[東京 22日 ロイター] - 8月ロイター企業調査によると、日銀の2%物価目標について「達成不可能」との見方が昨年10月調査の25%から31%に増加した。コストの価格への転嫁に「二の足」を踏む企業が多く、政府の経済対策などの対応なしにデフレから脱却するのは難しいとの見方が背景にある。
このため現状の金融緩和の維持ないし強化への支持が過半数を占め、物価目標も5割強が維持すべきとした。
他方、緩和効果の限界を理由に2%目標の引き下げや取り下げなどで、超金融緩和政策の出口に向かうべきとの声も4割を占めた。
この調査は、資本金10億円以上の中堅・大企業400社を対象に8月1日─16日に実施。回答社数は250社程度。
<物価目標達成「可能」は後退、緩和維持への賛同は半数以上>
日銀の物価目標2%が「達成不可能」との回答が25%から31%に増加した理由については、「人口が減少して売り上げが伸びない現状では、デフレ脱却はできない」(繊維)、「ほとんどの国民がデフレを期待しているので、脱却は無理」(サービス)との指摘がある。
また、政府・日銀に対して「少子高齢化に対する具体策などが乏しく、消費が拡大するとは思えない」(その他製造)、「長期金利のイールドカーブコントロール(の水準)がまだまだ低く、デフレ脱却に本気なのか疑問」(金属製品)との声もある。
逆に、「1年以内」「2年以内」「3年以内」に達成するとの回答もそれぞれ増え、合わせて32%を占めて前回調査の27%から増加した。
景気回復や輸送コスト上昇の広がりを予想してして「3年後以降」とみていた企業の一部が、早期達成にシフトした影響も出ている。
もっとも、その前提として「消費を促す政策の実施」(ゴム)や、「過当な値下げを要求してくる企業には政府が対策をとるべき」(食品)など、政府の政策対応を求める声が多く、物価上昇を実感した回答は少なかった。
2%物価目標自体も、デフレ脱却までの期間長期化予想を反映して「維持すべき」、「目標を引き上げるべき」が合わせて55%と過半数を占めた。
他方で「目標を引き下げるべき」は20%、「目標設定をやめるべき」も24%となった。
今後の金融政策の方向性について「物価目標達成の成果が出るまでには相当の時間が必要であり、達成まで金融緩和を継続すべき」(不動産)として、「現状維持」への支持が46%、「さらに緩和を強化すべき」との回答が14%を占め、合わせて6割が緩和政策を支持している。
しかし、「出口に向かうべき」との回答も4割を占めた。その理由として副作用への懸念があり、「金融緩和に頼る政策には限界があり、このまま続けるとカネは実体経済に回らず、金融市場で投機に使われるだけ」(建設)、「円の実質価値低下は、長期的に日本経済にマイナスの影響を与える」(小売)などと指摘されている。
<人件費上昇企業は6割 値上げ実施は25%>
デフレ脱却には「賃上げ」と「値上げ」といった企業自身の行動が影響する。
賃上げについてはこの1年間、人手不足や働き方改革などにより66%の企業で人件費が増え、上昇幅はおおむね1─5%程度。
具体的には、ベースアップや賞与増の実施を挙げる企業が多く、賃上げはそれなりに浸透している。
他方、そうしたコストの吸収には、省力化投資や組織見直し・社員研修、時間外手当の削減、採用抑制で対応している企業が多い。
人件費増や原材料費上昇などを反映させ、今年度に主力商品の実質値上げに踏み切る企業は25%、4社に1社となった。
企業にとって、値上げのハードルは高い。「価格競争があり、値上げすれば必ず売り上がが減少する」(機械)、「値上げは客単価増と客数減につながり、売り上げ微増となるにすぎない」(小売)というのが基本的な見方。
それどころか、「自動車メーカーからの強い価格低減要請により、値上げは期待できない」(輸送用機器)、「値上げよりも、コストダウン要請が強く、苦慮している」(金属製品)といった状況も幅広く見られる。
「製品自体に魅力(差別化要因)がなければ、値上げは売り上げ減に直結するため、独自性と消費者へのPRが重要」(食品)との考え方は、汎用品にはなかなか浸透しにくいようだ。
中川泉 編集:田巻一彦
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