for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up
コラム

コラム:ロシアではうそが武器、ドーピング問題は氷山の一角

[19日 ロイター] - 来月5日開幕するリオデジャネイロ五輪において、ロシアの参加が禁じられる可能性がこれまで以上に高まっている。ロシア選手団が運動能力向上薬を広範に使用していたとして、国際オリンピック委員会(IOC)は制裁を課すことを検討している。

 7月19日、来月5日開幕するリオデジャネイロ五輪において、ロシアの参加が禁じられる可能性がこれまで以上に高まっている。写真はフィンランドのナーンタリで記者会見するプーチン大統領。1日撮影(2016年 ロイター/Lehtikuva/Jussi Nukari)

IOCが、ロシア陸上選手の五輪参加の可否について、スポーツ仲裁裁判所(CAS)が今週下す裁定を待つなかで、他競技でも国ぐるみで行われていたドーピングの実態を詳細に示す新たな報告書が18日、公表された。

ロシアのプーチン大統領の反応は効果的だった。東西冷戦時代の五輪ボイコット合戦を振り返りながら、「われわれはスポーツへの政治介入という危険な再現を目にしている」と語った。ロシア選手は最高の基準を満たしていると大統領は述べ、報告書の背後に米国の反ドーピング機関が存在するとの見方を示した。

実際、ドーピングスキャンダルは、より大きな問題の兆候に過ぎない。つまり、プーチン支配の特徴となっている真実に対する平然とした無視だ。選挙が不正操作され、裁判がでっち上げられ、さらに国営テレビが終日うそを流すような国で、一般市民がいったい何を信じるべきかを知ることは難しい。政治に限らず、腐敗はスポーツ大国としてのロシアの評判をおとしめるだけでなく、高等教育で高い評価を得ていた威信を傷つけている。

プーチン大統領は2014年のロシアによるクリミア軍事介入を当初否定し、その後認めるに至った。これは「結果よければすべてよし」というロシア政府の考えを如実に証明するものだ。これには多くのロシア人が賛同しているようにみえる。

ロシアの独立系調査機関レバダ・センターが2015年4月に行った世論調査によると、回答者の37%がロシア政府を信じ、同国が東ウクライナに軍事介入はしていないと思っていた。また、ほぼ同じ割合の38%が「たとえウクライナにロシアの兵隊や軍装備品があったとしても、現在の国際状況において、ロシアがその事実を否定することは正しい政策だ」と回答。ロシアによる軍事関与を否定することは緊張を高め、紛争解決を妨げるとの回答は11%だった。

さまざまな敵に対するロシアの「ハイブリッド戦争」において、うそは武器の1つとなってきた。政府の擁護者が使うお気に入りの弁明は「誰もがやっている」だ。イラクの大量破壊兵器について米政府の誤報を最も顕著な例として挙げている。

もちろんロシア人だけが他の誰よりも言い逃れをする傾向があるわけではない。西側政治家も日常的にうそや不正行為が明るみになっている。

米共和党の大統領候補に指名されたドナルド・トランプ氏は上機嫌で真実を偽って伝えているが、これは事実の精査よりも個人の偏見を優先する怠惰なアピールだ。しかし選挙において、「トランプ流」の有効性はまだ確認されていない。一方、プーチン大統領のロシアでは、うそは長年、システムの一部となってきた。

ロシアの政治文化は、旧ソビエト連邦時代に起きた不信に根付いている。その当時は筋金入りの共産主義者でさえも、プロレタリア独裁の理想と現実のギャップを否定できなかった。人々の生活を惨めにするためにあるような不道徳なシステムを悪用することについて良心の呵責(かしゃく)を覚えることはなかった。さらに、共産主義の終焉と資本主義への混沌とした移行に伴う物不足のなかでは、規則を曲げることが生き残り戦術となった。

最も弱い立場の人々を守るべき規則や法律、機関が存在しないなかで、最も計略に長けた者が先に進み、ロシアの経済的な豊かさを手にした。過去30年間におけるロシアの経験では、誠実さはしばしば極貧を意味してきた。

チェコのハベル元大統領といった共産主義時代の反体制派は、恐怖とうそによって築かれたシステムの悪影響を説いた。「うそは、他のうそから決して私たちを守ってはくれない」と劇作家から政治家に転身したハベル氏は語る。抑圧的な政権を克服する最善の方法は「真実に生きる」ことだと説いた。1989年の平和的なビロード革命を率いたハベル氏は大統領に就任し、その後はプーチン氏に対する最も厳しい批判家の1人となった。

ロシアでも5年前、ビロード革命的な節目があった。それは、あらゆる階層のモスクワ市民が公正な選挙の実施と、組織化されたうその撲滅を要求し、プーチン大統領を驚かせたときだった。頑強な共産主義者やロシアの国家主義者もデモに参加してはいたが、その勢いは、ヨーロッパ人のように自由で誠実な生活を望んだ中流階級のモスクワ市民が主導していた。

ロシア政府はさらなる抗議運動を阻止するために活動家を訴訟に巻き込んだり、運動リーダーたちが特に優れていないことを示すために犯罪捜査を開始して彼らのイメージを傷つけたりした。プーチン大統領が住む世界は、汚れた二股の裏切り者であふれる危険な場所だ。失敗や驚きはたまたま起きるものではなく、米国務省や米中央情報局(CIA)にいる同じようにひねくれた敵対者たちが引き起こすものとなっている。

うそに対して事実で応えることは、しばしば真実を単なる意見に弱めるという意図せぬ結果をもたらす。そのような対処法は、もともとのうそに劣らず効果的だ。結局のところ、皮肉がはるかに効果的な武器なのだ。

6月のサッカー欧州選手権でウェールズがロシアを3─0で破ったとき、ロシア国内のネット上では、次のようにプーチン大統領が語ったという情報が広まった。「彼らは私たちの選手ではなかった。ユニフォームはどの店でも買うことができる」。この参照元は、2年前にクリミアを占拠した軍隊はロシア軍ではなく、余っていた軍服を着た地元民だったとする、プーチン大統領の有名なうそだ。

*筆者は1996年以降、ドイツや東欧、旧ソ連諸国からリポートを続け、コソボやアフガニスタン、ジョージアやウクライナの紛争を取材。ブルームバーグのモスクワ支局やクリスチャン・サイエンス・モニター紙のベルリン支局で特派員を務めた経歴を持つ。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up