平洋戦争末期に米軍が広島と長崎に原子爆弾を投下して以来、初めての実戦投入とになる。

ウクライナ側の軍事目標を狙って比較的射程距離が短く、出力が小さい核兵器を陸海空のいずれかから発射することは理論的には可能だが、その効果となると専門家の間で議論の対象になる。

プーチン氏にとってもう1つの選択肢として、純粋に威嚇の意味で核兵器をどこか遠くの無人地帯か、海上などで爆発させるという手もある。

ロシアの小型戦術核による放射能被害は周囲約1キロメートルに限られるが、心理面と地政学的な影響は世界全体に広がるだろう。

コロンビア大学で戦争と平和の問題を研究するリチャード・K・ベッツ教授は「プーチン氏は掛け金の大きいチキンゲームを戦っている。私がお金を賭けるなら、恐らく3対2でプーチン氏がたとえ絶望的になっても核使用に踏み切らないと予想する。ただし、これらは必ずしも妥当なオッズではない」と述べた。

<非合理性>

米国がロシアの核兵器動向を注視している表れとして、24日には弾道ミサイルの観測を任務とする偵察機RC135S「コブラボール」が少なくとも2機配置についたことが、航空機追跡データで分かっている。

キングス・カレッジ・ロンドン戦争学部のローレンス・フリードマン名誉教授は、現時点でロシアが核攻撃の準備を加速させている証拠はなく、そうなっても米政府は「かなり素早く」察知するだろうと予想する。

フリードマン氏は、プーチン氏の核兵器に関する警告を軽視するのは間違いだが、プーチン氏にとって新たに編入した地域を守るために核を使うのが合理的とは思わないと主張。「ウクライナが戦闘をやめない姿勢を明らかにしている中で、こんな小さな獲得地のために1945年8月から続いてきた禁忌(タブー)を破ること、たとえ戦闘を止められてもこれらの地域を平和な状態に落ち着かせるのが難しいことからすれば、核戦争を始めようようというのは、とても奇妙に思える」と述べた。

その上で、この状況で非合理的な核兵器使用があるとすれば必然的に、脅威を感じて絶望したプーチン氏の情動的な行為ということになるだろうとの見方を示した。

コロンビア大学のベッツ氏も、ウクライナにとって形勢が有利になればなるほど、プーチン氏が核兵器を使う確率は高まるとみている。

以前にはロシアによる核攻撃示唆をあまり気にしていなかったウクライナのゼレンスキー大統領は、25日のCBSテレビで「昨日までは見せかけだけの脅しだったが、今は現実になり得る」と警戒感をにじませた。

(Guy Faulconbridge記者、Andrew Osborn記者)

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