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焦点:負けられないプーチン氏、ウクライナで展望なき消耗戦へ

[モスクワ 15日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領の構想では、同国がウクライナ侵攻によってついに西側に立ち向かい、歴史が分岐点を迎えるはずだった。しかし、同国のエリート層からは、プーチン氏が無駄に人命と資源を消耗する戦争に母国を引きずり込んだのではないか、と不安視する声が上がっている。

 2月15日、ロシアのプーチン大統領の構想では、同国がウクライナ侵攻によってついに西側に立ち向かい、歴史が分岐点を迎えるはずだった。写真は2022年5月、対ナチス・ドイツ戦勝記念日の式典で、モスクワの無名戦士の墓に献花するプーチン氏。代表撮影(2023年 ロイター)

プーチン氏はウクライナに侵攻した昨年2月24日、速やかに勝利してロシアの歴代皇帝と並ぶ存在として歴史に名を残し、旧ソ連崩壊からの「ロシア復活」を米国に知らしめる心積もりでいた。

だが、目論見は外れた。戦争による死傷者は数十万人におよび、ロシアとその国民は西側から侵略者の烙印(らくいん)を押され、軍隊は米国を中心とする北大西洋条約機構(NATO)の支援に支えられたウクライナの根強い抵抗に遭っている。

プーチン氏の意思決定に詳しいロシア政府高官の1人は、自身の評判に磨きをかけたいという同氏の希望がくじかれたと言う。

「これから先、ウクライナとロシアの両方にとって状況は一層困難さを増し、コストも増えるだろう」と予測。「領地を数カ所征服するのに、これほど多大な経済損失を負うのは割に合わない」と述べた。

その高官によると、多くのエリート層が同じ見解だが、すぐさま報復されるため公言しないという。

プーチン氏の意思決定に近い5人のロシア政府高官によると、それでも同氏の権力の座を脅かすような政敵はいない。しかも、あからさまな造反は完全に抑え込まれているため、プーチン氏(70)は2024年3月の大統領選挙を恐れる必要がないという。

だが、戦争による悪影響はしばらく波紋を広げ続けるかもしれない。

別の高官は「文明世界全体に対するロシアの大規模攻勢や、勝利の可能性を信じてはいない」と明言。ロシアは技術的にも士気の上でも不利だが、それでも戦争は「非常に長い期間」続くだろうと話した。

<プーチン氏の代わりは不在>

今のところプーチン氏への批判が見逃されている数少ない懐疑派の1人、イーゴリ・ギルキン氏でさえ、この戦争の明確な結果は見えないと言う。同氏はウクライナ東部の親ロシア派元幹部で、2014年のマレーシア航空機撃墜事件で国際法廷から起訴されている。

ギルキン氏は「ロシアは完全に逆説的な状況にある」と話す。「代わりがおらず取り換え不可能な大統領が直接組織した、完全に無能な指導部がロシアを動かしている。しかし、大統領が変われば直ちに破滅が訪れるだろう」と説明した。

ギルキン氏にとって破滅とは、敗戦や内戦、外国勢力によるロシア征服などだ。同氏は、秘密主義、意思疎通のお粗末さ、うまく機能しない司令構造などが原因で、ロシアよりずっと小さい隣国から次々と屈辱的な敗退を余儀なくされていることに不満を募らせている。

ロシアは、西側による制裁で甚大な経済的損失も被っている。数十年かけて獲得した欧州天然ガス市場の大部分を失い、おそらく石油価格に上限を設けられたことが原因で、石油生産を今年3月に縮小すると発表。西側企業はロシアから撤退し、経常収支黒字は縮小して財政赤字は拡大した。

米シンクタンク、RAND研究所のロシア専門家、サミュエル・チャラップ氏は「この戦争はプーチン氏がこれまで実行した中で最も大きな跳ね返りを伴う行動であり、ロシアにとって旧ソ連崩壊以来、最も重大な賭けであることは間違いない」と言う。

<負けるわけにはいかない>

何よりも今後の状況を左右するのは戦況だ。米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は、プーチン氏は究極的には時間の経過をあてにしているのかもしれない、と言う。

長官は2日の講演で「私見では、そしてCIAの見立てとしては、向こう6カ月間が極めて重要になる」と予想。ロシア軍は前進できず既に制圧した領土を失うしかない、という戦場の現実が「プーチン氏の尊大さ」に穴を開けるだろうと語った。

だが、ロシアのエリート層の一部は、負けるのは西側であってロシアではないと主張している。

あるロシア政府高官は「大統領はウクライナで勝てると信じている。彼はもちろん負けるわけにはいかない。勝利はわれわれのものだ」と言い切った。

ある西側の上席外交官は「プーチン氏は、死んだりクーデターを起こされたりしない限り、最後まで権力の座にとどまるだろう。今のところ、どちらも起こりそうにないシナリオだ」とし「プーチン氏は戦争に勝てないが、負けるわけにはいかないことを知っている」と続けた。

(Guy Faulconbridge記者)

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