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コラム

コラム:欧州のロシア産軽油輸入停止、成否握るのは中国

[ローンセストン(オーストラリア) 13日 ロイター] - 欧州諸国が本気でロシア産の原油と石油精製品の輸入を来年初頭までに全面停止するならば、成否の鍵を握るのはアジアであり、より具体的に言えば中国だ。

9月13日、欧州諸国が本気でロシア産の原油と石油精製品の輸入を来年初頭までに全面停止するならば、成否の鍵を握るのはアジアであり、より具体的に言えば中国だ。写真は独ケルンのディーゼル給油施設で3月撮影(2022年 ロイター/Wolfgang Rattay)

欧州連合(EU)は5月、ウクライナに侵攻したロシアへの制裁措置の一環として、海上輸送のロシア産原油の輸入を12月までに停止し、さらにその2カ月後に同精製品の輸入を止めることで合意した。

問題は軽油で、石油市場全体の供給量は欧州で発生しそうな不足の穴埋めに不十分だ。欧州はこれまでのところロシア産への依存を断ち切れないでいる。

調査会社ケプラーのデータによると、ロシア産軽油は8月の海上輸送による欧州向け輸出が日量54万3000バレルで、実際のところ前年同月の同52万バレルから増加した。

ロシアは2月のウクライナ侵攻後、欧州向け軽油輸出がおおむね侵攻前の水準で推移しており、8月は最低水準で、最高は4月の日量68万1000バレルだった。

欧州はアジアの製油所からの軽油輸入を増やそうとしており、ケプラーのデータによると、8月はアジア製油所の海上輸送による欧州向け輸出が36万5000バレルと、3月以来の高水準だった。

軽油が欧州に流れたことにより、アジアで軽油の精製マージン(原油との価格差で、原油から石油製品を精製する際に得られる粗利益)が上昇しているのは間違いない。12日の終値ベースで見ると、シンガポールの製油所で軽油やジェット燃料の原料となるガスオイルを1バレル製造する際の利益は42.83ドル。これは6月24日の同68.69ドルと比べると低いが、前年同期の6倍で、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日の16.07ドルを166%上回っている。

欧州がアジアから調達する軽油を増やそうとすれば精製マージンはさらに上昇する公算が大きく、燃料用一般炭と液化天然ガス(LNG)が過去最高値となっている欧州でインフレと経済成長を巡る懸念が高まるだろう。

<鍵は中国>

市場での論点は、欧州にロシア産の原油と燃料、特に軽油の輸入を断つ有効な手段があるかどうかだ。

原油は、中東やアフリカ、南北アメリカの輸出業者の欧州向け出荷の能力や、ロシアがアジアの買い手、とりわけ中国に向けた輸出を増やす能力を考えると、ある意味でロシアから調達先を変えるのが容易だ。

問題は軽油で、こちらは問題の解決がかなり難しい。

ロシアは欧州以外の国への軽油輸出を増やすことが可能かもしれないし、アジア産の購入で競り負けそうなアフリカ諸国向けについては特にそうだろう。

しかし、こうした輸出先の変更で問題が完全に解消することはなさそうで、全ての関係者にとってもコストが上昇する結果になるだろう。

必要なのは世界的に海上輸送による軽油の供給を増やすことであり、その鍵を握るのが中国だ。

中国は、独立系製油所を統合する意向や製油所のエネルギー利用抑制、さらには原油高による輸入への影響などさまざまな要因が重なって、政府が精製品の輸出割り当てを減らしており、今年に入って精製品の輸出が大幅に落ち込んでいる。

中国の軽油輸出は今年に入って減少しており、通関統計によると7月の出荷はわずか36万トン、日量では8万7000バレル程度だった。

今年1─8月の軽油輸出は日量平均8万5900バレル。昨年は通年の日量平均が31万5000バレルだった。

中国の軽油輸出が、同国の生産能力の範囲内である日量50万バレル程度まで増加すれば、世界的な供給ひっ迫の圧力が緩和される。

中国は割安なロシア産原油を購入し、精製燃料の輸出で高い精製マージンを手に入れることができるため、軽油の輸出を増すことができれば政府にとって経済面では勝利となるが、利益以外にも考慮すべき要因がある。

中国政府はロシアのプーチン大統領寄りの立場を採っており、ロシアの石油輸出収入を断つ欧州の動きを助けたと見られるのは気が進まないだろう。

同様に、中国は製造業が欧米諸国への輸出に依存しており、政府としてはエネルギー価格高騰で世界経済が景気後退に入るのも避けたいだろう。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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