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焦点:緩和マネーで膨らむ自社株買いと内部留保、成長阻害も
2016年3月10日 / 06:58 / 2年前

焦点:緩和マネーで膨らむ自社株買いと内部留保、成長阻害も

[東京 10日 ロイター] - 日本企業の自社株買いが、今年に入って急増している。2015年度は3月上旬までに3.8兆円と12年度の1.4兆円から2.7倍の規模に増加した。

 3月10日、日本企業の自社株買いが、今年に入って急増している。2015年度は3月上旬までに3.8兆円と12年度の1.4兆円から2.7倍の規模に増加した。一方で安倍晋三政権が目指す賃金や設備投資の伸びは相対的に鈍く、355兆円と過去最高に積み上がった企業の内部留保とともに現在の日本経済を象徴する構図になっている。写真は都内で2010年8月撮影(2016年 ロイター/Yuriko Nakao)

一方で安倍晋三政権が目指す賃金や設備投資の伸びは相対的に鈍く、355兆円と過去最高に積み上がった企業の内部留保とともに現在の日本経済を象徴する構図になっている。

この状況が継続すれば、経済成長を阻害しかねないと懸念する声も専門家の間で出始めた。

<緩和マネーが自社株買い押し上げ>

トムソンロイターのデータによると、自社株買いの金額(注を参照)は2012年度の1兆4183億円から13年度に2兆円、14年度に2.5兆円、15年度は3月7日までの時点で3.8兆円に増加した。

背景には、ここ3年の企業業績の好調さがある。15年3月期は過去最高益を記録する企業が続出。法人企業統計によると、15年12月末の利益剰余金は355兆円と過去最高水準に達した。

企業収益の押し上げには、日銀の量的・質的金融緩和(QQE)の効果が大きく貢献したとみられる。ドル/円JPY=EBSが80円台の超円高水準から、いったん125円近辺の円安水準までシフト。輸出企業にとって追い風が吹いた。

また、資金調達環境も一段と改善、そこへ原油安が急速に進み、幅広い業種で原材料コストも低下した。

自社株買いが、株価上昇に寄与する構図は、株価の推移でもうかがえる。今年に入り500億円以上の自社株取得枠を設定した企業は7社。日経平均JPY=EBSがこの間平均で11.2%下落したのに対し、この7社の株価は5.7%の下落にとどまった。

<相対的に伸び悩む設備投資と賃上げ>

一方、みずほ総研・シニアエコノミストの徳田秀信氏は「(企業のカネ余りの)根本的な原因は、投資機会がないことだ。日本経済の成長期待が伸びない中、日本企業の多くは投資先を見いだせない。このことが内部留保や自社株買いの増加の一因になっている」と指摘する。

安倍政権は、収益増加を起点に設備投資や賃上げを企業に求めている。それらの動きが経済活性化につながり、企業収益を一段と増加させるという拡大のメカニズムを描いていた。

実際、アベノミクスの初期には、株高による資産効果で高額消費やプチぜいたく消費など、個人消費が活気づいた。

ただ、そのプラス効果は株高局面での一時的な現象にとどまり、その後の消費増税による消費停滞に直面。その要因は賃上げによる実質所得の回復が伴わなかった面が大きい、との分析が政府部内にある。

設備投資も収益増加の割に緩慢な伸びにとどまっている。法人企業統計によると、15年の設備投資はプラス8%。金額ベースでは昨年1年間で43兆円程度増加。

もし、自社株買いに費やされた3.8兆円の資金がそのまま設備投資に上乗せされたと仮定すれば、おおむね9%程度押し上げ効果があったはずだ。

この9%という数字は、リーマン・ショックで落ち込んだ08年度の反動増で大幅に増えた09年度の19%以来の大きさだ。

<好循環へ分水嶺>

緩和マネーが自社株買いにシフトすることの「功罪」について、ニッセイ基礎研・経済調査室長の斉藤太郎氏は「株価が下がって株が買いやすい時に、利益を自社株買いに向けるのは、企業にとっては合理的な投資判断かもしれない。ただ、それが行き過ぎると、投資や消費が増えて経済の好循環につながるというアベノミクス本来の目的にとって、阻害要因になるだろう」と指摘する。

政府部内には、内部留保が過去最高水準に積み上がっていることに対し、景気拡大の障害になりかねないと懸念する声も出始めた。

ある政府関係者は「ベースアップで恒常的な所得を上げないと、消費に結びつかない」と指摘。企業は賃金押し上げに資金を振り向けるべきだとの考えを示している。

積み上がる内部留保と増加する自社株買い。対照的に伸びが鮮明にならない賃上げと設備投資。アベノミクスが目指す国内総生産(GDP)600兆円を達成するには、この2つの現象が変化することが欠かせないという見方が、経済の専門家の間で急速に広がっている。

(注)トムソンロイターの自社株買いデータは、 自社株買いをする株式数が公表されている場合は、発行済み株式数の5%以上の(株数の)買付け、(買付)株式数が公表されていない場合は、100万米ドル以上(ドル換算)、または時価総額3%超以上の買付けの場合のみを扱っている。

*見出しを修正しました。

中川泉、梶本哲史 編集:田巻一彦

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